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42-41.新しい関係

「そう言えば私達ってあんまり喧嘩した事無かったよね」


「……そうね」


「何その表情? 実は不満でも抱えてた?」


「いえ別に」


 なんだかなぁ。



「取り敢えず喧嘩でもしてみる?」


「嫌よ。何の意味があるのよ。以前やってなかった事したってしょうがないじゃない」


「どうかな? 私とお姉ちゃんだって新しい関係を築くのは必要な事かもしれないよ」


「ならいっそ姉妹をやめてみるのはどうかしら?」


「代わりに恋人になるの?」


「それも良いわね」


 本当にそう思ってる? 適当言ってない?



「要は仲良くなれば良いんだもの。恋人や伴侶は向いていると思うわ。けれどまあ、新鮮味には欠けるでしょうけど」


 いっぱいいるからね。お姉ちゃんだって元々そうだし。



「結局マンネリ化してるのよ。小春が節操なく手を広げてきたせいで」


「なっ!? なんて事言うのよ!?」


 失敬な! ちゃんと皆を満足させられてる筈だもん! だもん!!



「なら今更新しい何かが思いつくの? 大抵誰かと経験済みなんじゃない?」


「それは!」


 確かに思いつかないけども!



「お姉ちゃんだけでも三人目なんだから仕方ないじゃん!」


「そう。私のせいにするのね」


「お姉ちゃんが真剣に考えてくれないからでしょ! すぐそうやって卑屈な事ばっか言っちゃってさ!」


「悪かったわね。他の私と違って嫌なやつで」


「そんな風に思ってないし! お姉ちゃんは元々斜に構えたところがあるだけだし!」


「ねえ、それただの悪口だと思うのだけど」


「悪い部分が強く出ちゃってるの! 引っ込めて!」


「無茶言わないでよ……」


 ネガティブだなぁ。相変わらずこのお姉ちゃんは吹っ切れる様子が無い。そりゃまあ千年以上も偽神なんかについて回っていたのだから荒むのも当然だとは思うけど。



「お姉ちゃんって何かやりたい事無いの? ほら。色々落ち着いたらとか考えなかった?」


「……終わらせる事しか考えていなかったわ」


 それって……そう。そうだよね。生き続ける理由すら偽神を止める事以外無かったんだよね。



「ごめん、無茶ばっかり言ったよね」


「何よ突然……」


「私がお姉ちゃんを立ち直らせないといけないんだもんね。お姉ちゃんがまた前を向いて歩けるように」


「……ちょっとクサイわよ」


「なるほど。やっぱり喧嘩がしてみたいんだね」


「違うわよ。そんなわけないでしょ」


 本気で嫌そう。お姉ちゃんが欲しているのは癒やしなのかもしれない。けれどお姉ちゃん自身が癒されるわけにはいかないとか思っていそう。自分は地獄に落ちるべきだと願いにすら近い思い込みを抱いているのだ。お姉ちゃんは偽神の手駒として幾多の時間軸で私達を不幸に導いてきた。そうやって卑屈になるのも当然の事なのだろう。ましてや私と共にいれば思い出す事も多い筈だ。



「じゃあ私、偽神役やるね」


「じゃあって何よ……意味がわからないわ……」


「代わりに私の事ぶちのめしたらストレス発散になるかなって」


「出来るわけないでしょ? バカじゃないの?」


 お姉ちゃんにバカとか言われたの初めてかも!?



「なんでちょっと嬉しそうなのよ……」


 なんでだろうね~♪



「お姉ちゃんは立ち直らなきゃいけないの。お姉ちゃんが手にかけた皆の為に」


「何よそれ」


 あ。ちょっとムッとしてる。お姉ちゃんが態度に出す程ってちょっとやそっとじゃないだろうけど。



「だって偽神倒すんでしょ? 敵討ちするんでしょ?」


「私にそんな資格は無いわ。ただ止めるだけよ。これ以上被害が出ないようにしたいだけ。それ以上を望む資格なんてありはしないのよ」


「それじゃあ困るよ。お姉ちゃんには責任取ってもらわなきゃいけないんだから」


「……どうしろってのよ」


「どうもこうもその為に私の側にいるって決めたんでしょ」


「それは……そうだけど……」


「だからお姉ちゃんは必要な事をやるんだよ。先ずは自分を騙してみて」


「騙す?」


「わかるでしょ? 私にとって都合の良いお姉ちゃんになるの。私が偽神を倒す為にお姉ちゃんは全力で協力するの。ただそれだけの話だよ。先ずは演じてみよう。最初はそんなもんで良いんだよ。いずれきっと心だって追いつくから」


「……追いついちゃダメなんだってば」


「なら追いつけない程遠くを目指せばいいんだよ。イメージするのは常に最強の自分ってやつだよ。そこに届かないなら届かないで良いじゃない。何度だって前を見て歩き続ければさ」


「私のガラじゃないわ」


 それはそう。けど。



「そんな事に拘る権利があると思ってるの?」


「うぐっ……」


「お姉ちゃんはいっぱい悪い事したんだから。だからこれは私からお姉ちゃんに贈る罰だよ。お姉ちゃんは私の理想のお姉ちゃんを演じ続けてみせて。何時までも何時までも手の届かない自分自身に焦がれ続けていて。そんな演技を続ける自分を空虚だって嘲笑ったっていいんだよ。そうして自分を罰し続けていればいいの。私が何時まででもお姉ちゃんの罪滅ぼしに付き合ってあげるから。時には一緒に貶してあげたっていい。お姉ちゃんが罰をサボっていたらお尻を叩いてあげる。お姉ちゃんにはもう立ち止まっている権利なんて無いんだって口汚く罵ってあげるから。ね? わかりやすくなったでしょ? これでやる事はわかるでしょ? ほら。早速始めなさい。失敗しても大丈夫。上手く出来るまで叱ってあげるから」


「……もう。強引すぎるわ」


「お姉ちゃん」


「わかったわよ。やるだけやってみるわ」


「本気でやって。でないと晩ご飯抜きだよ」


「ふふ。なによそれ」


「そこでニヒルに笑わない! 思いっきりお腹から声だして笑うの! ほら! やり直し!」


「ちょっ!? 痛っ! 暴力反対よ!」


「問答無用!」


「わかっ! わかったってばぁ!」

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