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42-8.シーちゃんズ・プロトタイプ

「ノアちゃん達の方はどう?」


「今のところ問題ありません。四人とも専用の装置にて検査中です。正式な結果は今暫くお待ちください」


 わざわざこの為に検査装置まで用意してくれたのね。流石シーちゃん♪



「ありがと♪ ところでシーちゃんは今手を離せるの? シーちゃんズの方はどう?」


「こちらです。自立型の子機を新造したく思います」


「え? この子はもう?」


 新造って言うけど、もう形になってるよ? 生きた女の子にしか見えないよ? 今にも目を覚ましそうだよ?



「仕上げがまだです。マスターのお力を頂き、起動命令を以って正式稼働に入りたく思います」


「あら。今度は私とシーちゃんの娘を作るのね♪」


「いいえ。これはあくまで機械に過ぎません。そしてこの機体を原型として複製体を無数に用意します。この機体には自己増幅機能が備わっているのです。この子を含めたそれらは所詮代えの利く人形です。どうかそうご理解ください。マスターが入れ込み過ぎれば運用に制限が生じます」


「そうなの? 別に使い捨てなきゃならない程の事態なんて早々無いでしょ?」


「ですがこのように取り決めを交わさねば家族がまた数十人規模で増えてしまうのです。マスターのこの世界は日々拡大を続けています。管理しきるには相応の人手が必要です。この機体も必要に応じてその数を増やしていきます。その子達を全て家族と認識するのは無理があるかと。ですからどうかあくまで人型の機械と割り切って運用して頂きたいのです」


 なるへそ。まあそうね。先にそう釘を差されなかったら私は受け入れようとしちゃうもんね。仕方ないか。でもなぁ。



「でもその子だけは娘扱いしてみたりとか」


「ダメです。複製されるのはこの子と寸分違わぬ機能を備えた複製体です。ですがそれも最初だけ。この子達にはそれぞれの経験からくる独自の思考が芽生えます。内の一体だけを特別に認識する事は難しいかと」


「そっかぁ。単純な分体とも違うのね」


「はい。この世界は全てを我らで管制しきるのも難しい規模となりつつあります。ですから現場で独自の判断を下せる存在が必要なのです」


 ドロイドよりクローンの方が重宝されるようになったどこぞの宇宙帝国みたいだ。いや、経緯は全然違うけども。シーちゃんは別に反逆なんて考えて無いし。



「この子が管制機も兼任するの?」


「いいえ。この子はあくまで母体マザーに過ぎません。総合管制はこの子の複製に任せます。それらのフィードバックこそ受けますが、この機体には余計な負荷を与えず隔離致します」


「ならなんで人型に? そういうのって普通はなんか球体とかじゃない?」


 映画とかだとさ。大概反乱起こすやつだけど。やっぱり人型じゃないと人の心とかわからないのかしら?



「本当はシーちゃん自身もこの子を特別に扱いたかったんじゃない? 一人寂しく休眠装置の中で寝かせておくくらいなら家族として受け入れて一緒に活動させてあげたら? そういう経験だって統治には役立つでしょ?」


「それこそ避けるべき環境かと。この子自身に独自の思想が芽生えれば全体が歪みます。この娘はそういう意味でこそ特別なのです。人型にしたのは視覚的に計画を伝えやすくする為に過ぎません。複製体を効率良く生産する為でもありますが、役割を考えれば頭脳と肉体は分けておくべきなのかもしれません」


「それはなんかやだなぁ。けどこの娘を閉じ込めておくのもなぁ。なにかもうちょっと良い案ないかしら?」


「これらはあくまで作業員です。我らの手足に過ぎません。マスター世界の総監督はアリスです。アリスの統治を行き渡らせる為の端末がアリスや私を飛び越えてマスターに指示を乞うようにもなりえます。それは避けねばなりません」


「うん。それはわかるよ。私だってアリスやシーちゃんが頑張ってくれてるのに好き勝手口出しして困らせたいわけじゃないし。けどさ。やっぱり難しい問題だよね。そこに個々人の意思が存在するならさ。まるっきり無視しちゃうのはなんか違うかなって」


「マスターがそのようなお方だからこうして割り切って欲しいとお願い申し上げているのです。この子は機械です。クレーン車やトラクターとなんら代わりありません。自我を備えさせたからといってその役割は変わりません。あくまで効率の良いカーナビが付いただけなのです」


