8-13.達成
また時が経ち、気温が高くなってきた。
もうすぐ夏になるのだろう。
この調子だと、エルフの国に来てから一年が過ぎてしまう。
まあ、半分冗談とはいえ最初は寿命が尽きるまで課題が達成できないのではと思っていたくらいだ。
これでも想像以上の進歩だ。
私達は第二ステップでルネルが見せた技術の習得に励んだ。
ルネルは周囲全てに意識を向けることで、
相手に攻撃を読ませにくくすると同時に、
どこから攻撃されようが、瞬時に反応してみせた。
瞬間転移でルネルを見失ってしまうのは、
例え目で見ているわけではなくても、
私達の意識が一箇所にしか向けられていないからだ。
そうして出来た隙をルネルは突いてくる。
その対応策はルネル自身が前のステップで見せてくれていたのだ。
例え向けられる意識は薄くとも全体を常に意識し続ける事で、
反応速度は格段に向上する。
とはいえ、当然ながらその習得は簡単な事ではなかった。
なので、私とノアちゃんは互いに相手の意識がどこを向いているのか視て教え合い、二人で常に半分ずつ認識できるよう特訓を続けた。
少しずつ、言葉にしなくても息があっていく。
二人で死角をカバーしあって、
どこにルネルが転移しても直ぐに反応出来るようなっていった。
そうして、遂にノアちゃんの一撃がルネルに決まる。
「良くやった二人共。
これでようやく二人で一人前じゃな」
「それは厳しすぎない!?」
「何言うておる。ぴったりじゃろう。
悔しかったら一人ずつ相手してやってもいいじゃぞ?」
「うぐぅ・・・」
外の世界にルネル程強いやつなんていないわよ!
でも、二人でやっと立ち向かえているだけなのは事実だから言い返せない・・・・
ノアちゃん?
そんなキラキラした目で見つめられても延長戦は無しよ?
絶対今のルネルの言葉に喜ぶとは思ったけど、
流石に今回は無理よ?
ノアちゃんならいつかできるかもしれないけれど、
これ以上時間をかけているわけにも行かないわ!
ダンジョンコア強奪事件の時は敵に時間を与えてしまった結果、
あそこまで事態が大事になってしまったのだから。
良い加減、敵の尻尾くらいは掴んでおかないと、
今度は手遅れになりかねない。
まあ、もう手遅れかもだけど。
仮にもう一度仕掛けてくるならば、
あの時以上の戦力を用意されてもおかしくはない。
「せっかくだけど、
また今度来た時にお願いするわ」
玉虫色の言葉でお茶を濁す。
「言ったな?次も逃さんからな」
ルネルはいつものようにガハハと大笑い。
言葉選びを間違えた気がする。
けれど、ノアちゃんが仕方ないですねって顔で引き下がってくれた。
これ以外だとノアちゃんの説得も必要だったかもしれない。
「さて、頑張った弟子達に褒美でもやろうかのう」
そうルネルが言葉にすると、
いきなり周囲の光景が切り替わった。
広場にいたはずなのに、今は森の中にいる。
これ私達ごと転移させたんだ!
予備動作も何も視えなかった!
結局まだ本気でもなんでも無かったんじゃない!
私の内心など気にせず、ルネルが続ける。
「あの杖を出せ。
安心しろ。ここは国の外じゃ。
破壊したりはせんよ」
私は言われるがまま杖を取り出して驚愕する。
「何これ・・・」
杖は不思議な力を放っていた。
視えるようになった事で、
今までと全く別物に見える。
別に邪悪なわけじゃない。
悪い気持ちになるわけでもない。
ただ何か大きな力が溢れ出している。
魔力の貯蔵量も視えている。
常に周囲の魔力へ干渉している所も視えている。
そんな所が問題なんじゃない。
杖の先端に納められた魔石から何かが溢れ出している。
決して元となった魔物達に特別な何かがあったわけではない。
自分で倒したのだから、そんな事はわかっている。
こたつの魔石はこんな事にはなっていなかった。
この杖だからこそ、何かが起きているのがわかる。
「視えたじゃろう?
その技術は魔石を変異させてしまう。
ドワーフ共は力を増すくらいにしか思っとらんがの」
「魔石とは魔物の源じゃ。
普通に使う分には便利な物でしかないが、
いたずらに冒涜すればこうなるのも必然なのじゃ」
「その魔石は単一のものではない。
複数の魔石を錬成して組み合わせたものじゃ。
作った者が冗談みたいに腕が良いからその程度で済んでおるが、
扱いを間違えば国を滅ぼすのも当然じゃ」
私は杖を収納空間に戻す。
「ありがとう。
これを使わせたくない気持ちはわかったわ」
「それは何よりじゃ。
ならばこの場で破壊しろと言いたいところじゃが、
まあ、お主の判断に任せるとしよう」
「わかったわ。
肝に銘じておく」
「今のお主ならば、そう簡単にその杖に振り回される事もない。
いざという時に判断を間違えなければそれでよい」
「ええ。これが問題になるようなら自分で破壊するわ」
「それでよい」
「家に帰ろうか。
もう一つ、昔話もしてやる」