41-8.トロイの木馬
クロエとイチャイチャのんびりしながらベーダと話をしていると、添い寝をしながら見守っていたコレットちゃんが目を覚ました。
「おはよう。コレットちゃん」
「……おはようざいまふ」
よかった。ぐっすり眠れたようだ。
「……ふぁ~……あるじさまぁ」
「ふふ。どうしたの?」
「ふかふかでふぅ……zzz」
ありゃりゃ。
「……はっ!」
飛び起きた。
「主様!」
しかも今度はしっかり目が覚めているようだ。
「どうしたの?」
「戻りましょう!」
「もう良いの?」
「はい! バッチリです!」
本当に大丈夫そう。いったい何を思いついたのかしら?
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「ねえ、何か混ざってるんだけど」
『うふふ♪』
『やりやがりました!! やりやがりましたよ!? こいつ勝手に融合しやがりましたよ!?』
『ずる~!』
やられた……。
何の警戒もせずにツクヨミから返却された分体取り込んじゃった……。
どうすんのよこれ……流石にハルちゃんやイロハとは違うみたいだけど私じゃ取り除けそうに無いわよ……。
「とにかく出ましょう。至急ハルちゃん達に見せないと」
ツクヨミに融合を許したつもりはない。容赦なく切除しよう。
『そんなぁ~! ご無体なぁ~!』
どっちがよ。主にウイルス仕込んでおいてただで済むとは思わないでよね。お尻ペンペンしちゃうんだから。
『うふふ♪』
ダメだわ。喜んじゃう。お仕置きボックスに放り込むしかなさそうね。
『嫌でございます!!』
お仕置きに拒否権あるわけ無いじゃない。
というかツクヨミはあのお仕置き受けたこと無いよね? まさかもうハルちゃん達の記憶と同期してるの?
『大変美味しゅうございました♪』
相変わらず欠片も反省の気配が見えてこない。私がどれだけ怒っているのかも伝わっているだろうに。
『ゾクゾク致します♪』
無敵か……。
コレットちゃんを抱きしめて視界を塞いでから深層を脱出し、私の部屋で待っていたハルちゃん分体と入れ替わって皆をエーリ村へと転送した。
それから急遽ハルちゃん、イロハ、シーちゃんの本体を呼び戻し、緊急対策会議が開かれた。
「さてどうしてくれましょう」
『もう永久追放で良いんじゃない?』
『けす』
『ひとおもいに』
『どうせぶんたい』
当然二人もブチギレていらっしゃる。だけど完全消滅はやめておきましょう。流石にそこまでする気にはなれないわ。一応これでもツクヨミの一部なんだし。それにこの娘の成長っぷりはただ消してしまうには惜しいのも確かだ。ハルちゃんとイロハですら追い抜かされてしまったくらいなのだから。あと本体に何のお咎めも無しでは収まりが悪いわよね。
『申し訳ございません。マスター』
うん。謝罪は受け取る。けどシーちゃんも後でお説教。
『イエス、マスター』
まあシーちゃんの方は良いのだ。単にツクヨミの頼みを聞いただけなのだから。修行目的で使う分にはそこまで強く問い詰めるような事ではない。
だが当然ツクヨミのやらかしはシャレにならない。到底許して良い事ではない。けど問題は私達では引き剥がせないっぽいってところだ。
『出来なくは無いけどアルカの力もごっそり消えそうね』
『くいこんでる』
『やっかい』
今のタイミングでそれは厳しい。マキナ達があれだけ頑張ってくれたのに私が足の引っ張り合いをしているわけにはいかないのだ。
「一か八か、ツクヨミ本体も呼び寄せてみる? 多少の良心が戻る可能性は無いかしら?」
どうにもこっちの分体ツクヨミはタガが外れてるっぽい。私達の知っているツクヨミはなんだかんだと話は聞いてくれるのだ。対してこの娘は全然言う事を聞くつもりがないらしい。自分から融合を解く気はないようだ。
『違うのですアルカ様。最早私にも解く事は出来ぬのです』
敢えてそうしたんでしょうに。
『うふふ♪』
こんにゃろ。
『どうせ飲み込まれるのがオチよ』
『きけん』
だよねぇ……。
『イオスに存在ごと抹消してもらうのはどうかしら?』
遂に私の良心まで過激な事言い出した。
『あぶない』
『ほんたいも』
下手するとツクヨミ本体まで消え去りそうね。やめておきましょう。
『どうぞ受け入れてくださいまし♪ そうしてくだされば大人しく本体に全てを委ねるとお約束致します♪』
『『『『……』』』』
あかん。本心だと伝わってくる。この娘消える気だ。いや、それは正確じゃないんだろうけど。ただ本気で本体を乗っ取るつもりはないようだ。あくまで自身は分体に過ぎないと自覚しているのだ。ハルちゃんが分体を使い潰しているのと同じだ。人間とフィリアスではそもそもの感覚が違うのだ。
そしてだからこそこの娘は自らを人質に使っているのだ。私達がツクヨミの融合を受け入れるなら自分の全てを本体に明け渡すと。そうして残るのはやらかしを反省する若干まともなツクヨミだけになるのだろう。私達はきっとそれ以上責められない。ツクヨミ本人も融合解除なんて出来はしない。
全て計算尽くだったのだろう。私が非情になりきれないのを知っていてこんな事をしでかしたのだろう。自分は後に残らないからと、ツクヨミが本当に望みながらも理性で押さえていた事をやり遂げたのだろう。まさに無敵の人というやつだ。途方もない時を修練だけに費やしてただ終わりではなく、最後にとんでもない花火を打ち上げたわけだ。
『……降参よ。負けを認めるわ』
『ハルは』
『みとめない』
ここで意見が別れてしまった。なら後は私次第か。
「……ハルちゃん。悪いけど」
『……』
『……』
『……』
『しゃあない』
ほんとにね。しゃあない。こうまで望まれちゃあね。この娘の覚悟に免じて受け入れてあげましょう。それに私もここらで大きく成長しておかないとだからね。マキナ達の頑張りに早く応えたいもの。ヤチヨとヒサメちゃんには悪いと思うけど。
『感謝致します♪ アルカ様♪』
けど完全消滅は無しよ。ちゃんと全ての記憶を本体に戻しなさい。その上で本体の心も守りなさい。皆もサポートしてあげて。この娘の努力を一片たりとも無駄にしてはダメよ。
『『『『がってん!』』』』