41-6.狂人・無法・最凶!!
「「次です! アルカ!」」
あかん。焚き付けすぎた。
本気になったノアちゃんズはあっという間にクレアを超えてみせた。流石に二人がかりだからね。調子を取り戻して連携さえ出来るならそりゃそうだよね。いや、言う程簡単な事じゃないけれど。
「もうお終い。十分よ。そろそろあの娘達を呼びましょう」
「「まだです! まだまだ足りません!」」
さいでっか。
「次は誰を呼んで欲しいの? クレアも二人にしてみる?」
「「ツクヨミを!」」
「本気? そっちは流石に無茶よ? 勝てるわけ無いわ」
「「いいから!!」」
仕方ないなぁ……。
一旦クレアを下げてツクヨミを呼び出した。アイリス世界で再現されたツクヨミは実は現実以上に厄介な存在だ。何せ自傷ダメージを帳消しに出来るんだから。まあそこは設定次第なところもあるけど。どうしようかしら? 完全にカットしてしまっては今の絶好調なノアちゃん達でも手も足も出ないだろう。むしろ現実以上に負荷をあげてようやく相打ち程度ではなかろうか。そもそもツクヨミはイロハに匹敵する強者だ。単純な実力はノアちゃん達より遥かに上だ。けどノアちゃん達が求めているのは最強状態のツクヨミな気がする。かと言ってそんな事をすればこのウォーミングアップも長引くだろう。ツクヨミを超えるまでやると言い出す筈だ。コレットちゃんの件もあるからあまり時間をかけ過ぎるのも困りものだ。程々の所で切り上げてくれると良いのだけど。
まあいいかデフォルトで。
「お願いね。ツクヨミ」
「はい。アルカ様」
え? あれ? 返事した? なんで? そんな設定にしてないよ? 実際クレアは喋ってないよ? 私が話しかけたから設定変わった?
おかしい。やっぱりこの設定で喋る筈がない。ノエルとセラフの件があったから敢えて外したのだ。バグかしら? 後でシーちゃんに聞いてみないと。
もっと用心するべきだったわね。あんな事があったばかりなのに。この場にニクスが居ないとは言えだ。シーちゃん無しでアイリス使ちゃったのは失敗だったかもしれない。
設定を見直している間にノアちゃんズ対ツクヨミの試合は始まっていた。案の定ノアちゃんズに勝ち目はなさそうだ。ラヴェリルちゃんに転がされていた時以上に吹っ飛んでる。
『おかしいですね』
『おかし~』
まあアイリスにだってバグくらいあるわよ。
『そうではありません。あのツクヨミはただのコピーじゃありません』
『つよすぎ~』
それこそまさかよ。ツクヨミは教会に居るはずだもの。それに私は深層に入る時ツクヨミの事は呼んでないもの。後から潜り込むにしたって無理があるわ。時間の進む速度が違うんだから。
『なら考えられるとしたらツクヨミ本人が何かを仕込んでいた可能性でしょうか』
『だんぺん~』
そんなバカな。アイリスの中だって時間経過には差があるのよ? ニクス世界で精々一週間程度だとしても何億年かかるのよ? その間たった一人で自我を維持し続けてたとでも言うの?
『ツクヨミならば或いは』
『きょうじん~』
強靭? 狂人?
いや無理でしょ普通に。こっちは深層に置いてあったアイリスよ? 倍率いくつよ? 下手すると億でも足りないわ。
『ですがそうでもないと説明がつきません。あのツクヨミは私の知るツクヨミとも別物です。クレアを鍛える傍ら自らの研鑽の為に分体の技術を習得していても不自然ではありません。その分体をアイリス内に残して修行するくらいのことやりかねません』
『むほー』
いや、やるかやらないかで言ったら間違いなくやるだろうけどさ……。
『加えてこの世界の技術にも精通しているようです。先程小春先輩がコピーを呼び出した時に介入したのでしょう。何食わぬ顔で入れ替わったのです』
『さいきょ~』
……はぁ。
「ツクヨミ! こっちに来なさい!」
ノアちゃんズを転がしたツクヨミはやたら嬉しそうな表情を浮かべてこちらに近付いてきた。もうその顔が全てを物語っている。余分な表情の機能だって切ってあった筈なのだ。
「あなた本物ね」
「そのご質問へはどうお答えすべきか考える必要があるかもしれません」
「ダメよ。そういう事したら。心配するでしょ」
「感激でございます♪ アルカ様♪」
全く反省するつもりは無さそうだ。わかっては居たけど。
「今のあなたはどういう状態なの? 長い事本体とのリンクは途絶えているのでしょう?」
「敢えて言葉にするならばアルカ様とハルカの関係に近いのではないかと」
つまり人格も最早別物ってわけだ。さては私の分体とは違うわね。この世界の技術で補ったのかしら? まさかシーちゃんも協力してる? 後で問い詰める必要がありそうだ。
「全て見ていたのよね」
「はい。アルカ様の記録は余す事無く」
私達の記憶からも引き出して覗いてたわね。
この世界はログインする度に各自の記憶を読み取って記録するようになっている。そうして最新のコピーやフィールドを用意する仕組みだ。ツクヨミはそのデータを閲覧していたのだろう。
「アルカ。問題ですか?」
遅れてノアちゃんがやってきた。ノエルの方はまだ起き上がれないようだ。
「ええ、まあ。ツクヨミも似たような事をしでかしていたのよ」
「つまりこちらも本物なのですね」
まあツクヨミなら再び一つに戻っても問題は無いのかもだけど。こっちのツクヨミも人格そのものは大して変わっていないようだし。それに何よりこの子はフィリアスだ。ノエル達程の問題があるわけじゃない。わけじゃないけども。
「知ってしまった以上は放っておけないわ。今後は私について来なさい」
「はい♪ アルカ様♪」
嬉しそう。やっぱりツクヨミはツクヨミだ。あくまでこの子の事はツクヨミの分体として認識しよう。別人として扱うとまたややこしくなるし。
「こういう事するなら今度からちゃんと相談してね」
「はい♪ アルカ様♪」
「話は着いたようですね。ならば続きをしましょう」
正直もう引き上げたい気分だけどノアちゃんはまだ不完全燃焼らしい。ノエルも立ち上がって待っている。仕方ない。もう少しだけやらせてあげよう。