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41-1.青年の意志と皇女の決定

 コレットちゃんの前には前伯爵が引きずり出されてきた。クロエとローラン・ジスカールも一緒だ。


 逆にコレットちゃんの側には、私に扮したハルちゃん(分体)、ノアちゃん(inノエル&ハルちゃん)、リジィ(白猫マキナ付き)、後何故かベーダまで一緒だ。それからこっちのローラン君とマティもコレットちゃんを中心にして控えている。万全の布陣だ。コレットちゃんの表情も幾分か落ち着いているように見える。気丈に振る舞っているだけかもしれないが、少しは安心感も感じてくれていると嬉しいものだ。


 一番位が高いコレットちゃんがこちらの代表者となったようだ。新伯爵兼、代官のローラン君が対応するかとも思ったけど、コレットちゃんが自らの意思で前に出る事を決めたのだ。当然誰一人それを止めようとする者はいなかった。



「バシュレー元伯爵。よくぞ再び顔を出せたものですね」


「……」


 元伯爵の顔面は蒼白だ。こんな筈では無かったとでも言いたげだ。自分とは違って拘束もされずに呑気にお茶を啜るクロエへとチラッと視線を送って困惑すら浮かべている。まさかまだこの状況から助けてもらえるとでも思っているのだろうか。


 いや、間違いなくそう考えているのだろう。でなければクロエ達を連れてきたのだから命だけは助けてくれなんて言い出す筈だ。元々はそういう約束だったものね。この元伯爵自身が反故にしたのだけど。勝手に逃げ出しておいて今更そんな言い訳が通じない事は流石に理解出来ているのだろう。


 或いは、彼にとってはコレットちゃんよりジスカール一行に頼る方がまだ助かる可能性が残っているとでも考えているのかもしれない。ここからクロエがひと暴れして私達を制圧するとでも思っているのかもしれない。ローラン・ジスカールが慌てもせずにここまで来た事で勘違いしているのかもしれない。クロエに視線を向けたのはそういう意味だったのかもしれない。




 数時間前までジスカール伯家の遣いに潜り込んでいたハルちゃんの分体は、エーリ村に辿り着いた所で一行を足止めした。名目はエーリ村の内情を探る為だ。クロエを信頼するローラン・ジスカールは当然のようにその案を承諾した。


 クロエに扮したハルちゃんは単身エーリ村へ潜り込むと提案して一行を離れ、暫くしてから代わりに本物のクロエが一行へと合流した。そうして彼らを安心させたクロエは一行を連れて堂々とエーリ村を訪れた。


 元伯爵と抵抗してしまった一部の護衛達は拘束したが、その他の人達はそのまま客人として迎え入れる事にしたのだ。クロエとローラン・ジスカールにはこうしてお茶まで出して歓待している。



「お客人。既にご承知の事とは思いますが、この男には最早何の価値もありません。お引渡し頂けますでしょうか?」


「それはっ痛!?」


「問題ねえのです。そっちで好きに処分するのです」


 クロエはローラン・ジスカールとも打ち合わせをしていなかったようだ。何か言いかけた彼の脇腹を抓って勝手に承諾してしまった。



「なっ!? メイド風情が! 何を!?」


 今はあんたも平民よ? というか犯罪者よ? 貴族の坊っちゃんに気に入られてるクロエの方が扱いは遥かに上よ? まあ言いたくなる気持ちはわからんでもないけど。



「ダメだよ。クロエ。一度は拾ったんだからさ。彼が道を踏み外したのも元はと言えば我が家が原因だ。最低限の義理ってものがあるじゃないか」


「甘え事言うななのです。ローラン坊っちゃんはそんなんだからご当主様に疎まれてやがるのです」


「あはは~。辛辣だなぁ」


「皇女殿下。無礼を承知でお話させて頂きたいのです」


「聞きましょう」


「坊っちゃんのお命だけはどうかお救いくださいなのです。この通り毒にも薬にもならねえ甘ちゃんなのです。捨て置いても何の問題もねえのです。代わりに私を含めた他の者達は大人しくお縄につくのです。どうかお願いしますなのです」


「そればかりは黙って見過ごせないよ。クロエ」


「坊っちゃんは黙ってやがるのです」


「いいや。無理だね。君は大切な預かりものだ。それに何より好きな女の子一人守れないのは情けなさ過ぎるだろう?」


「私にその気はねえのです! だいたいあんた婚約者に会いに来たんじゃねえのか! なのです! メイドに懸想してる場合じゃねえのです! これ以上心象悪くしてどうするつもりなのです!」


 なんだかなぁ。



「双方控えなさい。皇女殿下の御前ですよ」


 見かねたノアちゃんが口を挟んだ。いかんぞこっちのローラン君。ここは君の役目だろうに。新伯爵&代官としてコレットちゃんのサポートしなきゃ。



「申し訳ございません。皇女殿下。ですがどうか、刎ねるのならば私のこの首一つでお済ませ頂けませんでしょうか。クロエを始め私の部下達に皇帝陛下の治世を害そうなどという思想はございません。どうかご寛大な沙汰を賜りたく」


 ローラン・ジスカールから先程までののほほんとした態度が一瞬で消え去り、まさに忠臣とでも言うかのようにコレットちゃんに向かって首を差し出すように跪いた。こっちのローランはやれば出来る奴のようだ。元伯爵はもっと見習え。



