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41-15.作戦会議

「ふむ。先ずはこんなものか」


 再び賛成派と反対派に別れて作戦会議を始めた。



「姉様。ここまでは想定通りですね」


「うむ。カノンは生真面目だからな。その分読みやすくもある」


 ただし同時に実直な手を打ってくるという意味でもある。この手の弁論では最もバランスが良く優秀な娘だ。確固とした主義主張を持っているから生半可な説得では崩せない。



 もし反対派の代表がグリアなら作戦も全然違うものとなっていただろう。グリアの場合は搦手も積極的に取り入れてくる。こちらが守る立場になるとカノンより厄介だ。けど逆に何らかの興味を引かせる事で誘導する事も出来る。上手くいけば寝返らせることだって出来ただろう。


 カノンは防御力が高く、グリアは攻撃力が高いタイプだ。それなのにカノンが初手に出てきたという事は、恐らくグリアが今回前に出ることは無いのだろう。向こうもリスクには気付いている筈だ。反対派がカノンの堅実さを前面に出してくるなら私達もそれに応じた策で臨まなければならない。



 他に警戒すべきはセレネとアンジュかしら。


 セレネは極端なタイプだ。一番近いのはフロルだろう。強い自分を持っているという点ではカノンとも同じだが、セレネやフロルの場合はそれを相手にも押し付けてくるのだ。私が正しいのだから黙って付いて来なさいと言えるタイプだ。クロエとジゼルの好みど真ん中だ。近い内に寝取られそう。


 そんなセレネがカノンに任せて裏方に徹している。教会の件も交えてきたのに直接矛を交えるつもりは無いようだ。恐らくフロルとの相性の問題だろう。同系統の二人がやりあっても平行線になる可能性が高い。感情論になってしまえばディベートの意味がない。



 アンジュの方はどうだろうか。


 正直まだ未知数だ。見識の広さに加えて近未来を覗くことすら出来る存在だ。ぶっちゃけ弁舌で勝つ方法なんて存在しない気がする。まあそれも彼女が本気ならという前置きはつくけども。


 あの子は何にでも興味津々だ。元より"見る"ことが好きで堪らないのだ。加えて今は経験も伴っている。興味に流される可能性は高い。グリアと同じくその好奇心故に寝返りすらあり得るだろう。


 そしてだからこそ逆に静観を続ける可能性も高い。あくまで特等席での観劇を楽しんでいるだけかも。それでも満足しているのだろう。アンジュが立ち塞がる事は無いのかもしれない。或いは私達のそんな油断を突いて土壇場で言葉を挟んでくるかもしれない。ギリギリをひっくり返して私達の反応を楽しむつもりかもしれない。精々油断しないでおこう。




「先ずは偽神関連の消極的な姿勢についてなのです」


「予定通りだ。例の話をするとしよう」


「本当にそれだけで足りるのです? 正直偽神の件に限れば反対派の論は曖昧なのです。偽神の力を恐れすぎているのです。感情に囚われた思想というのは、理詰めではこじ開けられねえものなのです」


「かもしれぬな。我らは偽神とやらを直接目にしたわけではない。当時の皆の反応や空気を知っているわけでもない。あそこまで警戒するからには相応の力を持っているのだろう。神々やアルカですら遠く及ばぬ存在だ。無理からぬことなのだろう」


「ならどうするのです?」


「予定は変わらん。いくら証拠を積み上げ安心しろと口にしたところで意味はあるまい。ならば奮い立たせるしかない。何時まで縮こまっているのだと煽ってやるしかない。アルカに窮屈を強いる現状を変えようとは思わんのかと知ったふりをして挑発してやろう。その方法でしか覆せはせんよ」


「それもカノン相手では難しいのです」


「カノンが折れずとも構わん。我らと同様に相手も一人で戦っているのではない。カノンはあくまで仲間達の総意を取り纏めて話しているにすぎん。総意が変わればいかなカノンと言えど論を変えずにはいられない。次回で決着をつけようなどと思うな。先ずは種を植えるのだ。水を与え、肥料を与え育てるのだ。焦らずゆっくりとな。これは長期戦になるぞ」


 フロルがめっちゃ楽しそう。即断即決を信条とするタイプではあるけど、そういう気長な工作も好きなのよね。根っからのトップ気質ではあるのだろう。最近では足りていなかった経験とか知識とかも増えつつあるから覚醒しつつもあるのかもしれない。



「なら皇帝陛下のお手並み拝見なのです。精々動かしてみせるのです」


 自信満々なフロルを見るクロエの目は期待に満ち溢れている。今回の件で好感度がぐんぐん上がっているようだ。これは私もジゼルもウカウカしてられないわね。



「もう一つは優先度の話やったよね」


 クロエを引き寄せながら話を進めるジゼル。同じように危機感を感じていたのだろう。ジゼルもなんだかんだと鍛えられていきそうだ。うちの子達は押しが強い子達ばかりだからね。遠慮がちなジゼルは最初大変かもだけど頑張って。



「うむ。だがそれも元よりわかっていたことだ。だからこそ組み込もうと考えたのだからな」


 そうね。反対派の考えもわかるけど、それは私達賛成派が止まったり遠慮したりする理由にはならないわよね。



「せやけどアルカはやり過ぎたやんな。握りつぶせてまうってのも事実やし」


 まあ確かに。アンジュまで引き込めたのは出来過ぎだったわよね。お陰でエーリ村の件が大した問題にならずに済んだのだ。それ自体は当然良い事ではあるんだけど、今回の説得にはむしろマイナスだ。わざわざギヨルドを落とす口実としては弱すぎる。



「そう甘くはないものだ。バシュレー伯爵の交代は何れ広めねばならん。武闘大会の際にもかの伯爵家には参列してもらわねばな。そうでなければわらわは忠臣を冷遇する薄情者と思われるだけだ。折角平定が叶っても求心力が弱まっては意味がない。何時までも隠してはおれんのだよ」


「理由なんてなんぼでもでっち上げられるやん?」


「ダメだ。嘘はバレる。自分に負い目が無いなら無闇に秘密を作るものではない」


「伯爵家の名誉を守る為やらなんとか言うて、代わりに泥をかぶったった体には出来へんの?」


「無理だな。やらかしが致命的に過ぎる。隠し立てすれば不満を撒く結果にしか繋がらん」


「そうやな~」


 ジゼルは納得したようだ。反対派はこんなに簡単では無いだろうけど、フロルの基本姿勢は今みたいな感じでいくのだろう。



 一先ずこんなところかしら。まだこれから何回か反駁と相談を繰り返すことになるのよね? 本当に長くなりそうだ。


 どんな結果になるにせよ、なんだか悪くない気分だ。私の提案をこうして皆が真剣に討論してくれている。誰も怒ったりせず、徹底的に否定したりせず。次からもう少し提案してみるとしよう。一蹴されると恐れずに信じて委ねてみよう。

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