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42-19.世界掌握

 シーちゃんと別れた後はプロトちゃん達の様子を伺いながら寄生された者達を重篤な者とそれ以外とで分けていった。


 重篤な者とは寄生生物が停止命令を受諾した時点で死亡する者の事だ。既に脳みそを置き換えられて命を落としている者達は含まない。彼らは死者だ。死者はどう手を尽くしても生き返ったりなんてしない。最初から問答無用で片付けていくしかない。例え本人達にその自覚すら無くとも関係ない。そう割り切る以外に選択肢なんて存在しない。




 プロトちゃん達はまたたく間に世界中へと散らばっていった。プロトちゃんの増殖はたった数秒だ。五分も必要無い。あの饅頭よりずっと早いペースで世界を覆い尽くせる。


 結局こうなるなら最初からやっていれば良かったのかもしれない。穏便な方法なんて望まず、シーちゃん、つまりは私の力で世界中を覆い尽くしてしまえば一人でも多くの人を救えたのかもしれない。事前に備え、情報網を構築し、常に世界中を監視し続けていれば。最終的にはそれを目指そうなんてパンドラルカを組織したけれど人間らしい方法に拘って一つの商店から始めようなんて悠長に過ぎたのかもしれない。


 ギルドが私に対してそうしていたように、脅威を徹底的にマークして炙り出すべきだったのかも。ただ忌避するばかりでなく、もっと参考にしていれば或いは……。



 勿論そんな事を考えても意味なんて無いんだけども。別に私達は諦めたわけでもないし。あくまでこの世界の一員として人々の良き隣人で在り続けたいと今でも願っている。


 けれどきっと皆の見る目は変わるだろう。世界中を埋め尽くす私の手の者達を見て彼らは何を思うだろうか。少なくとも友好的な感情だけではない筈だ。



 でも案外空から遣わされた天使様とでも思ってくれてたりしないかな? プロトちゃん達だって見た目は可愛い女の子だ。そんな子達が優しく声をかけて回っているのにいきなり敵対を選ぶ者なんてそう多くは無いだろう。暫く村や町から出られなくなるので少々不便はさせてしまうが、あの子達が皆を救おうとしているのだって察してくれる人はいる筈だ。


 まあそれも最初のうちだけか。何時だって声が大きい者程臆病なものなのだから。




「他に俺達に出来る事はあるか?」


 久しぶりに会ったお父さん(ギルド長)は私達の未来を憂いて不安気な表情を浮かべてはいるものの、私達の言葉をすぐに信じて動き出してくれた。



「ううん。もう十分。後はギルドで大人しくしてて。そう何日も拘束したりはしないから」


「……そうか。……すまんな」


「もう。なんでギルド長が謝るのよ」


「……そうだな」


 わかってる。私は折角取り戻しかけた平穏を手放してしまった。また私の名前は広まるだろう。今回の騒動が私と関連付けられる事で、そのキッカケは私にあったのだと認識されるのだ。かつてテッサの町に魔物達が押し寄せてきた時のように。私が誰かの虎の尾を踏んだせいで世界が被害を被ったなんて言い出す奴がいる筈だ。むしろギルドは積極的にそう広めるだろう。私達が世界の敵となるのもそう遠くない事なのかもしれない。



「安心して。今はムスペルとヴァガルが味方についてくれてるから。それにギルド本部にだって理解者はいるもの」


「……そうだな」


 全然安心しそうにない。



「なんならギルド長も私達と一緒に逃げちゃう? 基本男子禁制だけど、パパだけ特別よ?」


 今はお爺ちゃんも滞在してるけど。



「ふっ。バカを言うな。俺が逃げたら誰がお前達の帰る場所を守るってんだ」


「別に私達、もうこの町で暮らす事は無いと思うよ?」


「そういう意味じゃない」


 もちろんわかってるよ。ありがとう。お父さん。



「名残惜しいけどもう行くわね」


「おう。また何時でも戻ってこい」


「ええ♪ いってきます!」




----------------------




「グランドマスター。この世界の総人口約三億二千万人の殆どが収容を完了致しました」


 案外とこの世界の人口って少ないのね。私とお姉ちゃん達が生まれた世界では数十億人もいたのに。少し身構えすぎていたかしら? 世界征服、いえ、精々掌握かしら? 何にせよこんなに簡単な事だったのね。世界中の人々が今や私の手の平の上だ。彼らはまともに身動きも取れない。ルネル以上の実力者がどこかに隠れ潜んでいるなんて事も無かったらしい。



「ありがとう。プロトちゃん。あと残っているのは?」


「エルフの国です」


 ああ。そっか。私とセフィ姉、エルヴィ、それからルネルくらいしか今は自由に行き来できないものね。何かまだ知らないルールでもあったのかも。



「ルネルはなんて?」


「そのマスター・ルネル本人が反対しているのです」


 え? なんでルネルが?



『ルネル。少し良いかしら?』


『ダメじゃ。エルフの国は関係ない。巻き込むでない』


『なにバカな事言ってるのよ。今回の件ではエルフ達だって無事とは限らないわ。既に巻き込まれているのよ。これは被害を抑えるために必要な事よ。ルネルだって全てわかっている筈でしょう?』


『……』


『ルネル』


『あの子達は皆わしの子も同然じゃ』


『気持ちはわかるわ。けれどこのまま手をこまねいていたって手遅れになるだけなのよ?』


『……頼む』


『何を? 現実から目を背けてほしいと? 既に亡くなっていたと暴かれたくないから? それともまさか私が関わったせいで彼らが不幸になるとでも? 以前エルフの国を襲ったアスラ残党を捕らえたのはエルフ達の判断でしょう? なのにルネルまで私を責めるの?』


『違う! そんなつもりは!』


『ならお願い。私は一人でも多くを救いたいの。ルネルもその気持は同じでしょう? 私以上にあの国の皆を救いたいと願っている筈でしょう?』


『……そうじゃな。すまん。手を貸しておくれ』


『ええ。もちろん』

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