43-13.新しいお仕事
「採用。幾つか撮りなさい。大至急」
「さーいえっさー」
速攻で可決されてしまった。私達留守番組の仕事が新たに盛り込まれる事となった。
「テーマはこちらから指定させてもらうわ。一つはオーソドックスな戦隊モノよ。なんだったらアルカの記憶から抽出した映像の垂れ流しでもいいわ。ただし敵は邪神と呼称して。シイナなら上手く編集出来るわよね。それからスキル関連の話も欲しいわ。こちらもアニメの再編集版で構わないわ。良さげな話を見繕ってみて。私達も確認して内容に問題が無ければ先ず広場で試験的に流してみましょう。スクリーンの設置はこちらで済ませるわ。映像データの準備だけ頼むわね」
テキパキと指示が飛んできた。一先ずで二作品用意するようにとのお達しだ。これは勿論今後も要求が追加されていくのだろう。忙しくなりそうだ。
「ニクスは良いの?」
「まあ、うん。これくらいなら。ギリ」
ニクス的にはやっぱり微妙なラインらしい。むしろ本来ならアウトな範疇なのだろう。けれどある程度はセレネ達に任せる事にしたようだ。ニクスも寛容になったものね。
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「さて。いっちょやったりますか!」
なんだかんだと面白そうな仕事ではある。私達の役割はニクスとスキルと邪神について民衆に正しく伝える事だ。その要点だけを守れば後は好きにしていいわけだ。当然最初はスピード勝負だからあまり時間をかけてもいられないけれど。
きっとセレネ達も何かしら放送するつもりだ。アニメとドラマはあくまで最初の一歩だろう。民衆にテレビという存在を知らしめる事も大切な役目だ。
ただし当面はギルドを刺激しないよう、ラジオの話の時と同じく端末の普及まではしない筈だ。広場に設置する大型スクリーン一つだけに留めるのはその為だろう。
なら映像の見せ方も工夫しなくちゃだ。三十分は長すぎるかも。道行く人が少しだけ足を止めて観れる程度に収めなくちゃだ。これは結構な難題かもしれない。
「という事で。クレア♪ エリス♪ カモン♪」
早速二人を連れて深層へとやってきた。
「今から強化合宿よ! 二人にアニメと戦隊モノとは何たるかを改めて叩き込むわ!」
「「お~!」」
よしよし♪ 良い反応♪
「どうせ深層使うならノアも呼んでやったらどうだ?」
「いいのよ。これは私達の仕事なんだもの」
「けどどうせ後で巻き込むんだろ? 自分達で撮るようになったら演者が必要じゃねえか」
「その時はフィリアスの皆やプロトちゃんに頼めばいいじゃない。そもそも私達が演じなくたってシーちゃんならそれっぽい映像作れるでしょ。アイリス使ったっていいんだし」
どうせ撮影のセットとしてもアイリスは使うんだもん。演者だってそっちで用意しちゃえば手っ取り早い。NPCなんて便利な存在がいるんだし。
「それは話が違えだろ。どうせなら私らも何かやろうぜ?」
「監督も大切な仕事よ。演者がやりたいならクレア達も参加させてあげるから。それで満足して頂戴」
「そういう事じゃねえんだけどなぁ。どうせ監督なんて偉そうな事言ったって実務は殆どシイナに押し付けんだろ? ならいっそアルカも一緒に楽しもうぜ♪ お芝居が気に入らねえってんならアイリスで遊ぶだけでも良いじゃねえか♪」
なるへそ。それが本音か。
「一緒にやろ! アルカ様!」
くっ! エリスまで!
「だ~め。そういうのは諸々上手く動き出してからね。今回はあくまで布教用の作品を作るの。真面目なお仕事なんだから聞き分けて頂戴」
「しゃあねえな。そこまで言うなら我慢してやるぜ」
「頑張るね! アルカ様!」
「はい。二人とも良い子ね♪ さあ♪ 先ずはお勉強よ♪」
最初は二人にもアニメやドラマがどういったものなのかしっかり知ってもらわなきゃね。クレアは結構観てるみたいだけど、それも多分ジャンルは限定的でしょうし。今後の事も考えたらあらゆるジャンルのものを満遍なく知っておくべきだ。
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「「「……飽きた」」」
まあ、うん。ぶっちゃけぶっ通しで続け過ぎたわね。もう少し適度に休憩を挟むべきだったわ。
「身体動かしに行こうぜ」
「行く!」
「いってら~」
私は今のうちにシーちゃんと作戦会議でもしておこう。
「どんなお話がいいかしらね。今見た中に参考になりそうなのはあったかしら」
「もう少しわかりやすい内容がよろしいかと。専門用語等は極力省いて単純な物語を構成しましょう。むしろニクス世界でありふれている童話や昔話の類を紙芝居形式で流した方が受け入れやすいかもしれません」
「そうね。向こうの世界のアニメだと世界観の説明とかだけで時間をとってしまうものね。誰もが既に知っているものをベースにすべきよね」
ならエリスに聞くのが一番かしら。でもムスペルとモントニャハトじゃ随分と離れているものね。ここはヴィルマちゃんの意見も聞いてみる?
「でも今回はあの国の人達だけが対象なんだし、教会の教えを元に物語を作ってもいいのよね」
「それも良き考えかと」
セレネはアニメやドラマの翻訳とかだけして垂れ流せって言っていたけれど、それはあくまで時間をかけるなという意味なのだろう。時間の流れの違う深層を使って制作するなら気にする必要は無い筈だ。でも念の為確認しておこう。クレアとエリスが戻ってきたら一度ニクス世界に戻るとしましょう。
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『ダメよ。あくまでフィクションとして作りなさい。教会やニクスについて言及するのは無しよ。ただスキルという存在を民衆が知れればそれでいいの。邪神の件も同様よ。けど先ずはスキルの方に絞って一本提出なさい。時間はアルカの言う通りでいいわ。長くても十分以内に纏めなさい』
『あいあいさ~』
そっか。ダメなんだ。なんで?
『わからない事はちゃんと最後まで質問なさいな。別に忙しいからってアルカの事を邪険になんてしないわよ』
『はい』
仰るとおりです。
『なんで関連付けたらダメなの?』
『いずれは映像の制作を民にも委ねるからよ。映像の中でならニクスを好きに扱って良いなんて前例を作ったら皆が勘違いしてしまうでしょ。例え賛美する為のものだとしても独り歩きされるのは困るの。タブーは今のうちから定めておかなくちゃね』
ふむふむ。
『でも他の神様がスキルを与えるのはいいの? と言うか他の神様を登場させちゃっていいの?』
『明言は避けて頂戴。ニクスと明らかに容姿の違う者が登場するのは構わないわ。けれど神の名を出すのはダメよ。あくまで神という呼称で通しなさい』
『複数の神が存在するかもって教えちゃっていいのね?』
『そうよ。邪神だってそうでしょ。目的は民を騙す事ではないわ。ただ真実を小分けにして伝えるだけ。その上で伏せるべきを伏せましょう。神が複数存在する事自体は伝えるべき事柄よ。いずれ邪神も偽神も敵なのだと認識させなくちゃならないわ。神もそこだけは人と同じなのだと教えてあげましょう。良い神もいれば悪い神もいる。それを受け入れてもらう為の下地を作ると考えなさい』
『がってん』
『他にも何か気になったらすぐに聞きなさい』
『は~い』