42-24.反撃準備③
「……」
「ねえ、小春。もう案は出尽くしたと思うの」
「……まだよ」
……何か。きっと何かある筈だ。そう思うのに。
「"器"とはなんなのでしょう」
「何って? イオス達の力を混ぜる為の受け皿よ?」
きっとパレットみたいなものだ。
「そんな事が本当に可能なのですか? たった二人の人間程度に受け止められるものなのですか? 受け止められたとしてそれは本当に邪神に通用するものなのですか?」
「それは……」
今のイオスの力では足りない。少なくとも全盛期の力は必要だ。足りない分をラフマとテルスに補ってもらう必要がある。
「内在世界とはなんなのでしょう。私の心の中にはアルカのような地表は存在しません。何も無い空間です。もし仮にこの空間いっぱいにイオスが入ってきたらどうなってしまうのでしょう。私は私のままでいられるのでしょうか。アルカはアルカのままで。ミユキお姉さんはお姉さんのままで。変わらずいられるのでしょうか」
……変わってしまう筈だ。内在世界とは私達の心そのものだもの。それが限界いっぱいまでギチギチに詰め込まれてしまうのだ。合体戦士は思いつきに過ぎない。そもそもそれで勝てる保証もない。本当にこんな方法しか無いのだろうか。
『受け皿はアルカに力が流れ込まないようにする為の緩衝材の役割も担う事になるのよ。イオスを主体にするのはラフマ達に勝手をさせない為よ。どの道器は必要なの。合体は力を集める為だけじゃなくその力を制御する為にこそ必要なの。そして同時に対抗手段を手にする意味もある。テルスにしか邪神の端末を突破できなかったでしょ? 一々役割分担なんてしていては隙が生じるわ。器はそれらを纏め上げて敵に拳を届かせる役目も担うのよ。だからこそミユキ以上の適任は存在しないわ。ミユキの経験とミーちゃんのナノマシン適正が合わさればより多彩な手札にもなり得る筈よ』
イロハ……。
『ごめんね。アルカ。アルカの気持ちもわかるけど私にとって何より大切なのはアルカだから』
「……うん。大丈夫。わかってるよ。イロハ」
「ねえ、小春。この戦いが無事に終わったらミーちゃんを小春の中に住まわせてくれないかしら?」
「それは名案ですね。ノエル達と同じです。ミーちゃんの経験はミユキお姉さんにも伝わります。これで全員何時でも一緒にいられるのです。意識の交わりも最低限に抑えられるかもしれません。ミユキお姉さんをハルが守り、ミーちゃんをイロハが守るのです。それでアルカもより安心できるのではないでしょうか」
「……まだよ」
「そうですか。ええ。勿論付き合いますよ。アルカが納得するまで幾らでも」
「私達もよ。融合を強行したりしないから」
「だから元気を出して小春。そんな調子じゃ名案なんて出てこないわ」
「……うん。そうだね」
『ようは』
『ないざいせかい』
『ひろがればいい』
「ハルちゃん?」
『それでイオス』
『おさまる』
『アルカもっと』
『ちからはいる』
「その方法が思いついたのですか?」
『ちがう』
『それかんがえる』
『みんなで』
「そうね。何か取っ掛かりは欲しいものね。良い提案だと思うわ。きっと小春が偽神も邪神も圧倒できる程の力を手にしたならイオスだって止めない筈よ」
『内在世界の拡張は意図的に引き起こされているわけではありません。常に膨張を続けているだけです。時間さえあるならいずれはイオスの目論見通りにマスターの器は完成するでしょう』
「けど私世界の膨張は私が深層にいる間はおきないのよね」
『はい。マスターがニクス世界に戻る必要があります』
「ならその状態で私達の深層へ潜ってみては如何ですか?」
『可能性はあります。ですがそれだけでは足りません。イオスを収める器へと到達するには膨大な時間が必要となるでしょう。その何千年もの間、マスターはノア達の深層で過ごすしかありません。何か膨張を加速させる手段が必要です』
やっぱり普通に過ごしているだけじゃ時間がかかるのね。けれどどの道必要な事だ。鍛錬方法は見つけないとだ。
『それ以外にも懸念はあるわ。邪神の端末が置かれているのはアルカの内在世界よ。その間イオス達がずっと張り付いているだけで済むのかもわからないわ。無いとは思うけど時間を引き伸ばしすぎた結果、消耗し過ぎて太刀打ち出来なくなったじゃ笑い話で済まないわ』
一旦ニクス世界に移すのも、あの様子じゃ難しそうよね。
「それに途中でノアちゃんの中には収まらなくなる筈よね」
そりゃそうか。私の力だって増していくんだし。なんなら既にノアちゃんの内在世界には入れないかもしれない。
「いっそ内側から膨らましてみます? それでイオスを受け止められるようになるやも?」
「おっかない事言わないで。それでノアちゃんが破裂しちゃったらどうするのよ」
「おっかない事を言ってるのは小春の方じゃないかしら」
「空気読んで。お姉ちゃん」
ミーちゃんにまで突っ込まれてる。やーいやーい。
『元気出てきたわね』
空元気よ!
