42-36.見えない心
「キーちゃん……やっぱ未来ちゃんにしません?」
ノアちゃんは混乱してきたようだ。
「ユーちゃんも誰の事か分かりづらいですし」
「『『賛成~』』」
「考えたくはないけどもう一人来たらどうするのよ?」
「その時はその時です」
「そうよ。渾名なんてまた考えれば良いじゃない」
そりゃそうだけども。
「ミユちゃん、ミキちゃん、ユキちゃんなんてどう?」
「もう新しいのは考えなくていいってば」
ぐぬぬ……。
「お姉さん、ミーちゃん、未来ちゃん」
「私だけさんなの?」
「お姉ちゃん」
「ふふ♪ ノアちゃん♪」
私抜きでイチャイチャしおって。
「小春、ノアちゃん」
お姉ちゃんが少しだけ改まった様子で私達の名を呼んだ。
「一つお願いがあるの」
「なんですか?」
「私の、未来としての私の事は家族に黙っていてほしいの」
「ダメよ。ちゃんと紹介するわ。負い目があるのはわかるけどね」
私がこう言う事くらいお姉ちゃんならわかるでしょうに。
「それでもよ。お願い。小春」
「ダメ絶対に。けどそこまで言うなら理由だけは聞かせて」
「私の存在は秘匿すべきだからよ。あの人が、偽神がこの世界に再び目をつけるキッカケになるかもしれないわ」
……なるほど。確かに可能性はある。偽神が未練がましく未来ちゃんを連れ戻そうとするかもしれない。少なくともその生存に気付かれる可能性は存在する。お姉ちゃんの提案は理に適ったものだ。知る人間を少なくすれば偽神が気付く可能性は減るだろう。
「アルカ。お姉ちゃんの提案を飲みましょう」
「……ダメよ」
『アルカ。自分でもわかっているじゃない』
「ダメだってば」
「小春。お願いよ。これは必要な事なの。その代わりに未来を小春の中に住まわせて」
なんでそんな勝手な事を言い出すの? さっきと話しが違うじゃん。
「……ミーちゃんは?」
「必要ないわ。私達は三人で一人だもの」
心の中で三人で話し合ったの? 私達とこうして話をしているのに相談してくれなかったの?
『アルカだって何時もやっている事じゃない』
……イロハの意地悪。
「……そんな風に開き直られるのは嫌」
「お願い。小春」
「……私が強くなったら伝えるからね」
「それで良いわ。ありがとう。小春」
「うん……」
お姉ちゃんに寄り掛かるとまた優しく抱きしめてくれた。
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「アルカ!!」
「ただいま。ニクス。無事に終わったよ」
「アルカ!? どうしたの!? 元気ないの!?」
「ううん。大丈夫。けどちょっとね。色々ありすぎて」
「そっか。うん。なら無理せず休んでいて。こっちも順調だから。ノア。アルカをお願いね」
「ええ。任せておいてください」
「ダメよ。私も動くわ」
「いいから!!」
強引に転移させられてしまった……。
「あれ? お姉ちゃんは?」
「ニクスの側に残ったようですね」
もしくはニクスの力を以ってしても転移させられなかったのか。その可能性の方が高そうだ。まだイオス達も出てこれてないし。
「ノアちゃんは皆の方をお願い」
「ダメです。アルカの側に居ます。ですがニクスとセレネに状況を聞くくらいはしてあげます。アルカは横になって休んでいてください」
「別に私は……」
「無茶はダメよ。既に移行が始まっているの。ここで下手なことをして吐き出してしまえばイオス達が無理をしてくれている意味が無くなるわ」
「むぅ……」
遅れて現れたお姉ちゃんは私の手を握りしめた。やっぱり有線接続の方がダウンロード速度が上がるのかしら。
「お姉ちゃん重すぎ」
「ちょっと。なんてこと言うのよ。小春だからって許せない事もあるのよ?」
「体重の話なわけないじゃん」
先程から未来ちゃん部分だけを移し替えているのだけど一向に終わる気配がない。イオス達女神の力を除いたお姉ちゃん成分だけの中から更に三分の一を切り出しているのに。
その作業のせいか自分の身体がとても重く感じる。正直立っているだけでも億劫だ。移行作業に処理能力を使いすぎているのだろう。お姉ちゃんはピンピンしてるのに。理不尽。
こんな状態で出歩くのは確かに無謀だ。とは言え皆の事も気になる。そしてニクス世界の人々の様子も。そっちは少し怖いけど。でも私は知らなくちゃいけない。
「セレネ達もそろそろ帰って来るそうです」
「そっか。皆が無事に帰ってきたら少し休ませてあげて。それからまた会議よ」
「はい。アルカもそれまで休んでいてください」
仕方ない。今だけだ。未来ちゃんの移行が終わるまでの辛抱だ。大人しくしていよう。