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42-32.vs邪神⑤

 お姉ちゃんが動き出した。段々と邪神の残骸に近付いていく。道中に散らばった眷属達の力を残らず回収して再び自らの力に変え、八つの首を更に巨大化させて迫っていく。


 程なくして大蛇は邪神へと喰らいついた。丁寧に端から塵一つ残さず平らげていく。邪神も残った眷属達も区別なく、その大きく開いた口で一切合切を飲み込んでいく。


 大蛇は邪神の力を取り込んだ事で内側から傷ついていく。それでも意に介す様子はない。最初からわかっていた事だからと躊躇なく自らの内側に取り込み、丁寧に邪神の毒を打ち消していく。


 邪神の力はみるみる内に衰えていった。先程までの遅々とした攻防が嘘のようだ。今のところ援軍の様子も無い。逆に怯んで引っ込めるような事もない。ただ力なく抵抗を繰り返すだけだ。それも半ば自動的に行われいてるに過ぎないのかもしれない。邪神の力は人の理解できる理で動くわけではないのだろう。本当に虫みたいだ。一切の知性を感じない。ただただ不気味に蠢くだけだ。気持ち悪い。



 そもそも邪神はやり返される事なんて想定していないのかもしれない。こうして力が失われていく時にどうしたら良いのかなんてわからないのかもしれない。これは所詮毒針だ。毒針自体に思考力なんてある筈もない。この話のオチとしては、外界に座する邪神の本体が気付いた時には毒針の先端が少し欠けていたって程度の話だ。だから今すぐどうこうって事も起こり得ないのだろう。邪神の本体からすれば私達の抵抗こそがちっぽけ過ぎるものなのだから。


 既に神々の力は取り戻した。だから奴らに私達の知性は残っていないのだ。後はもう消化試合だ。文字通り喰らって消化していくだけだ。そうして複層世界に開いた穴を塞ぐだけだ。二度と奴らが戻ってこれないよう、強固に守りを固めるだけだ。きっとそれだけなのだ。これでようやく全てが終わるのだ。六百年に渡る因縁にも今度こそ全てのケリが着く筈なのだ。



「……本当にこれで終わりなのでしょうか」


 ノアちゃんが小さく呟いた。まだ何かあると疑っているようだ。邪神がこの程度で終わる筈が無いと懸念しているのだろう。



「終わる筈です。敵に逆転の目は残されていません。今更力を送り込んでも手遅れです。ミユキとイオス達の策が上手く嵌りました。後はもう塞ぐだけです。それで終わるのです」


 シーちゃんも言葉とは裏腹に半信半疑だ。正直私もまだ疑っている。何か嫌な予感がする。本当に漠然とした感覚だ。ただ眼の前の光景が信じられないとかあっさりと終わりすぎたとか、そういう事だけじゃない。何かある。その筈だと心が訴えている。



 私達のそんな予感に反して遂に邪神の姿は跡形もなく消え去った。全てが大蛇の腹に収まり、複層世界に開いた穴は既に塞がり始めている。これで終わりだ。今度こそ本当に終わったのだ。けれどお姉ちゃんは未だ大蛇の姿を保っている。視線を前に向けたまま動こうとしない。完全に穴が塞がるまで気を抜くつもりは無いようだ。



「「「!?」」」


 ミシリと、何かが軋む音がした。


 いや、気の所為だ。音なんかしていない。少なくとも私の耳には届いていない。けれど光は違う。目には届いている。複層世界の壁に開いた穴が塞がりかけたその時、小さくなった穴の周囲に再び亀裂が生じたのをこの目で目撃したのだ。


 しかもその小さな穴から人のような何かが頭から飛び込んできた。続いてもう一つ、その小さな何かより少しだけ大きな何かが、穴を手で押し広げるようにして入り込んできた。



 お姉ちゃんは咄嗟に大蛇の首の一つを走らせて小さな何かを口に含んだ。そのままごくりとも音を立てずに小さな何かを飲み干した。続けて現れたもう一つには残った七つの首全てで喰らいついた。


 残った何かでも精々人間程度のサイズだ。あの何かからしたら大蛇の首一つだって島みたいなサイズだ。そんな首が七本も迫ってくるのだ。避けられる筈も止められる筈もない。


 そんな当たり前の想像はあっさりと裏切られた。何かの前で一斉に動きを止める七つの首。勿論お姉ちゃんが自分で止めたわけじゃない。その何かに止められたのだ。信じ難い事に。



「きゃっ!」


 突然私の膝に女の子が降ってきた。よく知っている娘だ。私のお姉ちゃんだ。正確にはミーちゃんの方だ。けれど何かがおかしい。そうか。この娘はナノマシンで出来た肉体を持っているのだ。明らかにさっきのミーちゃんとは違う。ミーちゃんはこのお姉ちゃん世界に限っては、半神と化した新たな肉体を得ていた筈なのだ。ならこの娘はいったい……。



「まさか未来ミーちゃんですか?」


 え? ……え?



