43-3.新人研修
「あ~、ごほん。……はっ! くっ!」
「我慢よ。妙な事したらクビにするからね」
「もっ勿論だとも!!」
食い気味だ。それから鼻息が荒い。
ロリ化してパニクっていたテオドラを変身魔法で元の姿に戻し、逆に私は子供の姿に変身してテオドラの膝の上に座った。
「はぁ、はぁ……」
テオドラは興奮しつつも、どうにか理性を働かせようとしている。どうやら本当にテオドラは私のファンとやらだったらしい。テオドラの性癖は私が育てたようだ。私はテオドラにとって初恋の相手であり、理想の美少女だったらしい。ロリコン趣味は私の幻影を追っていたからに他ならない。私が自らテオドラの手を自分のお腹に回させてみたら、更に鼻息を荒くさせながら恐る恐る抱きしめてきた。
「でもあなた助けてくれなかったよね。私が国を追われた時にさ。本当にテオちゃんで大丈夫なのかしら?」
「うぐっ……すまない……」
『誤解よ。テオは動いてくれていたのよ』
「何したの?」
『アルカも見たでしょ。ストラトス侯爵は何も短期間の内に考えを変えたわけではないの。テオの長きに渡る工作が実を結んだのよ。急に手の平を返したわけではなかったのよ』
布教活動でもしてたの? 首謀者に対して直接?
「あはは……これはいっちゃん恥ずかしい……」
「別に恥ずべき事じゃないわ。ありがとう。テオちゃん」
「う、うん。えへへ♪」
テオちゃんはあまり自分から功績を誇るタイプではないようだ。少なくとも私に対しては。それだけ本気なのだろう。悪くない。もう少しサービスしてあげよう。
「アルカ君!?」
身体の向きを変えてテオちゃんの膝の上に横座りになり、テオちゃんの肩に頭を乗せて寄り掛かった。テオちゃんは逆に緊張しているようだ。腕までガチガチだ。落ち着け。
「テオちゃん」
「な、なにかな?」
「ありがとう。テオちゃん。想ってくれて」
「……………………ぶはっ!」
吐血した!? 違う鼻血だ! ちょっと頬にキスしただけなのに!?
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「ごめん……」
「気にしないで」
私も飛ばしすぎたわね。それにちょっと雑だったかも。これじゃあ誠意が足りていないわ。テオちゃんには大役を担ってもらうんだから。色仕掛けみたいな方法はダメよね。
『そうかしら? 本人喜んでるんだから良いんじゃない?』
結局落ち込ませちゃってるじゃない。
『仕方ないわ。アルカを血塗れにさせちゃったんだもの』
もう綺麗にしたんだから気にしなくていいのに。流石はサナの生活魔法だ。日々精度が向上し続けてる。もうすっかり家事マスターね。
「さて。それじゃ家族に紹介するわ。場所を移しましょう」
これ以上の打ち合わせは深層で進めないとね。私達には時間が無いんだし。
「え? 良いの?」
何その反応。
「案外と小心者なのね。そんな格好してるからもっと自信家なのかと思ったわ」
「うぐ……」
いかんいかん。なんだかテオちゃん相手だとついつい強気に出ちゃうのよね。これは良くないやつだ。少なくともまだダメだ。急に私の方から距離を詰めすぎるのも変な話だ。これはただ焦っているだけだ。テオちゃんの事を見ているとは言えないやつだ。それではあまりに不誠実だ。直さなきゃ。
テオちゃんを連れて私世界に移動し、そこで待たせていた家族を全員引き連れて再び深層に潜り込んだ。
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「というわけで新しい家族よ。テオちゃんをよろしくね」
変身を解いて子供の姿に戻したテオちゃんを紹介した。アリア達も驚いたが、それ以上に皆歓迎してくれた。ジュニアテオちゃんは可愛いからね。大人バージョンとはまた違った魅力があるのだ。元のテオちゃんを知っていた娘達からすると尚の事なのだろう。
「あはは~……」
当のテオちゃん本人は戸惑いっぱなしだ。魔女の下にノコノコ乗り込んで来たくせに呪いをかけられる覚悟はしていなかったのだろうか。
「真面目な話を始める前に先ずは遊ぶべきだと思うの!」
アリアがやる気満々だ。我が家なりの洗礼を浴びせるつもりのようだ。
「いいわ。今回は好きなだけアイリス使っていいわよ」
「「「やったぁ~!(ですわ!)」」」
私もテオちゃんと親睦深めたいし。
「ついでに鍛えてしまえ。テオはフィリアスに頼るべきではない」
王様だからね。自信を付けるには手っ取り早そうだ。
「フロルが鍛えてくれる?」
「構わんぞ。わらわも鍛え直したかった所だ」
フロルはもう十分強いけど。まだまだ上を目指すのね。クレアとも真っ向勝負をしたいのだろう。武闘大会の決勝を盛り上げないとだものね。それに一応名目上はステラのお祝いだから良いところを見せたいのかも。
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「アルカ君」
「あら。テオちゃん。変身魔法使えるようになったのね」
結構かかったけど。残念ながらテオちゃんにはそこまで才能が無いようだ。それでも着実に成長を遂げている。真面目な努力家さんであることは間違いない。
「また手合わせを願えないかな?」
そして何より自信家だ。流石に私に挑むの早いけど。でもこうして事ある毎に挑んでくれるのだ。あくまでテオちゃんの目標は私のようだ。自身の成長速度が他と比べてどうだとかは一切気にしている様子が無い。少なくともそれを私達に見せた事は一度も無い。彼女は弱音を吐かない。どんなに地を転げ回ってもすぐに立ち上がって優雅に姿勢を正してみせる。何時でも格好を付ける事に全力だ。実は内心かなりビビりな小心者でもあるのに。
これは私が小心者なんて言ったせいかしら? いいえ。きっと違うわね。テオちゃんは元々こうだったのだろう。あの時は驚かせすぎてしまっただけなのだ。初恋の人に念願叶ってようやく出会い、そこでいきなり自分が十以上も若返ったのだ。混乱するのも無理はない。限界を越えるのは当然だ。
けれどテオちゃんはそんな姿を見せてさえ開き直るような事はしなかった。そこからどうにか元の調子を取り戻し、私に格好良い所を見せようと全力で挑んでくれている。そんな所がとても可愛い人だ。そして格好良い。
「勿論よ。早速始めましょう♪」
「よろしく♪」