43-5.建国
モントナハト公国。首都アルカディア。
ドイツ語の国名なのに首都の名はギリシャ語だ。どうしてこうなった。……いや、私も名前決め会議の場にはいたんだけどさ。だいたいお姉ちゃんのせいだ。あとセレネ。ちゃっかり国名に自分の要素も入れている。完全に私物化する気満々だ。あくまで大公様はテオちゃんなのに。
「月夜ねぇ。いえ、この際国名はいいのよ別に。ニクスの国ってわかりやすいし」
ドイツもギリシャもこの世界には無いんだから気にする必要は無い。問題があるとすればこの世界の人達には意味がわからない事くらいだ。けどそこも適当に神様の言葉とでも言っておけばいいわよね。
「なんでアルカディア? 絶対語感だけでしょ」
「まだ言っているのですか? いいじゃないですか。あの国は私達の理想郷とするのでしょう? それにニクスを一番近くで支えるのはやはりアルカの役目ですから」
「私より近くに月がいるじゃない」
「今からでもモントニャハトに改名しません?」
「本気でそうしたいならセレネに提案してみなさいな。たぶん速攻で変えると思うわよ」
「まだ間に合うでしょうか。ダメ元でお願いしてみます」
猫ちゃんはどうしても仲間に入れてほしいようだ。
「承諾をもらえました。急遽差し替えるそうです」
ほらやっぱり……。
「なんだか可愛らしくなっちゃったのね」
お姉ちゃんは特に気にしていないようだ。
「モントナハト改め、モントニャハト公国の設立です。町の名前もリオシア時代のクリオンからアルカディアに改名されます。首都になりましたからね。やはり相応しい名前をつけてあげなければなりません」
「それ色んな方面に喧嘩を売りそうな気がするんだけど」
住んでる人達からしたら意味わからないよね。何の前触れもなくいきなり元の国から切り離されて、しかも慣れ親しんだ町の名前まで変えられちゃうんだから。亡命者も結構な数が出るだろうなぁ。この場合も亡命って言うのかしら?
「私の名前なんか付けたら調子に乗ってると思われるだけじゃない」
ただでさえヘイト集めるって気にしてるのに。ギルドだってほら見たことかって思うでしょうよ。私が本性を表したって思う筈だわ。野心で動き出したんだって信じ込んじゃう。
「それで良いんです。これはある意味宣戦布告でもあるのですから。舞台は整ったのです。もう逃げ隠れする必要は無いのです。アルカが自由に出歩ける日もすぐそこです」
「時期尚早だわ。すぐにギルド支部を潰すわけでもないんだし」
そもそも潰すかどうかも今後の反応次第だし。取り敢えずギルド側から撤退する事は無いだろうけど。
「時間の問題ですよ。ここからは国家規模の争いです」
「争う必要が無いじゃない」
「いいえ。必要は生じます。必ず」
「わかってるけど……」
「心配は要りません。私達は傷つきません。必ず笑顔でアルカの下に戻ってきます」
ノアちゃんも何か手伝うつもりなのね。
「油断しないでね」
「はい♪」
出来ればずっと側にいてほしいけど。でもノアちゃんはギルド関係者として動くつもりなのだろう。アメリだけに任せるのではなく。それだけ本気なのだ。短期決戦を目指して全力を尽くすつもりだ。
「ノアちゃんは何時出るの?」
「もう数日はこちらにいますよ。今は合図待ちです」
「先ずは神託を流さないとだものね」
「動き出せるのはその後ですね」
「私はエルフの国に行ってみようと思うの」
「……そろそろ良いかもしれませんね」
「……もしかしてノアちゃんも聞いた?」
「ええ。修行を始める前にセレネから」
「そっか……」
「ルネルさんをお願いします」
「うん。任せて」
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ニクスの神託が世界中に響き渡り、合わせてモントニャハト公国の建国も世界中へと知れ渡る事となった。
公国は引き続き教会チームが運営を続けていく事になる。これからはニクスとテオちゃんもその中心に加わる形だ。それとは別にノアちゃんとアメリもカリアさんの下でギルドに探りを入れていく。ヤチヨとヒサメちゃんももしかしたら。
ヴァガルとギヨルドに関する計画も既に動き出している。今後は日を追う毎に多忙さが増していく事だろう。ここが正念場だ。私達が世界から排斥されないよう全力を尽くそう。
幸い新公国の民は未だ大きな混乱には至っていない。戸惑いの声こそあるものの、概ね好意的に受け入れられているようだ。信じ難い事に。
教会を中心としたこの町はすっかり聖女のカリスマに染められていたらしい。最早洗脳じみている。なんなら神の言葉より聖女の言葉に従っているみたいだ。流石セレネ。テオちゃんもめげずに頑張って。テオちゃんなら心配要らないだろうけど。
「おかえり。ハルちゃん」
『ただいま』
『アルカ』
ようやく相棒が帰ってきた。文字通りぽっかり空いた胸の穴がやっと埋まってくれた。長かった。とっても。
お姉ちゃんはまたイオス預かりになった。イオスはやっぱりお姉ちゃんを鍛えるつもりらしい。あれだけの素質を示したのだもの。イオスが気に入るのも当然か。
「じゃあ行こっか。私達も」
『おけ』
『そんな気合入れたって何もしないわよ。ルネルと少し話をするだけ。すぐ戻るのよ』
『シイナとの融合もあります。ハルが戻ったからには私達の修行も次の段階へと進めるべきでしょう』
『より一層お力になるとお約束致します。マスター』
『シイナの修行は私が見てあげるわ。良いわよね? 小春』
いきなりやることいっぱいね。溜め込む前に終わらせていかなきゃね。