「馬鹿を言うななのです! そんなの私が主に顔向け出来ねえのです! 大人しく座ってろなのです!」


 クロエが心做しか本気で焦っている気がする。今更本当に罰される事はあり得ないけど、話しが想定外の流れに向かうのは避けたいのだろう。



「あなた方にはやって頂きたい事があります」


 コレットちゃんが助け舟を出すように口を開いた。



「王国は裏切れません」


「その心がけは立派なものです。ですが既に選択権はありません。ハッキリ言いましょう。マニャール商会は我々の側につきました。王家の内にも我々の手の者が潜んでいます。あなた一人の抵抗に意味はありません」


 コレットちゃんは思い切った手を使うものだ。ローラン・ジスカールを本格的にこちらに引き込む事にしたわけだ。彼の真摯な態度を目にした事でそう決断したのだろう。



「……おそらく真実なのでしょう。皇女殿下のお言葉を疑いはしません。ですが私にも誇りがあります。未だ爵位も持たぬ若輩の身ではありますが、それでも王国貴族の家に生を受けた以上、王国の為に身命を賭す事こそ我が正道なのです。私は道を外すつもりはございません。どうかご容赦を」


「……自らが手を汚す事を恐れ、自分だけ牢に繋がれる事が真に王国の為になると言うのですね? あなたはそれで本当によろしいのですね?」


「お願いなのです。観念してくれなのです。坊っちゃんが意地を張る理由はねえのです。皇女様の言葉通りなのです。私も主も坊っちゃんを裏切っていたのです。けどだからこそ絶対に悪いようにはされないのです。素直に従えば皆助かるのです。ジスカール伯爵も同様なのです。既に手は回してあるのです。信じてくれなのです……」


「違うんだよ。クロエ。父様は関係が無いんだ。そして当然僕個人の友情も恋心もね。もちろん僕一人の命で何かが動かせるなんて自惚れているわけでもない。そもそも僕は落ちこぼれだからね。クロエのようには強いわけでもなく、ジゼルのように賢いわけでもない。父様から期待されていないのも当然の事なんだろうね。けどそれでも僕は王国貴族だ。その誇りまで失ったら本当に何者でもなくなってしまう。君からしたらくだらない意地にしか見えないだろうけど、僕にとっては何より大切なものなんだ」


「……私よりもなのです?」


「うん。ごめんね。君の安全が確実なものとなった以上、僕も自分を通させてもらうよ」


「……坊っちゃんは大馬鹿者なのです」


 ローランはクロエの悪態に微笑んでから再びコレットちゃんへと視線を向けた。



「皇女殿下。私に二言はございません」


「……そうですか。その覚悟は結構です。ならば私も立場に相応しい答えを返さねばなりません。ローラン・ジスカール。貴方に命じます。私の手駒となりなさい。拒否権はありません。これは皇女としてではなく、皇帝陛下の名代としての決定です。今この場での私の言葉は皇帝陛下のお言葉と同義です。断れば王国に未来はありません。貴方にはそれを背負わせるだけの価値があります」


「それは、」


「口答えは許しません」


「……御意。我が主」


「よろしい。クロエ。彼にも計画の説明を」


「はいなのです」


「アルカ様。罪人の護送をお願いします」


 私? ああ。ハルちゃんか。



「その前に少し借りてもいいかしら? リジィと約束してるの」


「どうぞお好きに。用が済んだら城へ送り届けてください。くれぐれも彼が二度と私の前に姿を表す事の無いように」


「はい。皇女殿下」


「少し席を外します。付き添いは結構です」


「ダメです。コレット。せめてベーダだけでも側に置いてください」


「……わかりました」


 退室したコレットちゃんにベーダが付き従い、クロエとローラン・ジスカールをノアちゃんが先導して別室に移動させ、私に変装したハルちゃん、マキナ、リジィ、マティ、ローラン君がその場に残った。



「父さん……あん人の言葉聞いてどう思っとった?」


「……」


 マティの問いかけに答えられないようだ。さっきの話の間も途中から騒ぐ事もなく話を聞いていたし、流石のこの男でも反省しているのかもしれない。今更そんな事に意味も無いけれど。


 リジィも動こうとしない。涙を滲ませて俯いている。本当は飛びつきたいのだろう。抱きしめて泣きじゃくりたいのだろう。一発入れないとなんて言っていたけど、いざその場面になったら体が動かなくなってしまったのだろう。そんなリジィを見たマキナは変身を解いて抱きしめだした。



 私は何も言うべきではないのだろう。ただこの子達の気が済むまで見守るだけだ。それから城の牢獄へ放り込むのだ。


 ……いや、彼にはもっと相応しい場所がある。すぐに処刑されてお終いでは遺恨しか残らない。処刑を決断したフロルはコレットちゃんに顔を合わせ辛くなるだろう。


『ある意味それも抱え込む事になるだけでは?』


『るすけあ~』


 今回は何もしないわ。放り込むだけ。食料の配給も無しよ。前居住者達が最低限生きるのに必要な設備は拵えていた筈だもの。既に引き上げてから時間が経ってるから朽ちてる物もあるかもだけど。まあ自分でどうにかしてもらいましょう。


『本気で生きる気があるならどうとでもなるでしょうね。彼には農作の知識もある筈ですし』


『かいたく~』


 今後も島流しは必要になるかもだし、ついでに少し整備させてみましょう。


『また新興宗教が発生するオチでは?』


『るけいち~』


 その時はルスケアにでも放り込みましょう。グリア達の邪魔になるかしら?


『でしょうね』


『おこられ~』


 まあそん時はそん時よね。

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