表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/1353

8-14.昔話

私達はまたルネルの転移で家に帰った。



ルネルは私達を席に着かせると、

宣言通り、昔の話を始めた。


その内容は今私たちが巻き込まれている全ての事態の根幹に繋がる話だった。


ルネルには私達の状況も殆ど話していたので、

これがもう一つの褒美というのも納得のいく話だった。



「全ての発端は六百年程前じゃ。

その頃人間族は女神ニクスを信仰し、

神力を持つものも今ほどに珍しくはなかった」


「今のノア程度ならばそこら中にゴロゴロしておったくらいじゃ」



「ある時、お主達も知るようにドワーフの国が一人のドワーフによって滅びた。

そのドワーフは国を逃げ出した。

それを追って、後に魔王と呼ばれる人間の男が国を出る」


「魔王はドワーフの男を追って旅をする中で、

特に神力の強い二人の人間に出会う」


「後に勇者と聖女となるその二人は、

魔王になる男と共に旅をするようになる」


「その三人が最初にこのエルフの国を訪れたのもその頃じゃった。

一時期はわしの元で修行をつけてやった事もある」



「三人がこの国を出た数年後、

魔王が邪神から力を授かり、

それを察知した女神ニクスにより、

その代の勇者と聖女が指名されたのじゃ」


「二人は魔王を止めるため、

再びわしの元を訪れたが、

邪神の力に取り込まれたのは奴自身の責任と、

協力することなく追い返してしまった」



「結局、二人は魔王を封印する事に成功する」


「その時までは聖女は女神ニクスを信仰しておった。

じゃが、同時に彼女は魔王を好いておった」


「封印という手段もせめてもの抵抗だったのじゃろう」


「女神ニクスによって、

魔王を倒すための聖女としての運命を強要された事に、

彼女は絶望し、女神への復讐を決意する」


「当時、女神ニクスは人間族にとって身近な存在じゃった。

女神ニクスの神託によって、聖女となった彼女は、

その立場を利用して女神ニクスへの信仰を無くす事を画策したのじゃ」



「聖女は執念深かった。

彼女の寿命程度では達成できない遠大な計画を達成するために、

まずは新しい教会を立ち上げたのじゃ。

架空の神を崇める教会をな」



「女神ニクスは何故か否定せんかった。

もしかしたら、聖女への罪悪感でもあったのじゃろうか」


「否定せんと言うことは聖女のやることは女神のお墨付きと捉えられてしまった。

それからも続く聖女の妨害によって、少しずつ女神ニクスへの信仰は衰えていった」


「その辺りの詳しい話は再度ここを訪れた勇者から聞いたことじゃ。

勇者は聖女の気持ちもわかっておったのでどうしても止めきる事が出来なかったそうじゃ。」


「わしに相談に来たのも代わりに止めて欲しかったのじゃろう。

じゃが、結局わしはまたも何もせんかった。

あくまで人間族の問題だからと。わしが手を出すのは筋違いじゃからと。

勇者もそれがわかっていて、最後まで頼みを口にする事は無かった」



「そうして、聖女は数百年かけてこの世界から女神ニクスへの信仰を無くす事に成功したのじゃ」


「それからじゃ。

大きく変わっていった世界を見て回る為に、

わしは度々世界を巡った。

罪悪感があった事も否定せぬ。

アルカと出会ったのもそんな時じゃった」



「旅を続ける内に全ての発端となったドワーフの男が暗躍している事に気づいた。

奴らは世界中に根を広げておった」


「お主達の敵は六百年前から存在する。

一筋縄ではいかぬ相手じゃ。

絶対に油断するではないぞ」





全ての話を聞き終えても

私達は何も言えなかった。


私は代々の枢機卿達が原因で聖女は力を失ったのだと思っていた。

それがまさか、初代聖女本人によって画策されたものだとは夢にも思っていなかった。


彼女はそんな事をして、邪神の事はどうするつもりだったのだろう。

あの女神が許せない気持ちは私にもわかる。


