42-27.一凸お姉ちゃん
お姉ちゃんの状態は想像以上に深刻だった。私がイロハを引っこ抜いてしまったせいで急激に融合が進行してしまったのだ。もはやイロハですら食い止めきれない状況となっていた。
「それで泣きついてきたのね。良いわ。手を貸してあげる。確かにこれは貴方達の手には余るでしょうし」
慌ててイオスに助けを求めると、こともなげに引き受けてくれた。
「分離するんだよ? 融合するわけじゃなからね?」
「無理よ。私は混沌だもの。安心なさい混沌の中で自我を保つ術は心得ているわ」
「ダメじゃん!! イオス前はしょっちゅう話し方変わってたじゃん!」
「今は小春の伴侶たる私で固定出来ているでしょう?」
そうだけど!!
「ついでにさっきの蛇も貸しなさい」
「混ぜるの!? 本気で!?」
「都合が良いじゃない。無限の成長だなんて今まさに欲しかったやつだもの」
それなら破裂の心配もなくなるの!?
「本当の本当にお姉ちゃんは無事なのよね!?」
「勿論よ。私に任せなさい」
イオスがここまで言うなら……いやでも……。
『悩んでいる時間は無いわよ』
イロハのせいでね!! イロハが真剣に対策を練ろうとしてくれた結果だとはわかってるけども!!
「「安心して小春♪ たかが一凸するだけだから♪」」
「ちょっと! こんな時に変な冗談言わないでよ!!」
「今度未来ミーちゃんに会った時は二凸目として」
「ノアちゃん!!!」
なんで皆して呑気なのよ!?
「もう! 絶対絶対ぜぇ~~~~ったい!! お姉ちゃんを守り通してよね!!」
「勿論よ! 任せなさい!!」
イロハを回収しつつお姉ちゃんズと蛇ちゃんをイオスに預けた。イオスは邪神端末をラフマとテルスに任せてお姉ちゃんズに集中し始めた。
「ねえ、考えたんだけど蛇ちゃん私に混ぜた方がよかったんじゃ」
「もう手遅れみたいですよ」
ちくせう。
ノアちゃんの言う通り蛇ちゃんは消え去り、ミーちゃんの体は中の意識が抜けてしまったようにその場に倒れ込んだ。私はその体を慌てて受け止める。
「終わったわ」
「お姉ちゃん!」
「大丈夫よ。小春。何の心配も要らないわ」
『私も無事よ。ふふ♪ 少し懐かしいわねこの体も♪』
呑気な……。私がいったいどれだけ心配したと……。
『そっちの体も回収しちゃいましょう♪』
ナノマシンで出来た十六歳くらいのミーちゃんの肉体が私の腕の中から砂のようにバラけて、残った十二歳くらいのお姉ちゃんの頭部とお尻に集まって猫耳と尻尾が形成された。
「なんで猫?」
『これがデフォルトなの』
本当に意識は別々に残っているようだ。今の会話だけで断定するのは難しいけれど。
「こんな事なら最初からイオスに頼めばよかったですね」
そういう問題じゃないし。
「それではミドガルズオルムの力が手に入りませんでした」
「それもそうですね。ところであの蛇の意識はどうなったのですか?」
「残ってるわよ」
なんでまた?
「安心なさい。悪さは出来ないわ」
「残した理由は?」
「消す必要も方法も無かったからよ」
イオスですら無理なの?
「神々ですら手を焼く怪物よ。飼い慣らした方が役に立つでしょう」
「それだけ危険も多いじゃない」
「私が付いているわ。早速続きを始めましょう」
結局お姉ちゃんが器になるしか無いのね……。
『何をグズグズしてるのよ。アルカも一緒に行くんでしょ。切り替えなさい』
イロハには後でお話があります。
『良いわね。久しぶりに二人きりで過ごしましょう。この戦いが終わったらね♪』
「どうしてそういう事ばっか言うのよ!」
ジンクスって舐めたらダメなのよ!
「痴話喧嘩は後になさい。それより一旦外に出なさい。小春の肉体を回収するわ」
イオスの指示に従って、私とお姉ちゃんだけでニクス世界に移動した。
『アルカ!』
「ニクス? 何か問題?」
『違う! こっちは心配しないで! 頑張って!』
「ニクスも! この世界と皆の事は任せるわ!」
『うん!』
今度はイオスが新たに生み出したお姉ちゃんの内在世界へと飛び込んだ。
「こちらでは私が案内するわ」
「あれ? ミーちゃんこっちではその姿なんだね」
ミーちゃんは十六歳の方の姿になっていた。
「ええ。魂の記憶はやっぱりこっちの方が馴染み深いのね」
「もしかして元の人間の体なの?」
少なくともナノマシンでは無いはずだ。お姉ちゃん世界の中にそんなものは入り込んでいない筈だし。
「ううん。これは神様に近いんだと思う。それより小春」
「ええ。皆を呼びましょう」
お姉ちゃん世界に、私世界からシーちゃん船を直接取り出した。
「深雪! 根性見せなさい!!」
「ええ!」
イオス、ラフマ、テルスが甲板に集まり、それぞれに力を解放し始めた。イオスとテルスは抑えていた力を解き放ち、ラフマは世界の外で待つより上位のラフマから力を引き出していく。
「っ!」
「お姉ちゃん!?」
「っ……♪」
額に汗を浮かべながら胸を押さえ、それでも笑顔で答えてくれたお姉ちゃん。今頃外の世界でももう一人のお姉ちゃんが頑張ってくれている筈だ。自身の中で急激に膨らんでいく力に圧迫され、自分自身が引き伸ばされていく感覚に苦しんでいる筈だ。私に出来たのは眼の前のお姉ちゃんを抱き締める事だけだった。
「まかせろ!」
ハルちゃんが一人でニクス世界に戻っていった。もう一人のお姉ちゃんを支えに行ってくれたのだろう。なら向こうは安心だ。私はこっちのお姉ちゃんに集中しよう。
「お姉ちゃん!?」
お姉ちゃんの皮膚に一瞬鱗のようなものが現れた。一瞬すぎて気の所為かと思いかけた直後、それはよりハッキリとした形を伴って現れた。
「イオス! お姉ちゃんが!!」
「こは……る……だい……じょうぶ……」
「でも!!」
「護って……くれて……る……だけ……よ……」
護ってって!?
『落ち着きなさい。ヨルムンガンド、いえ、ウロボロスが器を守ろうとしているのよ。成長と不滅の力でね』
それってつまり無茶だったんじゃん! 最初から収まりきらなかったんじゃん!!
『たぶんイオス達はウロボロスの力をあてにして少しばかり強引に力を集めているのよ。当初の予定よりね』
「イオ!」
『やめなさい! 今邪魔してイオス達が見誤ったらどうするのよ!』
「けど!」
『心配は要らないわ。本当に限界を超えるような事はしないわよ。それよりアルカはミユキを励ましてあげなさい。精神体であるこっちのミユキがこの不安定な状態で意識を失うような事があれば何が起こるかわからないわ』
「!! お姉ちゃん! お姉ちゃん! 頑張って! お姉ちゃん!!」
「え……ええ……」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「だい……じょ……ぶ……よ……」
「お姉ちゃん!!!」