「……えっと。もしかして助けてもらっちゃった?」


 いや聞かれても……。



「あなたは以前私達の前に現れた未来ミーちゃんなの?」


「……未来……ええ。おそらく」


 どうやら本人も状況がよくわかっていないようだ。そもそも未来ミーちゃんという呼称はこっちが勝手に呼んでるだけだものね。この質問じゃ困惑するのも当然か。それでも一応察してくれたみたいだけど。



 ならあっちは?


「まさか偽神なの?」


「いえ、あれは違います。マスター。邪神由来のものと思われます」


「でも人型っぽくない? しかもちょっと私に似てない?」


 シーちゃんが敵の姿をズームして映し出してくれた。



「ちょっとどころかまんまアルカですね。真っ黒ですけど」


「シャドーとかダークとかつきそうね。あれは何? まさか偽神が邪神に負けて取り込まれちゃったの?」


「偽神? ああ。そういう。ううん違うの。あの人が外神にちょっかい出しちゃって。自分の力の一部をわざと分け与えたの。あれはそれを元に生み出されたコピーみたいなもの。途中まではあの人と一緒に逃げてたんだけど……」


 遂に偽神は未来ミーちゃんまで囮として切り捨てたのか。と言うかまた余計な事したのね……。本当嫌んなっちゃう。



 いや、マジで洒落にならんて。なんで偽神と邪神の合体版みたいなのまで相手しなきゃなんないのさ……。偽神の力の一部たって、あいつ幾つもの世界で原初神の端末を取り込んでるんだから、全盛期のイオスくらいの力は平気で放り込んでる可能性がある。


 実際あのダーク私は今のお姉ちゃんの巨大質量をものともしていない。先程までの半ば自然災害みたいな邪神の力の塊とは別物だ。既にお姉ちゃんは邪神が纏っていた神々の力も使い果たしてしまった。全開の原初神クラスを圧倒出来るだけの出力なんて残っていない筈だ。


 そもそも当の偽神本人が逃げていたって話だ。与えたのが力の一部に過ぎずとも、それが呼び水となって邪神の力を引き出しているのかも。あの偽神モドキの力は既に偽神をも超えているのかもしれない。



「どうやってこの世界に戻ってきたの?」


「……ごめんなさい。わからないわ。私は無我夢中で」


 偽神の差し金かしら? でもイオスが偽神を出禁にしている筈なのよね。だからか? それで偽神と未来ミーちゃんが逸れたのか? あの偽神でも未来ミーちゃんだけは気に入って側に置き続けていたって話だものね。本当に手放す気なんて無かったのかも。偽神にとっても想定外の事態だったのかもしれないわね。いや、私達に失敗作を押し付けようとしてきたのは間違いないんだけども。


 さっきのノアちゃんの話と一緒だ。過剰なエネルギーを既に滅ぶ事が決まっている複層世界に放出して破棄しようと言ったやつだ。


 偽神も既にこの複層世界を滅ぶものと判断してゴミ捨て場のように失敗作を送り込んできたのだ。未来ミーちゃんをその為の餌にしたのだろう。うん。やっぱりそっちの方がしっくりくる。あいつの考えそうな事だ。たぶんきっと間違いない。そうでないと今度はあいつ自身が来ちゃう。出禁にされていた事に気付いてキレ散らかす筈だ。完全な逆ギレだ。その方が面倒な事になる。だからいっそ偽神本人は最初から乗り込んでくる気なんて無かったって事にしてほしい。ほんと面倒だから。そんな事しなくてもいずれ私が力をつけて倒しに行ってあげるから。



「あなたも力を貸しなさい。これでまたお姉ちゃんが強くなれる筈よ」


「力を? どういう事? 詳しく聞かせて頂戴」


 どうやら未来ミーちゃんは私達に対して悪いと思ってくれているようだ。やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。偽神が要らないって言うなら遠慮なく貰っておこう。そして何時か必ず後悔させてやる。私のお姉ちゃん達を切り捨てた事を。

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