けれど、そこまでして何がしたかったのだろう。

この世界と女神を切り離す事で本当に復讐になるのだろうか。


女神はなぜ止めなかったのだろう。

本当に罪悪感なんてものであの女神が判断を誤るのだろうか。




結局全ての騒動の根幹は

魔王が異世界の知識を持ち込んだ事と

国を滅ぼしたドワーフの男が原因だった。


ルネルが杖の技術を嫌うのも当然だ。

大げさかもしれないが、これがきっかけで全ての悲劇は始まったのだから。




ドワーフの男はそれからも生き延びて、

例の組織を作り上げたのだと言う。

思っていた以上に敵は強大なのだろう。


魔王が邪神に唆された理由も、

もしかしたらこの事が関係しているのかもしれない。



私は今までそれと気付かず彼らの野望を阻止してきたのだろう。

だからここまで派手に狙われるようになってしまった。


六百年も隠れ続けていたのなら、

今まではもっと大人しくしていたはずだ。

そうでなければとっくに滅ぼされていた。


もしかしたら、私が余計な尾を踏んだのかもしれない。


何もしなければ奴らももう少し大人しくしていたのかもしれない。


そんな事は考えても仕方がないだろう。

もう既に敵対しているのだから。




「アルカよ。この話を踏まえて

今一度言わせてもらうが、

どうかこの国で平和に暮らさぬか?

この国の中でならわしらもお主達を守ってやれる。

もうお主達まで失いたくはないのじゃ」



ルネル程の力があったって、

世界中に蔓延る敵を一掃する事なんて出来やしない。


下手をすれば、人間とエルフの戦争にだってなりかねない。



もしかしたら私が立ち止まれば、

奴らももう何もしてこないのかもしれない。

逆に私をおびき出すために

私に近い人達に害を及ぼすかもしれない。




「ごめんなさい。

お話してくれた事もありがたいし、

その気持はとっても嬉しいけれど、

私にも守りたい人達がいるの。

今はまだ止まるわけにはいかないわ」



「そうじゃろうな。

お主はあの甘い事ばかり言う魔王にそっくりじゃ。

何かに突き動かされ続けているところまでのう。

もしかしたら女神ニクスはそういう人間を異世界から呼び出すのかもしれんのう」



「ルネル知っていたの!?

私が異世界から来たって」



「まあ、なんとなくじゃがな。

今の反応で確信になったところじゃ」



「うっ・・・」


ハメられた!!

そんな姑息な手を使わなくても

ルネルになら自分から教えたわよ!

まだ話してなかっただけよ!



「セレネの事は気をつけよ。

あの子もあの聖女に良く似ておる。

女神ニクスが今代の聖女に選ぶのも納得じゃ」



「セレネが?

そもそも、聖女って血筋じゃないの?」



「そんなもんは関係無い。

素質や女神から受け取った力は遺伝するが、

誰が聖女や勇者として選ばれるかは、

その時の女神の判断次第じゃ。」


「だからこそ、女神は勇者と聖女に彼女達を選んだのじゃし、

そんな悪辣な選び方をした女神を聖女は許すことが来なかったのじゃ」



初代聖女は魔王に近かったから選ばれたの!?

そんな悪趣味な事ある!?


やっぱり、一度女神とは顔合わせて話すべきかもしれない。

そんな奴がこの世界の管理者なんて見過ごしてはおけない。



「じゃが、事が起こる前は魔王と聖女は女神ニクスの事を親しげに話しておった。

少しやりすぎるところはあるけれど、本当に優しい方なのじゃと言っておった」



魔王本人も女神の事を語る時はそんな雰囲気だった。

聖女の想いを聞いた時も、

あの女神はしょうがないなみたいな事を言っていただけだ。


決して嫌悪感など無かった。

友人を想うような、

子供を見守る親のような、優しげな言い方だった。


けれど、聖女にとっては許せる事ではなかった。

その結果、女神は力を失っていった。




私が異世界から呼ばれた理由もここに関係があるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