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41-3.心配事

 コレットちゃんは余程疲れていたようだ。多少のカフェイン程度では何の影響も及ぼさなかったらしい。程なくして私の腕の中で静かな寝息を立て始めた。



「ベーダはこれからどうする事になったの?」


 コレットちゃんを横にしてから毛布をかけて、今度はベーダの件を話し合うことにした。



「当面はエーリ村で手伝いです。諸々落ち着いたら好きに選ばせるとしましょう」


「マスターのお側に!」


「なら話し方戻して」


「っ!?」


「大丈夫よ。怯えなくたって。シーちゃんが何か言ってくる事は無いわ」


「えっと、わかったわ。マスター」


 呼び方を変えるつもりはないのか。



「まあいいわ。改めてよろしくね。ベーダ」


「はい! じゃなかった! ええ!」


 良い子。



「それで、こうなった以上もう一つ聞いておく事があるわ。ベーダに友達や家族はいないの? 本当に誰にも伝える必要は無いの?」


「……ない」


「他の事も全て話しなさい。何故一人で生きてきたのか。家族はどうなったのか。孤児院ではどんな問題があったのか。スリをやっていた事もそうよ。誰にその技術を習ったのか。今までどれだけの人に迷惑をかけたのか。その全てを話しなさい。これはなあなあで済ませて良い事ではないの。特に迷惑をかけた人や少しでもお世話になった人がいるならそれも話しなさい。私は貴方の母親として責任を果たさなければならないの。わかってくれるわね?」


「……」


「待ってくださいアルカ。その件は私が引き受けます。私もこの子の姉として責任を果たします。アルカは出歩けないのですから下手な事を口にしないでください。それもそれで示しがつきません」


「いいえ。この件でだけは外出を許してもらうわ。私が家長なんだから人任せにしてはいけない事だってあるのよ」


「ダメですよ。カノンやセレネは絶対に許しません。アルカの影響力は人の道理を簡単に覆しうるものです。あのローランさんのようにしわ寄せを受ける者も現れるでしょう。そんな状態で帝都を出歩かせるわけがないでしょう?」


「……そうね。それでもっと多くの人に迷惑をかけても本末転倒だものね」


「バカ言うななのです。私を落とせなかったのは坊っちゃん自身の問題なのです。時間は十分にあったのです。私達は古い付き合いなのです。別にアルカが坊っちゃんを不幸にしたわけじゃねえのです。そもそも坊っちゃん自身バシュレー家との縁談に反対なんてしてねえのです。あれは貴族としての立場を弁えているのです。放っから私は坊っちゃんの相手に相応しくなんてねえのです。お互いそう思っていたのです。結果それ以上踏み込まなかったのは坊っちゃん自身の選択なのです。あの男には私を攫って駆け落ちするだけの覚悟は無かったのです。ただそれだけの事なのです」


「「「……」」」


「……悪かったのです。少し熱くなりすぎたのです。話しが逸れたのです。違うのです。こんな事を話すつもりだったわけじゃねえのです。本当に言いたかったのは坊っちゃんは甘えやつなのですが、あんまり甘く見るなってことなのです」


 クロエの好みのタイプってそういう……。



「私はアルカに奪われたのです。だから私はアルカが好きになったのです。私を奪われたくなければ自信を持つのです。グダグダやってたら誰かに攫われちまうのです」


「……これまだ足りてなくないですか?」


「……そうね。もっと染め上げないとふらふら付いて行ってしまいそうね」


「今そんな話はどうでもいいのです。先ずはベーダの事なのです。アルカが動くってんなら動けば良いと思うのです」


「無責任な事を言わないでください。クロエはまだわかっていないのです。たった二、三日外出しただけで十人も家族が増えたんです。これは今に始まった事じゃありません。アルカは五年にも満たない月日で百人近い家族を集めました。ハッキリ言って異常なのです。多少大袈裟でも軟禁は必要なことなのです。その代わりアルカに出来ない事をやるのが私達の役目です。クロエもそれだけは承知しておいてください」


