42-40.二人きり
「作戦会議をしましょう」
「議題はミライの意識改革ね」
「アルカ様への好感度が足りていません」
「まったく。ミライはマスターの何が不満だと言うのでしょう」
「ねえ、こういう会議って普通私の居ない所でやるもんじゃないの?」
未来ちゃんはこれだもんなぁ。まったくもう。
「当事者意識が欠如してるよね」
「アルカから歩み寄ったって変わらないじゃない」
「ミライにはやる気が足りません」
「むしろ皆無です。わざと避けてどうするのですか」
「うぐぅ……」
ボロクソだ。でも仕方ない。実際私達からしたら未来ちゃんはイジケて流されるまま身を任せているようにしか見えないもん。その割にはノリきれてもいないし。
「ミライって呼称はもうやめちゃおっか」
「そうね。徹底的にミユキとして扱いましょう」
「ミライだけでなく私達も変わらねばなりませんね」
「マスターの手を煩わせているのだと自覚して反省してほしいものですね」
「……あなた達こそ本当に仲良くする気があるの?」
「「「「もちろん!」」」」
「……そう」
無茶言ってるのはわかってるんだけどね。でもこのままじゃ進展しないから。ここはお姉ちゃんにも頑張ってもらわないとだ。
「アイリス使ってみよっか」
「そうね。暫く二人きりで生まれ育った家に里帰りでもなさいな」
「お望みであればご両親のNPCもご用意致します」
「「やめて! それは泣くから!」」
「息ぴったりにございますね♪」
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「お姉ちゃ~ん! ご飯出来たよ~!」
「は~い!」
よしよし。最近良い調子だ。既にアイリスに籠もってから一月くらい経ってるからね。お姉ちゃんもなんだかんだと私のお姉ちゃんらしくなってきた。
「今日は~♪ お姉ちゃんの大好きな~♪ オムライスで~す♪」
「……ありがとう」
今一瞬変な顔したわね。
「お姉ちゃん」
「何かしら?」
「言いたい事がある時はハッキリ言うって約束したよね?」
「……オムライスが好きなのは小春の方だったじゃない」
「え? お姉ちゃん何時もオムライス作ってたじゃん」
「それは小春が喜ぶから」
「もしかして好きじゃない?」
「……そうじゃなくて」
また口ごもるし。
「聞かせて」
「……私の小春ともこんな会話した事があったのよ」
何よ「私の」って。当てつけみたいな言い方しないでよ。
「ごめんね。嫌な思いさせちゃって」
「いえ! 違うのよ! そういう事じゃなくて!」
「……ごめん。意地悪な事言ったよね」
「小春……」
お姉ちゃんだって無自覚だっただけだ。当てつけたなんて被害妄想だ。最近のお姉ちゃんは頑張って歩み寄ってくれるようになったって言うのに、私から距離を取るような事言ってどうするのよ!
「本当にごめんね。お姉ちゃん。今のはなんて言うか、少し嫉妬しちゃったの。酷いよね。お姉ちゃんの気持ちだってよくわかってる筈なのに。もう二度とあんな言い方はしないから。だから仲直りしよ? 良いかな? お姉ちゃん」
「え、ええ! もちろんよ! こちらこそごめんなさい! 私もオムライス大好きよ! いただきます!!」
かえって気を遣わせてしまったようだ。腹を割って素直に話そうって意識しすぎちゃったのかも。中々自然な距離感を作るのって難しいものね。いっそ何か違う形を見つけるべきなのかしら。私と未来ちゃんだけの特別な関係を作り上げるべきなのかもしれない。未来ちゃんはお姉ちゃんだけどお姉ちゃんじゃないんだから。先ずはそれを受け入れなきゃいけないんだよね。
「美味しい」
「そっか。よかった♪」
そこからは二人して黙々と食べ進めた。多分お姉ちゃんも今後の事を考えてくれていたんだと思う。きっと私達には時間が必要だ。このまま深層とアイリスで何年でも二人の時間を作っていくとしよう。皆の方も気になるけど、気に病んだってしかたない。何時も通り眼の前の事に集中しよう。一つ一つ問題を解決していこう。結局私にはそれしか出来ないんだから。
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「小春。起きてる?」
「あ、お姉ちゃん。どうしたの? 一緒に寝る?」
「……ええ。その為に来たの」
何か緊張してる?
「いらっしゃ~い♪」
「……ええ」
お姉ちゃんがゆっくりとベットに入ってきた。
「うわ!? 身体冷たっ!?」
「あっ! ごめんなさい!」
何故か逃げ出そうとしたお姉ちゃんを咄嗟に捕まえて抱き締める。
「温めてあげる♪」
「……ありがとう」
お姉ちゃんたら廊下にでも立っていたのかしら? 中々勇気が出なかったとか?
「……」
「……」
しかも何も言ってこないし。このまま何もせず寝ちゃうのかな? いっそこっちから手を出してみる? でも今日のお姉ちゃんはまた流されるだけな気がするんだよなぁ。
「お姉ちゃんって私以外の娘とも寝てたの?」
「……そんな事もあったわ」
素直に答えてくれるんだ。
「シーちゃんとか?」
「……まあ」
何さその返事。
「他には?」
ハルちゃんには避けられてたって話だけど。
「……ノーコメント」
結局かい。
「……小春は何もしないの?」
まるで何かしてほしいみたいだ。
「しようかなって思ったんだけどさ。でもやっぱり今のお姉ちゃんにはやめとくよ」
「……そう」
「お姉ちゃん依存しちゃいそうだし。悪い意味で」
「うぐ……」
自覚はあるようだ。
「て事で今日はもう寝ちゃおう。おやすみ。お姉ちゃん」
「……ええ。おやすみなさい。小春」