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42-37.隠し事

「あらセレネ。おかえり。お疲れ様」


「起きなくていいわ。事情はノアから聞いているもの。横になっていなさい」


「うん。ありがとう」


『どこまで? 未来ちゃんの事は?』


『セレネにも話していません』


 ならセレネも一緒か。皆には増えすぎたお姉ちゃんの力の一部を流し込んでいると説明してある筈だ。お姉ちゃんの力を削ぎつつ、私の力を増やすために必要な事だ。それで私は体調を崩して寝込んでいる。セレネの認識もその程度だろう。



「お姉さんもお疲れ様。お姉さんの方は調子良さそうね」


「ええ。心配は要らないわ。小春のお陰でね」


「そう。こちらも心配は要らないわ。ゆっくり進めて頂戴」


「うん。そうさせてもらう」


 セレネはお姉ちゃんとの会話をあっさり切り上げて、私のもう一方の手を握りしめた。



「心配要らないってば」


「してないわ。ただこうしたい気分だっただけよ」


「私よりルビィのところに行ってあげて。きっと不安がってるから」


 大人たちが慌てて出払ってしまったもの。エルヴィは子供達を見るために残ってくれているけれど、耳の良いルビィは私達の様子にも気がついている筈だ。セレネの顔を見れば安心するだろう。



「さっき顔を出してきたわ。ルビィが言ったのよ。お母さんの側に居てあげてって。なんだかすごく弱ってるからって」


 そこまで気付けちゃうのは想定外だ。ルビィを不安がらせるくらいなら結界でも張っておけばよかった。



「大丈夫よ。あの子は強い子だもの」


「うん。そうね。何せ私とセレネの娘だものね」


「ええ」


 暫く沈黙が流れた。その間セレネはただ優しげな眼差しで私を見つめていただけだった。



「教会はどう?」


「今は気にしないで。休みなさいと言っているでしょう」


 やはり状況は良くないのだろう。セレネはこれまで私が受け入れられる下地作りを続けてきてくれた。だと言うのにその私が世界中から三万もの命を奪ってしまったのだ。当然あの町にも犠牲者はいた筈だ。むしろ他の地よりも反発や動揺は大きい筈だ。これを期にニクスへの信仰も薄れるだろう。



『実際に手にかけたのはその中の千三百五十人よ。大半は既に死者だった者達よ。それを忘れないで』


 関係ないわ。イロハもわかっているでしょ。例え真実を説明したって誰にも納得出来やしないわ。だから私が背負うしかない事なのよ。


『私"達"がよ。それも忘れないで』


 ありがとう。イロハ。



「セレネ。やっぱり教会に」


「アルカ。本当に大丈夫よ。落ち着きなさい。あの町への影響は殆ど無いの。本当よ?」


「でも……だって……」


「アルカ。冷静になって考えてみてください。例え世界中の中から三万人の命が喪われたのだとしても、世界の総人口は三億人もいるのです。つまり喪われた命は僅か0.01%に過ぎません」


「そんな言い方!!」


「アルカ。あの町から喪われた命は一人もいないわ」


「……え?」


「今回の事件で命にまで影響が及んだのは一万人に一人だけよ。人的喪失は最低限で済んだのよ。アルカが全力を尽くしてくれたお陰でね。むしろその後アルカが勝手に流した放送の方が問題だったくらいよ。まあでも一部ではあの放送のお陰でアルカの力と信憑性が増したとも言えるわね。信心深い者達の多かったあの町だからこそ犠牲者が生まれなかったのだとまことしやかに囁かれているわ」


 ……それは大げさだ。まだそんな噂が流れる程の時間なんて経っていない筈だ。セレネは私を元気づける為だけにそんな話を? それとも意図的にそういう噂を流して事態を収拾したって事?



「あの教会の町は元々十万人にも満たない都市だもの。それに邪神も意図的に近づけなかったのでしょう。ニクスに気取られたくなかったのよ。あの町はかつてニクスの目を釘付けにする為の囮でもあったのだもの」


 そっか。アムルの暗躍と金属生命体の侵蝕は意図的に棲み分けられていたのか。数年前まで魔王が封じられていたあの地はニクスの監視下でもあった筈だ。邪神が意図的に避けるのも必然のことだったのだろう。



『マスター。命に影響を及ぼしうる状態だった十五万人とは別に潜在的な寄主も約一千万人程存在していました。つまり我々はそれだけの命を救ったのです。悲観する事はありません。マスターは、我々は胸を張って良いのです』


「そうです。救った数の方が遥かに多いのです。例え0.01%の犠牲者を救えずとも3%以上の命が救われたのです。アルカは一千万人もの命を救ったのです。例え後ろ指を指されようと恥ずべき事ではありません。アルカは堂々としていれば良いのです。過剰に心配する必要もありません。一万人に一人の命が喪われようと、ニクスの育て上げたこの世界はそう容易く崩れ去ったりはしません」


「あらノアったら。何時の間に計算が早くなったのかしら」


「バカにしてます?」


「良い子ね~♪」


「もうセレネったら。それは幾ら何でもあからさま過ぎよ」


「なら笑いなさい。そんな顔でいたらルビィだって不安がるわ」


「うん……」


「仕方ありませんね。今回だけは見逃してあげましょう」


「それよりノア。私喉が乾いたわ」


「はいはい。仰せのままに」


「ふふ♪ お願いね♪」


 ノアちゃんが退室すると、セレネは再び私に向き直った。



「さっきの話しも踏まえてこれだけは先に言っておくわね。きっとまだ誰も伝えていないでしょうし。それに後から知ればアルカはまた落ち込んでしまうわ。心して聞きなさい。そのうえで抱え込む事なく笑っていなさい。皆の為にね」


「……うん」


「エルフの国にも犠牲者が出たわ」


「……うん」


「一人だけ。長老、レルネさんが命を落としたの」


「……どうして……だってイオスが」


 取り憑いてた時に気が付かなかったの……?


『気付かなかったのでしょうね。それか単に寄生したのがあの後だったのかもしれないわ』


 そんな……。



「ダメよ。そんな顔しないで」


「……ノアちゃんは」


「ノアにもまだ伝えていないわ」


「……そう」


 ノアちゃんはエルフの国にアスラ残党が攻め入った所を目撃していた。エルフ達がアスラ残党を捕らえた所もだ。その時強引に回収しなかった事を後悔する筈だ。出来たかどうかはともかく自分に責任があるのだと嘆き悲しむ筈だ……。



「それからセルマさんも目を覚ましたわ。ルネルはまだ暫くエルフの国を離れられないけれど、セフィが代わりに見ているから安心なさい」


「……うん」


 ルネル……ごめんね……ルネル……。



「アルカ」


「……うん。皆の前では笑顔よね。わかってる」


「それで良いわ。ノアが戻る前に受け入れなさい」


「…………うん」

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