43-4.計画始動
長い時間を掛けてテオちゃんの修行と独立計画を練り上げた後、私達はようやく深層からニクス世界へと戻ってきた。
計画が練り終わった段階で居残り修行組以外を先に帰していたので、皆と会えるのはまた久しぶりだ。けれどゆっくりしている時間は無い。皆すぐにまたそれぞれの役割をこなすために動き出していった。
「とは言え相変わらず私はお留守番なのよね」
『信じて任せましょう。テオ達ならきっと大丈夫よ』
わかってるんだけどさ。リリカもグリアもセレネもルイザも一緒に乗り込んでくれたんだし。リオシア王国の件は心配する必要は無い。後はただ報告を待つだけでいい。いいんだけども……。
「エルフの国に顔出すのも早いよね……」
『こっちではまだ数時間程度しか経っていないわ』
ルネルからの連絡を待つしかないわよね。
「あと出来る事ってあるかしら」
『今は大人しくしていなさい』
「そうですよ、アルカ。私達だっているのに何が不満なのですか?」
「アルカもこっちにこいよ~」
「暇なら私の世界の開拓なんてどうかしら? そうだ。いい加減小春の世界にも名前考えましょうよ。何がいいかしら」
ノアちゃん、クレア、お姉ちゃんはすっかり私のベットの上で気を緩めている。長過ぎる修行期間が緊張感を失わせてしまったようだ。記憶の保護機構も働いている筈なのだけど、やっぱり年単位で潜るのは影響が避けられないのかもしれない。
『そんなわけないじゃない。単にアルカが悩みすぎているだけよ。私達に出来る事はもう終わったの。後はのんびり結果を待つだけよ。あの娘達は必ずやり遂げてくれるわ』
私だって信じてるんだけどなぁ。
「ところでお姉ちゃんの力って増えないのね。一度はあそこまで引き伸ばされたんだからもう少しくらい回復するものかと思っていたんだけど」
なんだか空気の抜けた風船みたいだ。もう私世界にだって入れるくらいだもの。私を超えたのは本当に一時だけの限定的なものだったらしい。
「全部イオスのお陰よ~」
雑。流石原初神。なんでもありね。
イオスは私の成長に合わせてお姉ちゃんを育ててくれるつもりかしら? 器は出来上がっているから後は力を流し込んでいくだけでいいんだものね。
『私の影響も忘れてるんじゃないかしら?』
ああ。こっちのお姉ちゃんが私の器を引き伸ばしたのもあるのか。そっか。だから未来ちゃんだけ多少の力を残してぶち込んできたんだ。
『また少し広がったんじゃないかしら? 前より窮屈な感じがしないわ』
それは何より。私の成長も急務だからね。
「それよりよ。小春」
はいはい。
「参考までにお姉ちゃん世界にはなんて名前付けたの?」
「ヨトゥンヘイム」
丸パクリじゃん。
「なんで北欧神話?」
「勿論ヨルムンガンド繋がりよ♪」
そうだった。蛇ちゃんもいるんだった。
「蛇ちゃんには新しい名前つけてないの?」
「イオスが連れて行っちゃったもの」
なるへそ。どうりで見ないわけだ。でなきゃお姉ちゃんなら喜んで肩に乗せて見せびらかしてそうだし。
「なんて付けるつもりなの?」
「小春も考えて♪」
珍しい。お姉ちゃんがまだ決めてないなんて。単に時間を潰す為の口実をくれただけかもだけど。
「気分じゃないから後でね」
「ヨトゥンヘイムも?」
「お姉ちゃん世界の方も」
お姉ちゃん世界の名前も後で変えさせよう。下手にパクると何か妙なものを呼び寄せるかもだし。因果の厄介さには散々振り回されてきたのだ。自ら縛るような真似はするべきじゃない。
「お爺さんの所にでも行きますか?」
「そっちはハルカ達に任せてるから大丈夫よ」
爺さんには出来れば何も知らせないようにしたい。どうせ心配させちゃうだけだ。今は可愛い孫娘達に囲まれて心穏やかにゆっくり過ごしていてほしい。
「また修行でもするか?」
「違うのよ。そういう話じゃないの。何か私に出来る事をしたいのよ」
「それこそ修行くらいのもんじゃねえか」
そうなんだけどさぁ。
「アルカ。こちらに座ってください」
招き猫と化したノアちゃんに誘われて渋々ベットに腰掛ける。
「撫でてください。今なら尻尾も可です」
「そういう気分じゃないんだってば」
「そんな……アルカに飽きられてしまうなんて……」
「はいはい。そんなわけないでしょ」
仕方ない。目一杯抱きしめてやろう。私の焦燥感をノアちゃんにぶつけるとしよう。ノアちゃんならきっと受け止めてくれる筈だ。
----------------------
『交渉は無事終わったよ♪』
楽しげな様子のテオちゃんから念話が届いた。
『どんな形になったの?』
『気前よく都市一つ切り分けてくれたよ♪ 流石に多少の条件は付けられたけど』
無難なところね。
『ありがとう。テオちゃん。引き続きよろしくね』
『うむ♪ 任せておくれ♪』