表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1308/1354

42-46.家族会議・続々続々

「先ずクレアはどうしましょうか」


 一旦話の流れをおさらいしよう。



 ムスペルに呼び出されたクレアはそこでステラと出会い、護衛としてヴァガルに渡る。


 ヴァガル皇帝フロルは最愛の妹の帰還に喜び、クレアを歓待し、妹の帰還を祝した武闘大会の開催を決定する。


 武闘大会までの暇つぶしとしてフロルから密命を受けたクレアは、ギヨルド王国に来訪してアンジュと出会う。


 クレアの果たした密命によって帝都に呼び出されたギヨルド王を救い出す為、アンジュはクレアと組んで帝都へ向かう事を決意する。


 クレアは武闘大会でフロルと戦う為に、アンジュは父の命を救う為に、王不在のギヨルドを纏め上げる。自らが国を代表して帝都に乗り込む資格を得る為に。


 首尾よく帝都に乗り込んだクレア達は武闘大会で優勝し、そこを襲撃してきたツクヨミ扮する邪神と戦う。


 観戦していた私も加わるも、邪神には及ばず取り逃がしてしまう。私はクレアを連れて邪神を追うことを決意する。


 次に教会を襲撃した邪神はニクスを取り込んで町を乗っ取る。その場に独立国家を樹立し、捕らえた聖女達を使って勢力を広げ始める。


 程々の所でアムルをニクスの娘神として登場させ、全員の力を合わせて邪神を撃退する。



 ……大体こんな感じだったかしら。



 けれど今回の騒動が原因でニクスの登場は早めなくちゃいけなくなったのよね。教会の切り取りも今すぐ始めなくちゃだ。こっちは時間との勝負だ。無茶だけど数日中には国として独立しなきゃいけない。大多数の民には事後報告となるだろう。私達が擁立する姫とリオシア本国との間で話しがつけばそれでいい。実質的な独立は追々だ。とにかく後から追求された時にあの地がリオシアに属していなければそれでいい筈だ。そうして仮の独立がなった時点でニクスに降臨してもらう。ニクスから声明を出すのだ。世界は危機に瀕していたのだと。先の脅威こそ退けたが、未だ予断を許さぬ状況であると。だから神が側で見守るのだと。


 教会に降り立った神はそのまま暫く滞在する事になる。世界中から問い合わせが殺到するだろう。その時窓口となるのはリオシア王国ではなく、新たに建国された国となるのだ。


 リオシアは後ろ指を指されるかもしれない。トカゲの尻尾切りだと揶揄されるかもしれない。それでも爆弾を抱え込むよりはマシな筈だ。下手をすると世界中が敵に回るのだ。人々は神の横暴を許すまいと追い出そうとするかもしれないのだ。国土が戦場となるかもしれないのだ。きっとそのリスクを理解してくれる筈だ。そして同時にその先頭に娘が立つ事のメリットも察する筈なのだ。これが私達なりの歩み寄りと避難勧告なのだと裏の意図を汲んでくれる筈だ。



 教会がこんな状況なのに勇者が呑気に遠方の地で観光なんてしていてはマズイ気がする。やっぱり一度教会に戻さないと後々不自然に映るんじゃないかしら? いっそ帝国と教会の件は完全に切り離した方が良いんじゃない? クレア以外の誰かに役割を引き継ぐべきじゃないかしら。



「心配は要らん。クレア君には予定通り動いてもらう」


 そうなの?



「クレア君はまだ勇者ではない」


 うん?



「クレア君はこれから勇者になるのだ」


 えっと?



「別にクレア君本人が勇者であると喧伝した事は無い筈だ」


 それはそうかもだけど。でも教会内は? セレネのボディーガードとしても姿を晒していたんじゃなかった? まだ公に広めたわけじゃないから問題無いって事? 教会内の人達は違和感を抱くかもしれないけれど、逆にセレネやグリアの言葉に従ってくれる人達だけだものね。そう考えれば案外上手くいくのかしら。むしろその縁で勇者になったと思えば。そもそもそこが問題ならクレアはとっくにヴァガルを離れてたって事になってるんだし。問題視してないって事は元々教会内部だけの秘密としていたって事なのよね。



