40-68.足りない
「アンジュはクロエとジゼルの事もよく知っているの?」
ジゼルの方は面識が無いと言っていたけれど、アンジュはルネルが二人の師である事も知っていたのよね。その辺りは私と関係の無い所でも見守っていたのかもしれない。
「ええ。我が師ルネルが城下に滞在していた頃から存在は把握していました」
ルネルがキッカケで二人の事も知ったわけね。
「もしかして姫様、うちの主に罪悪感でも感じているのです?」
「……無いとは言いません。ルネルを引き止めなければ何か変わった可能性もありますから」
「そんな事あり得ねえのです。ルネルはたしかに薄情なんかじゃねえのです。けどキッチリ割り切るお人なのです。例え姫様に呼び止められなくても、主の方を未練がましく追っかけたりしねえのです。だから気にすんななのです。主も姫様のせいにしたりはしねえのです」
「……ええ。そうですね。我らが師はそうでしょうね。そしてジゼルさんも。お優しい方々ばかりです。もちろんクロエさんも」
「そういうアンジュもジゼル達の事は気にかけてくれていたのでしょう? 今回すぐにメッセージが届いたのもアンジュの仕込みなんじゃない? 私と会うための布石でもあったのかもだけど、ジゼル本人達の為でもあったのでしょう?」
「ご容赦を。アルカさん。そういうのは野暮と言うものですよ」
「あら。ごめんなさい」
でもあっさり肯定してくれたわね。もしかしたらすっとぼけるかと思ったけど。
「ガッツリ干渉してるじゃない」
「ルネルさんがアルカと出会ったのもアンジュさんのお陰ですね。ひいては私達の恩人とも言えるわけです」
たしかに。最初の最初で思いっきり干渉してたわね。ルネルの齎してくれた影響はそれだけ大きいものなのだ。それでも一応、マニャール商会の方とは直接の繋がりは持たないようにしていたみたいだ。
という事は、もしかしたらジゼル達が私達の下へ来る事もずっと前から知っていたのかしら。未来視も出来るって話だし。それか因果とかいうのが視えているから?
「あの方はそろそろ弟子の一人が帰って来る頃かと思えば道中偶然を装ってすれ違うくらいはする人なのです。もしかしたらそんな目算も込みで姫様の誘いに乗ったのです。丁度良い時間潰しのつもりだったのです。口実さえあるならいくらでも可愛がってくれるお人なのです」
今度はクロエが饒舌だ。このメンバーならルネル談義でも盛り上がれそうだ。ニクスとセラフは厳しいかしら?
「ふふ♪ そうですね。私も久しぶりにルネルとお会いしたくなりました」
ルネルは人気者だ。
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暫くするとアンジュもだいぶ馴染んできた。
「アルカさん。アルカさん」
「はいはい。今度はなぁに?」
「私もナノマシンを使ってみたいんです」
「シーちゃんお願い」
『イエス、マスター』
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「アルカさん。アルカさん」
「はいはい。今度はなぁに?」
「私も同化してみたいです♪」
「シーちゃんお願い」
『イエス、マスター』
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「アルカさん。アルカさん」
「はいはい。今度はなぁに?」
「私も小型飛空艇を操縦してみたいです♪」
「シーちゃんお願い」
『イエス、マスター』
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「アルカさん。アルカさん」
「はいはい。今度はなぁに?」
「私も……その……アルカさんと一緒に……今夜……」
「シーちゃんお願い」
『イエス、マスター』
「ちょっ!?」
あ、間違えた。
「えっと、ごめん。なんだって?」
「なんでもありません!!」
あかん。怒らせてしまった。
「今のは無いわね」
「最悪です。アルカ」
「返す言葉もございません」
「なんでボーっとしてたの?」
「ちょっとね」
ハルちゃんとイロハとイチャイチャしてたとか言えない。
「いつもの事じゃない」
「不公平です。もっと私達の事も愛してください。ルネルさんからいったい何を教わってきたのですか」
うぐぅ……。
「それよりアンジュを追いかけるのです。今日は二人だけにしてやるのです」
「なんでクロエが仕切ってるの? 別に良いけどさ」
「ニクスは私の相手をするのです」
「まあいいけど。どうせならハルとイロハもアルカの中から出てきたらどう?」
「おけ」
「仕方ないわね」
そのままハルちゃんとイロハは別の空間へと消えてしまった。同じくクロエとニクス、二人に引っ張られたノエルとセラフも続く。
「私達の事はすっかり忘れ去られていますね。これはチャンスでは?」
「だめ~」
隠れ潜んでいたヤチヨがヒサメちゃんに連れられて出ていった。
「良いもん。私にはまだシーちゃんがいるもん」
「ハル達の所に混ざってきます。マスターは早くアンジュを追いかけてください」
「はい」




