43-9.娘達の成長
「スキルの付与なんてどうかしら?」
「説明して」
よかった。興味を持ってもらえた。またバッサリ切り捨てられるかと思った。
「ニクスにお願いすればスキルが貰えるって制度を作るの。当然私がニクスに貰った『望む魔法を創る能力』みたいな強力なものは必要無いわ。簡単な初級魔法を補助するとか、身体能力を少し上げるとか、身体を綺麗にするだけとか、何か少しだけ皆の生活が良くなるようなスキルを与えてあげるの」
「悪くないわね。ニクスの信仰も広めやすくなるわ」
「内容次第では多くの冒険者達も味方につけられるかもしれない。上手くすればギルドの動きも阻害できるかな」
ふむふむ。そういう副次効果もあるのね。適当にそれっぽいのをアニメやネット小説を参考に言ってみただけだけど、存外良い作戦なのかもしれない。
「それなら元手もゼロよ。宣伝を条件に収納系のスキルでも与えてやれば商人達がこぞって集まってくるでしょうね」
スキル付与で利益を得る事は出来ないだろうけど、人さえ集まれば観光地としてのノウハウが役立つもんね。集まった人達にお金を落としていってもらえればこの国も豊かになる筈だ。しかも唯一無二。神がおわすこの地だからこそのイベント事だ。開発予定の港町だってすぐに人が集まるだろう。
「収納スキルはやめておきましょう。変な犯罪が増えそうだもん」
「普通の人が努力で到達出来る程度のものがいいね」
「あまり渋過ぎても人が集まらないわ」
「本当に心清らかな子には特別なスキルをあげるとか?」
「いずれスキル目当ての誘拐なんかも起きるでしょうね」
そっかぁ……。そういう犯罪も増えちゃうのかぁ……。度し難いなぁ……。
「ともかく骨子としては完璧よ。細かい事は任せなさい。ニクスの説得も私が請け負うわ。早速帰らせてもらうわね。城の件は任せたわ」
言うなりセレネはマインを回収しつつヴィルマちゃんを引き連れてあっという間に去っていった。大してヴィルマちゃんと話しが出来なかったのは残念だけど私も帰るとしよう。
「もう行ってしまうのかい?」
「お仕事頑張って。テオちゃんの事もまた見守ってるから」
「ふふ♪ なら期待に応えないとね♪」
テオちゃんが相手してくれると言うならもう少し残りたいところではあるけど、あまり邪魔するのも良くないからね。
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「次は何処を見てみよっか」
「ギルドはどうだ? ノアが何してるか気になんだろ?」
「そうね。なら今度はアメリの視界を借りるとしましょう」
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「やってくれたなぁ……」
「そのボヤキ何度目ですか? いい加減切り替えてくださいよ」
「お前達のせいで滅茶苦茶だ。どうして私に相談してくれなかったんだ」
「極めて緊急性が高かったのです。それに正直カリアさんは信用できません」
「酷い言い草だ。数少ない戦友だってのに」
「よく言いますね。本気で私達に加わりたいなら素直にそう言えば良いのです。お姉ちゃんが来れなくなったからって今更不安になったのですか?」
「なあ。お姉ちゃんってシエルの事だよな?」
「今はミユキさんです」
「何で呼び方変えたんだ?」
「ふふ♪」
ノアちゃんがカリアさん虐めてる……。それとも煽って勧誘してるだけ? でもカリアさんの目的はお姉ちゃんだしなぁ。私には興味ないだろうしなぁ。勿論ノアちゃんが本気で仲間に加えたいって言うなら前向きに検討するけどさ。
「それよりギルドの動きはどうです? こちらもカリアさんにはある程度の情報を流しているのですから、そろそろ何かしら成果が欲しいところですね」
「無茶言うな。まだ数日はかかるに決まってるだろ。こっちはお前達みたいに転移だなんだは使えないんだ」
「メッセンジャーなら何時でも請け負いますよ」
「お前達のせいで"ティア"も使えなくなったんだろうが。今は大人しくしていろ」
「そうですか。ならば協力関係も潮時でしょうか」
「見捨てる気か?」
「あなたこそ切り捨てるべきでは? 今ならまだ知らなかったで通せる筈です」
「バカを言え。そんなわけがあるか。むしろ私はとっくにお前達の仲間だと思われてるだろうよ」
「まあアルカが冒険者の頃から良くしてくれていたんですもんね」
「だってのになぁ。恩知らずはこれだから。ああやだやだ。どうして私ばっかり振り回されねばならんのだ」
「先に私達を利用しようとしたのはカリアさんの方じゃないですか。勿論お姉ちゃんの件では同情してますけど」
「同情なんか要らん。信頼を寄越せ」
「なら仲間に加わりますか?」
「私はとっくに味方のつもりなんだがな。なんだったら家族と呼んでもらっても良い筈だ。私だってシエルの娘みたいなもんなんだし」
「以前は否定したじゃないですか」
「事実は事実だ」
「そういうところが信用できないと言うのです」
「残念だ」
「勘違いしないでください。私達が全てを明かすのはアルカの家族にだけです。家族の家族も大切ですが巻き込むつもりはありません。私達と共に永遠を生きる覚悟が決まったならその時また改めて踏み込んでください」
「絶対こき使われるだろ」
「ええ。間違いなく。先日加わったばかりの方も今や一国の主ですから」
「やだなぁ……もう休みたい……」
「それが理由ではないでしょう」
「すっかり生意気になっちまいやがって」
「お陰様で色々と経験を積ませて頂きました♪」
「育て方を間違えたなぁ……」
「ええ。間違いなく私を育ててくださった方の一人はカリアさんです。つまりカリアさんには責任があるわけですね♪」
「勘弁してくれ。私にそんな覚悟は無いんだ。世界を引っ掻き回すのはお前達だけでやってくれ」
「残念です。でも諦めずに待っています」
「手を組む相手間違えたよなぁ……」
「アルカに関わった時点でどの道ですね。今はトニアさんもいますし。結局時間の問題だったのかもしれません。そろそろ観念してみては?」
「しつこいぞ。私を勧誘したくばシエルを連れてこい」
「良いのです? こっちだって気を遣っているんですよ? お姉ちゃんを動かしたらいよいよ逃げられないじゃないですか」
「冗談だ。絶対に差し向けてくるんじゃないぞ」
「しませんよ。そんな事。カリアさんが自分で覚悟を決めきれないからって自身の弱点を晒している事はわかっているのです。そんな半端な覚悟の人を強引に誘うつもりはありません」
「……そういうのは胸に秘めておけ。わかっていてもドヤ顔で晒すような事じゃないぞ」
「わざと煽っているに決まってるじゃないですか」
「もう帰れ」
「私の勝ちですか?」
ノアちゃん……。
「……帰れ」
「また来ますね♪」
どうしてこうなった……。