「つまりお芝居も予定通り進めるってこと?」


「そうだ。結末だけを変えるのだ。ツクヨミ君にはやられ役を担ってもらう」


 ヴァガル帝国の武闘大会にツクヨミが登場するまでの流れは変えないって事よね。



「クレア君にはアルカ君が力を与えるのだ。神の代理として勇者に任命するのだ。民衆の前に降臨し、堂々と叙任式を執り行おう。ツクヨミ君を倒すのはクレア君だ。話はそこで終わりを迎える。教会にツクヨミ君が襲撃を仕掛けるのは無しだ。クレア君が教会を訪れるのは後日談としよう」


「ニクスは何故動かなかったのかって問い詰められない?」


「動いただろう。使徒である君を遣わせたのだ」


「私で済むならニクスが居座る理由が無くならない?」


「あるとも。今後は神が良き隣人となるのだ。人は知らぬから恐れるのだ。神ニクスが気さくな方と知ればいずれは落ち着く筈だ。その部下に過ぎない君に食って掛かる事は無くなる筈だ。時間はかかるだろうがな」


「本当にニクスで大丈夫かしら? 人見知りは治ったの?」


「ちょっと。今それ関係ないでしょ」


 セレネったらもう。ふふ。笑わせないでよ。今真剣な話してるのに。



「アムルはどうするの?」


「未定だ。アルカ君の問題もある。後のリカバリの為に伏せておくのが無難だろう」


 アムルを神や使徒として動かすつもりはないか。まあこれ以上登場人物を増やしてもややこしくなるだけよね。



「神と聖女と王。この三人が国の象徴よ。私達は世界の注目を集めるの。恐怖も怒りも憎しみも。興味も羨望も欲望も。何もかもを集めるの。例えギルドが憎しみだけを抽出してぶつけてきたとしても恐れる必要は無いわ。アルカの存在は確かに敵意を呼び寄せるでしょう。けれど同時に抑止力にもなる。後は努力次第。その為の土台を作りましょう。アルカやニクスが個別に戦えば付け入る隙を与えるわ。けれど国として纏まったなら話は違う。冷静に話し合う事だって出来る筈よ」


「でもそれって罪なき民を盾にしてると思われるだけじゃない?」


 あの教会には軍なんていないのだ。教会騎士程度では国と真っ向から戦える戦力足り得ない。結局私の力を当てにするんじゃ意味がない。私が鳴りを潜めたって相手はそんな風に邪推してくるだけかもしれない。



「それで良いのよ。盾になってくれる人達がいるのだと伝わればね」


「それは……」


「支持されるというのはとても大切な事だ。誰もが一様に背を向ける者というのは信用されんものだ。例え本人に落ち度が無かったとしてもな。逆に少数でも支持者がいるなら悪人の言葉にさえ説得力は生まれるものなのだ。故にこそ我々は全力で民を幸福に導こう。そんな民の姿を見れば世界中の者達もやがては考えを改めるだろうさ」


「なら最初から私が王様になるのでも良いんじゃない?」


 サクラは幾らでも用意できるんだし。



「良いわけ無いでしょ。言ったでしょ。後ろ盾が必要なの」


「仮にこの地に国を築いたとしても世界中の人々が国として認めんのだ。リオシアにはその為の後ろ盾となってもらう必要がある。それが例え敵意だとしても一個の国として認めた上でのものであるならば何より重要な価値が生まれるのだ」


 なるほど。リオシアが切り離して他人のふりをするのだとしても、切り離したという事実があり、実際にその地を治める者がいるなら国としての説得力は生まれるのか。統治者がリオシアの姫なら民だっていずれは受け入れるだろう。良し悪しはともかく説得力はあるのだ。そうして既成事実にしてしまう事だって出来る筈だ。リオシアの助けを得られようが得られまいが、姫個人をその気にさせてしまえばこの話は押し通せるのだ。勿論私達の力ありきの話ではあるけど。


 だが当然ベストはリオシアの認可を得て国を興す事だ。リオシアとの友好的な関係が築ければ最高だ。その為に必要なら属国であっても構わない。きっとリオシアはそんな道は選ばないだろうけど。優先的に恩恵を流してくれる隣国くらいの立ち位置を望むだろう。リスクとのバランスを考えれば。



「そういう事ならめいっぱい発展させちゃいましょう。先ずはラジオなんてどうかしら? ギルドの既得権益を過去のものとしてしまいましょう♪」


「良い考えだが先の話だな。今刺激しても碌な事にならん」


「けれど前向きに考えられた事は褒めてあげるわ。その調子で私達の国を豊かにする方法でも考えてみましょう」


「そうね。世界が羨む国を作りましょう。きっとそれが世界の平和に繋がるわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