「いや、うん。シーちゃんの言いたい事はわかってるんだってば。でもほら。こうして知っちゃったからさ。私にこの子を見せればシーちゃんもこうなるって分かってたでしょ? それでもわざわざ見せてきたって事はシーちゃん自身も何か思い入れがあるんでしょ?」


「違います。あくまで報告の為です。突然この子と同じ顔をした少女達がシーちゃんズを名乗って活動し始めればマスターを驚かせてしまいます。そしてこうして釘を刺しておかねば何れはこの子達の中から家族に加わる者も現れるかもしれません。ですがそれもまた避けねばなりません。一体だけでも特別扱いすればその経験は全体に影響を及ぼします。この子達の経験はその全てが母体マザーへと送られるのですから」


「う~ん。その懸念は分かるんだけどね。やっぱり私は納得出来ないかな。とすると元々の運用計画に無理があるんじゃないかしら?」


「……そのようですね。まさか私がマスターのご判断を考慮しきれていなかったとは。一生の不覚です」


「そんな深刻にとらないで。ごめんね、シーちゃん。我儘なマスターで」


「いえ! そのような事はございません! 改善案を早急に提出致します!」


「焦らないでゆっくりで良いよ? ノアちゃん達の件もあるんだし」


「機体を男性型に作り変えるのは如何でしょう! そうなればマスターの執着も薄れるかと!」


「没。絶対没。私世界は女の子だけの楽園なの」


「ですよね……」


「フィードバックする経験に制限を設けてみたら?」


「切り分けが難しいかと。ならばいっそマスターの目の届かぬ場所のみでの活動を徹底した方が無難かと」


「いっそ全員シーちゃんと同じ顔にしてみる?」


 元々シーちゃんの分体があっちこっちで活動してるのは知ってるし。



「嫌です。ノエルやセラフと似たような問題が生じます」


 そりゃそうか。



「私が割り切れれば話は簡単なのよねぇ~」


「或いは知性に制限をかけるのも手かもしれません。汎用性は落ちますがその分数と役割付けでカバーしましょう。かえって効率も良くなるかもしれません」


「う~ん。ならいっそ手が空いてるフィリアス達の補助をする為の装置を作ってみるのはどう? 人格は新たに生み出さないでさ。まだあの子達三千人くらい暇してるでしょ?」


「よろしいのですか?」


「え? ああそっか。私があの子達の好きにさせてあげてって頼んでたんだもんね。でもほら。この世界はある意味あの子達のものでもあるからね。今でもアルバイトって形でなんらかの仕事を請け負っている子達もいるけど、そろそろ皆に働いてもらいましょう」


「ならばそのように。ですが何れは先に上げたような施策も必要になるかと」


「三千のフィリアスでも足りない?」


「はい。それも遠い話ではありません。あくまで一時しのぎにしかならないでしょう」


「そんなに拡大してるのね。う~ん……わかった。ならさっきの計画も進めちゃって。私も割り切るって約束するから」


「……良いのですか?」


「うん。広がりきってから経験を積ませるんじゃ大変だものね。それに人付き合いが私とのものに偏るから問題も生じるのよ。フィリアス達とも交友させましょう。それでバランスが取れるんじゃないかしら?」


「……そうですね。悪くない考えかと」


「でも一つだけお願い。この子も自由にさせてあげてね。もしその上でこの子が私の側に居たいと願ってくれたなら私も受け入れる。けどそれ以外で私からは近づかない。そう約束するから自由にこの世界を見せてあげて。フィードバックだけじゃなくて自分の足で歩いて自分の目で見て考えてほしいから。どうしても心配ならアリスの側付きに混ぜてあげて。特別に親しい相手がいれば私にばかり拘らないと思うの」


「イエス。マスター。そのように手配致します」


「ありがとう。あ、そうだ。それから名前だけこっちで付けてもいい?」


「ダメです」


 そりゃそうか。私から近づかないって約束したばかりだもんね。こればかりは仕方ない。



「なら教えてくれる?」


「マザーと呼称しましょう」


「それはちょっと」


「ならば"プロト"と」


「う~ん。まあ良いでしょう。早速プロトちゃんを起動しちゃいましょう♪」


「……名付けたのは失敗でした」


 シーちゃんが早速私を疑っているようだ。さもありなん。

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