43-7.閣議会議
「教会は良いの?」
「心配要らないわ。ニクスにはセラフとグリアさんがついてるから」
なるほど。セレネ達は二人になった事を早速フル活用しているようだ。実にセレネらしい。
セレネの事だからアリバイ作りも完璧なのだろう。同時に二人存在する事がバレないような仕込みはしてある筈だ。ならそっちは気にする必要は無いわね。この娘達も忙しいでしょうしこれ以上余計な事は聞かずに話を進めてもらいましょう。
「それで何を話し合うの?」
「勿論この国の改革案よ♪ 先ずはわかりやすくお城でも建ててしまいましょう♪」
「本当に良いの? ニクスをメインに据えるんでしょ?」
「それはそれよ。安心なさい。大聖堂と同程度の規模に抑えるわ」
「まさかと思うけど私の権威をニクスと同等だって示すつもり?」
「違うわ。城の主はあくまでテオよ。アルカはその礎となるの。二人の立場はアルカありきだと知らしめるのよ」
「だから町の名前にしたの?」
「ええ。そうよ。流石に明言するわけにはいかないけれど、ギルドの連中ならこのメッセージにも気付くでしょ」
「そうかなぁ……」
「良いのよ。真意にまで気付かれなくたって。アルカはここにいるってだけでもわかるでしょ」
「神の下僕じゃなくて、その神と王の後ろで暗躍してるってわけね」
「モントニャハトなんて理由のわからない国名も丁度良かったわね♪ きっとアルカが玩具にするつもりだって判断する筈だもの♪」
「敵愾心を煽る方針になったっけ? 極力刺激しないんじゃなかったの?」
「違うわ。グリアさんは追い詰めるなと言ったのよ。興味は持ってもらわないと困るの」
「ああ。なるほど」
いや、にしたってやり過ぎだと思うけど……。
「出来るだけ派手で、けれど教会の存在をボヤけさせない程度の城を考えましょう♪」
難しい事を言いなさる。
「けどお城なんて真っ当な手段で建ててたら時間かかるじゃない。あまり有効な手立てとも思えないんだけど」
「そこはもちろんインチキするわよ? 当然じゃない」
「まさかセラフに建てさせるの?」
「流石にそこまではしないわ。うちで育てた魔術師とへパスお爺様に建ててもらうのよ♪」
爺さんに? 口ぶり的に既に協力は取り付けているっぽいな。いったい何時の間に……。
「でもそれなら爺さんに設計も任せちゃえば?」
一発で完璧なやつを提示してくれるだろうに。
「最初はお願いしたんだけどね。色々話し合った結果、極力この国の人達に任せる事にしたのよ」
なるへそ。それはわからない事もない。やっぱり親しみやすさとかも違うんだろうし。きっと実際の建築についても爺さんは現場監督に徹するくらいなのだろう。労力としてはセレネ子飼いの魔術師達を中心にニクスの力で底上げするとかって感じなのだろう。
「もちろん新規の採用も考えているわ。素質のありそうな人達には積極的に声がけしているの。そのまま王宮魔術師として召し抱えるつもりよ」
「そっか。人材確保の為のお仕事を用意するって話なのね」
「ええ♪ まさにそう言うことよ♪ お城を建てるとなれば当然建築担当の術者達以外にも仕事が生まれるもの。大勢が関わることになるわ。雇用の創出も為政者の重要な務めよ」
「立ち退きは出来るの?」
「既にほぼほぼ済んでいるわ。以前アルカが買った屋敷も区画整理予定地だったのよ」
「え? そうなの?」
「やっぱり知らずに買ったのね。まあでも、お陰で手間が省けたわ」
てっきりセレネが意図的に斡旋してくれたものとばかり。
「けどあそこそんなに高額じゃなかったよ?」
手こずっていたとも思えないのだけど。
「それは世間知らずが過ぎるわね。アルカの基準で考えてはダメよ。教会も結構カツカツなんだから」
うぐぅ……。
「そもそも私達だって今は余裕が無いの。全体からしたら僅かにでも利益を生み出し続けていた商会も畳む事になった。当然冒険者活動も自粛せざるを得ない。もちろんそれ以外の収入源も無いわけじゃないけれど全体としては心もとない」
やっぱり何かはしてたんだ。私の知らないところで。そうだよね。でなきゃ何十人も養えないもんね……。
「こっちはこっちで苦労して集めたパトロン達も手を引いてしまうでしょうし、今後は国として外とも取引しなきゃならない。この土地は特段収穫が多いわけでもない。そもそも領土にあるのは城塞都市一つだけですもの。海も比較的近いけれど断崖絶壁ばかり。港町の一つだってありはしない」
一応この町だけが国土と言うわけでもないけど、この辺りには他に大きな町が無い。元々リオシア王国の隅っこだ。今回この町を起点に国土の隅っこを切り分けてもらった形だ。
今までのように王国寄りの農村で食料を買い付けるなら輸入する形を取らねばならない。当然本国からの支援も無い。リオシア由来の行商人達だって暫くは様子を見るだろう。輸入となれば税がかかる。以前より値段も割増のものとなる。下手をすればいずれは食料の供給ルートだって完全に途絶えかねない。リオシアが本気で私達を敵と認識すればあっという間に干上がってしまう。つまり首輪を付けたわけだ。守るべき民を私達にとっての足枷とするつもりだ。だから属国にしなかったんだ。この国の隣にはリオシアしか存在しないのだから。まさに袋の鼠というやつだ。或いは私の手綱を握ると同時に神の力を試す意味もあるのかもしれない。
「食料は足りるの?」
「暫くはね。今はまだ関所だって無いんだもの。けれど早急な改革は必要よ」
そっか。本当にギリギリのところから切り取ったから逆にまだ行き届いてないんだ。一応の猶予期間はあるわけだ。と言うか国境整備と関所作りはこっちもしなきゃよね。いったいどれだけの費用がかかるのかしら……。
「城なんかより港町作る方が先じゃない?」
「もちろん手は回しているわ。けれどあまり良い解決手段とは言えないわね。港町を作っても交易が生まれるまでには時間もかかるわ。移り住んでくれる住民も募らなきゃいけないの。だからどうしても時間がかかる。いずれは必ず必要になるものだけど今すぐあっても活用出来ない。それより既存の行商人達を逃さない事が急務よ。この国は羽振りが良いと見せつけなきゃいけない。だから城なの。テオを無謀な世間知らずの姫としてではなく、やり手の国王と認識させなきゃならないの。それには先ずここが国と認められないとね」
「なるほどね……」
色々考えているのね。それ自体は勿論わかっていた事だけども。セレネ達を見くびっていたわけじゃない。単に私の想像が足りていなかった。独立までの事しか考えてなかった。この辺りについては当然カノン達も知恵を貸してくれたのだろう。ヴァガルの為政者達として知識は豊富な筈だ。
「まあ心配は要らないわ。どうしてもとなったらヴァガルから支援してもらうもの。私達が転移を使える事は知られているのだし、そこはリオシアも織り込み済みの筈よ。逆に言うとあからさまな制裁行為をしかけてくる事はあり得ないわ」
それはそれで大都市一つ分の販路が消えちゃうもんね。商人や農家の人達からだって反発が出るだろう。中々難しいものだ。
「さあ、話を続けましょう。この話し合いの重要度を理解したのならアルカも協力なさい」
「うん。喜んで」