43-14.初作品
「ついに完成したわね」
「良いじゃねえか」
「やったね!」
私達の初めての作品は極めてシンプルなものだった。シーちゃんが提案してくれた通りに、アニメーションも無い紙芝居形式の数枚のイラストに音声を付けただけの作品だ。
内容も特段凝ったものではない。単純明快。スキルを貰った一人の少女の成長と、たった一度の冒険を描いたものだ。
少女は世界を救ったわけでも溢れんばかりの金銀財宝を手にしたわけでもない。その小さな手の平に収まる程度の些細な幸せを掴み取っただけだ。これからも前を向いて歩き続けようと決意しただけだ。
スキルとはそんな風に人々を勇気付けるものであってほしい。少しだけ前向きに、小さな幸せを願える自信をつけさせてあげたい。神のそんな願いが伝わるようにと想いを込めて物語を練り上げた。
きっとセレネ達も気に入ってくれる筈だ。ニクスも同意してくれる筈だ。テオちゃんも絶賛してくれる筈だ。そう確信出来る作品に仕上がったと自負している。
早速三人を深層に呼び寄せて試写会を行った。
「没」
「ちょっと違うかな」
「ごめんね。頑張ってくれたのは伝わったよ」
「「「なっ!? なんで!!?!?」」」
「小さく纏まりすぎよ。これではスキルのメリットも伝わらないわ。何より派手さが足りないの。言ったでしょ。これを皆は広場に設置されたスクリーンで観るのよ。人々が思わず足を止めたくなるような勢いが必要なの。吟遊詩人や紙芝居屋を見た事はあるでしょう? 彼らだって楽器による演奏や身振り手振りで印象を補強するものよ。これだってBGMや効果音が無いわけじゃないけど全体的に話しの内容が平坦過ぎて起伏の高さが足りないの。もっと派手な冒険譚にしてしまいなさい。ドラゴン退治くらいはしちゃっていいわ。フィクションだとわかるように吹っ切れてしまいなさい。多少大げさで大丈夫よ。人間頑張ればドラゴンくらい倒せるものだから。その程度の夢は見せてあげなさい」
「「「は~い……」」」
「ほら。落ち込んでる暇なんて無いわよ。ついでだから私達も手伝うわ。さっさと一本仕上げちゃいましょう」
こうして薄幸少女のハートフル冒険譚は敢え無くお蔵入りと相成った。
代わりに誕生したのは活発少年の痛快娯楽冒険譚だ。スキルを手にした主人公は次々と強敵を打倒し、最後には巨大なドラゴンと派手な死闘を繰り広げた。
僅か数分に詰め込まれたその物語はスキルそのものよりも前向き過ぎる少年の牽引力によって引っ張られ、よくよく考えると地味で大した事のないスキルが、さも特別なものであるかのようにも見えてくる不思議な説得力を備えていた。
「結局殆どセレネが作っちまいやがった」
「あんな才能があったなんて驚きね」
「流石セレネ姉ちゃんだよね!」
でも多分あれ、主人公のモデルはクレアよね。性格はエリスっぽかったけど。戦い方とかはまるっきりクレアだった。それに内容もなんとなく聞き覚えがある気がする。私とクレアの昔の出来事から抽出したっぽい。
「さあ! 落ち込んでる暇は無いわ! 次こそ私達の手で最後まで完成させるわよ!」
「おう! 負けてられねえぜ!」
「頑張ろ~!!」
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「いいわ。今回はバッチリね。少しだけ修正してもらったら受け取るわ」
やったぜ!
なんて喜んだのも束の間。セレネから挙げられた修正箇所は全然少しじゃなかった。殆ど作り直す勢いで手を加えてから、ようやく二作目の納品が完了した。
「次は……」
そうして今度は三作目、四作目と指示を受け、再び深層に籠もって映像制作に明け暮れた。
「おかしいぜ。私達は深層で作業してんだ。いい加減セレネの指示が途切れなきゃ変だぜ」
「ボヤかないの。セレネは何時だって考えているのよ。きっと試写会の最中も次の方向性について考え続けてるの」
「このままじゃ永遠に終わらないって事? 私だけお婆ちゃんになっちゃうよ……」
「その前に寿命止めてあげるから。けど流石にマリアさんを追い抜いちゃうのはマズいわよね。かと言って今更エリス抜きで続けられる気もしないし」
「えへへ♪」
エリスちゃんはとっても優秀なのだ。なんなら私やクレアより的確にセレネの思惑を汲み取ってくれるのだ。段々その確度も上がっている。
「そろそろニクス世界の時間で過ごすべきね。きっと急ぎの分はもう直終わるでしょうし」
「そうだな。もう一踏ん張りだ」
「頑張ろ~! お~!」
かわいい。