『それもいい』
『何事も自覚することが肝要です! アルカ様!』
頑張るわ!
「なら新しい転移者を呼ぶのはどうですか?」
ノアちゃん?
「当たりが出るまで何度でも」
うん?
「イオスが収まればSSRです。ラフマもいけるならURです」
「その冗談は悪趣味よ。やめなさい。ノアちゃん」
誰よ。ノアちゃんにガチャなんて教えたの。
「でもSSRでも五人集まれば器として完成するかもしれませんよ?」
「発想がサイコ過ぎるでしょ!? 無理やり誘拐した挙げ句勝手に融合するなんて猟奇的過ぎるわよ!?」
「そんな非人道的な事をすれば、或いはしようとしすれば、あの世界を見守る神々が制裁の為に集まってきたりしませんか?」
「え? ……あ。そういう事」
「神々が力を合わせれば合体するまでもなく倒せるかもしれません」
「ラーやゼウス、オーディーンとかが来てくれるなら……」
「他にもユピテルとかシヴァとかアマテラスとか!」
『ダメよ。邪神は神を取り込むのよ。下手にぶつけても相手の力が増していくだけよ』
そうだった。その懸念もあるんだ。
「やっぱり合体しかないのかしらね」
「そうだわ! 神にもそんな逸話を持ったやつがいるじゃない! クロノスとか!」
「クロノス? ゼウスの兄弟を食べちゃったあの?」
「そうよ! そいつを呼べば良いのよ!」
「それは合体と呼べるのですか?」
「邪神も食べてもらいましょう♪」
「内側から侵食されたりしない? それに結局ゼウスには負けちゃったんでしょ? ならいっそテュポーンでも呼んだ方が良くない? あっちならゼウスに勝ったこともあるもの」
「そもそも今更何を呼んだとしても原初神であるイオス以上という事はあり得ないのでは?」
「ノアちゃんが呼び寄せるって言い出したんじゃん」
「中々進展がありませんね。そろそろ一度休憩でも入れましょうか」
「こんな時に何言ってるの?」
「こんな時だからこそです。皆で愛し合えばアルカの調子も上がるでしょう」
「心配要らないわ。お陰様で絶好調よ」
「嘘ね。小春が絶好調ならこんな堂々とした誘いを断る筈がないもの」
「お姉ちゃんはもうちょっと空気読んで」
「空気を読むのはアルカの方です。これ以上反論が無いなら私達の勝ちです。お姉さんとミーちゃんに融合してもらいます。それが嫌ならこの時間稼ぎに乗ってください」
「うぐ……わかったわよ」
いつの間にかノアちゃんまで向こう側についてるし……。幾らでも付き合うって言ってくれたのに。
「ノアちゃんも増々小春っぽくなってきたわね」
「ありがとうございます♪ とても嬉しいです♪」
なんだかなぁ。