「よくわかんねえのです。姫様の話してた事とも関係あるのです?」


「ええ。まあ。そういう事よ。クロエも追々わかるわ。悪いけどベーダの事はノアちゃんに任せるわね。ベーダが話してくれる気になったなら私にも伝えて頂戴。そうしたら私も母として向き合うわ。それまであなたは居候よ。良いわね? ベーダ」


「……」


「そんな顔するくらいなら話してしまいなさい。大丈夫よ。今更見捨てたりなんてしないわ。あなたはまだ幼い。十分にやり直せる。私達はその為の手助けをしてあげる。これはそういう話よ。私達を信じて家族と思いなさい。そう出来ないのなら先ずは話しましょう。当たり障りのない事からで構わないわ。きっとベーダ自身も後悔の気持ちを抱いているのよね。シーちゃんから道徳を教えてもらったから気付いた事もあるのよね。そんな思いつきを話してくれるだけでもいい。誰も教えてくれなかったんだって悪態をついても構わない。先ずは思っている事を教えて頂戴。必要なら叱ってあげる。同情出来るなら慰めてあげる。それで泣きたくなったなら抱きしめてあげる。どんなあなたの事でも受け止めてあげる。少しずつ話しなさい。思いついた時に話しなさい。誰にでもいいからその時側にいる人に話しなさい。良いわね? 約束できる? ベーダ?」


「…………うん」


「良い子ね。そういうわけだからノアちゃんとクロエも私の新しい娘をよろしくね」


「「はい!」」


「……」


 分体を出し、俯いてしまったベーダを抱きしめる。ベーダは泣くでもなく、しがみつくでもなく、ただただ、されるがままになっていた。


 きっとこういう時どうして良いのかわからないのだろう。もしかしたら誰かに抱きしめられた事自体経験が無いのかもしれない。



 もう一体分体を出してからコレットちゃんと本体で別室に転移し、同じくベーダと最初の分体も更に他の部屋へと転移した。



「二人は少しゆっくりさせてあげましょう」


「つまりここからはクロエを」


「違うわよ。先にノエルの状態を確認させてもらうわ」


「問題ありません。何かあればハルが伝える筈でしょう?」


「そうなんだけどさ。けど気になるわ。私これでも心配事がいっぱいあるの。ノアちゃんくらいは素直に安心させてくれると嬉しいわ」


「わかりましたよ。好きに診てください」


「じゃあノエル出してくれる?」


 ノアちゃんの体から、金髪で輪っかと羽が付いたもう一人のノアちゃんが現れた。



「何を診るのですか?」


「もう少しお話しましょう。この四人でね」


「アルカは何を気にしているのです? 私もノエルも変わった所はありませんよ?」


「いいから。少しだけ付き合って。悪いけどクロエもね」


「勿論構わねえのですが、私は元々二人を同一人物として見るのは不可能なのです。この二人全然違うのです。勿論今の外見の話じゃねえのです」


「というと?」


「気配が別物なのです」


「まあ体が別物だものね」


「そういう話じゃねえのです。魂が別物なのです」


「え? クロエはそんなものまで見えるの?」


「見えねえのです」


 どういうこっちゃ。



「匂いでわかるのです。ノエルはノアよりニクスに似ているくらいなのです。ごっちゃになるなんて話は的外れだと思うのです」


 なる……ほど?



「ノアちゃんとノエルはどう思う?」


「「……さあ?」」


 わかるわけないか。自分の魂の特徴なんて。



「なら試してみるのです。こういうのは検証あるのみなのです」


 クロエってなんだかんだと言って頭脳派よね。よくわかんないとか言いつつもう普通に私達の状況を理解してるし。私達と長く暮らしたわけでもないのにこっちの常識を持ち合わせているみたいだ。読書家ってだけでは説明がつかない気がする。ルネルに師事した影響なのか、この特殊な嗅覚で違いを嗅ぎ取れるからなのか。クロエにもまだ何か秘密でもありそうだ。

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