42-21.正しい選択
「以上が事の顛末です。何かご質問はございますか?」
「「「「……」」」」
カノンの実家はまだマシな方だった。私の暴挙を痛ましくは思いつつも、それでも一定の理解を示してくれた。少なくとも冷静に話を聞き届けてくれた。
「何故先に相談してくださらなかったのですか?」
それでも宰相さんだけは厳しい声音で問いかけてきた。
「我々ならば協力や制止は出来ずとも、理解し納得する事は出来た筈なのです」
宰相さんはこの状況で私達を気遣ってくれているようだ。優しい人だ。それにこちらにはカノンがいるものね。流石に今は連れてきていないけれど。家族は全員、半ば強制的に私世界へと送り込んじゃったし。きっと後で叱られるわね。
「あなた方まで道行きを共にする必要はありません。これは全て私の一存で引き起こされた事態です」
事前に知ってしまえば共犯者になってしまうもの。だから敢えて救えない人がいる事だけは誰にも言わなかった。私の声明にはさぞや驚いた事だろう。だが必要な事だ。例え彼らに止められるだけの力が無くとも関係ない。何より彼ら自身が苦しむ事になる。カノンもそれがわかっていたからか、或いは単に小国に過ぎない故郷には必要無いと判断したのか、この国には戻らず帝国の方で対処にあたってくれていた。
「この城を離れようともあの子"達"は私達の娘だ。そしてその伴侶である君もまたそうだ。親としての責任からは逃れられんものなのだよ」
カノンのお父様が優しげな声音でそう告げてくれた。お義父様はカノンだけでなく、アリアもルカも未だこの家の娘なのだとそう協調してくれた。こんな事になっても私達との縁を切るつもりは無いのだと、そう言ってくれたのだろう。
「これ以上のご迷惑はおかけしません。当面はこの地にも守りを置きましょう。何かあればすぐさま対処致します」
「そういう事を言っているのではありません」
カノンのお母様が私を抱きしめてくれた。
「困っていたなら相談なさい。迷惑をかけるだなんて他人行儀な物言いはおよしなさい。例え力になれずとも味方でいてあげる事は出来るのです。そしてこれは同時にあなたの責任でもあるのです。あなたは私達の娘を連れ出したのです。私達との関係を良好なものとし続ける責任があるのです。勝手に見限らないでください。私達は家族です。あの子達が王位を手放そうがそれだけは変わりません。どうか覚えておいてください」
「……ごめんなさい。お義母様」
「随分と大きな娘が出来てしまいました。アルカさんはカノンより私との方が近いのではありませんか?」
「……うん。そうね」
「ただの冗談です。ここは笑ってください」
「……ちょっと無理かなぁ」
お義母様の冗談は笑えない。色んな意味で。
「今度カノンの生活ぶりを見せて頂けませんか?」
「……うん。必ず。その時は家にも招待させてください」
「楽しみに待っています。約束を違える事は許しませんよ」
「はい!」
必ずまたここに来よう。今ここからでも自らの行いに胸を張ろう。縮こまって逃げ出すのは卑怯者のする事だ。この人達の前で二度とそんな姿は見せないと誓おう。
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「お疲れ様です。アルカ。状況は全て見ていました」
「やってくれたわね。まさか私達を軟禁するなんて」
「ほんっと! 信じられないわ! やることやったら用済みなの!? なんで私達に最後まで責任取らせてくれないのよ! 自分だけで何でもかんでも抱え込まないでよ! 私達家族でしょ! 苦しい時も一緒って誓いあったでしょ! どうしてアルカが誓いを破るのよ!」
「ごめんなさい。カノン。それにセレネ達も。でも聞いて。まだ全部は終わってないの。今ね。カノンのお母様にも同じように叱られちゃったの。私も思い直したわ。一人で回るんじゃ時間もかかる。分体を使っても世界中でいっぺんに話をするのは無理がある。だからね。皆の力も貸してほしいの。私の分体と一緒に世界を回ってほしい。それぞれに補佐をしてほしいの。お願い出来るかしら?」
「バカ言ってんじゃないわよ! 分体なんて要らないわ! 私達を信じて任せなさい! アルカが引き寄せた恨みつらみだって私達が受け止めてあげるわ! お母様達が言っていたのはそういう事よ! あなたはただ前を向いて胸を張っていなさい! その上でアルカはアルカが最もすべき事をするのよ! まだ非常事態は終わってないの! くだらない気遣いで見誤ってはダメなの! 私達に休んでる暇は無いのよ!」
「……うん。ごめん。わかった。あの世界は皆に任せるね。私は邪神を完全に滅ぼす方法を見つけ出してみせる」
「そうよ! それで良いの! 気付くのが遅すぎよ!」
「うん。ごめん。ありがとう。カノン」
「お礼なんて要らないわ! あなた一人で抱え込まないでと言っているでしょう!」
「カノン。その辺にしておきなさい。流石にアルカももう理解しいているわ。それよりさっさと動きましょう。とにかく今は時間が惜しいわ」
「そうね!」
本当に大丈夫かしら? なんだかカノンは興奮気味だ。私と両親のやり取りを見ていたせいかしら? それとも諸々の不安を吹き飛ばそうとしてる? 私もまだまだね。カノンの気持ちを読みきれないなんて。
『仕方ないわ。スミレが意図的に隠しているもの』
あら。イロハ。おかえりなさい。
『おかえりじゃないわよ! まったく! 私達まで隔離するなんて信じられないわ!』
『げきおこ』
『ぷんぷん丸です!』
悪かったってば。私もどうかしていたわ。
「アルカもようやく落ち着いたようですね。やれば出来る子モードは頼りになりますが、一人で何でもかんでもやろうとするのは悪いクセですね」
なんか名前が変わってる。前は本気モードとか仕事モードとかシリアスモードとか言ってた気がするけど。
「ノアはアルカについてなさい!」
「任せてください。別に、私が邪神を倒してしまっても構わないですよね?」
「ちょっとノアちゃん!? なんでそんなあからさまなフラグを!?」
「皆が気を張りすぎているからです。セレネもカノンもどうか気負いすぎないでください」
「そうね。ええ。気をつけましょう」
「大丈夫よ! 私は平常心だもの!」
よし。カノンは一旦お義母様のところに送ろう。きっとあの人に抱きしめて貰えば一発で元のカノンに戻るだろうし。
「それでは作戦を始めましょう!」
「「「「「「「「「「がってん!!」」」」」」」」」」