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40-59.作戦会議(ついに)

「というわけなのよ」


「何が何やらなのです」


「もうちょい加減してや」


 エンジェルズの事情は初心者二人には厳しかったようだ。クロエならワンチャン飲み込んでくれるかと思ったけど。ワンちゃんだけに。



「何やら不快な事を考えている気がするのです」


 やっぱり察しが良いわね。不調なわけでもないようだ。ただのキャパオーバーだろう。



「取り敢えず二人の事は置いておきましょう。先に話し合わなければならない事があるの」


「悲しいわ」

「忘れられるのは困ります」


 ちゃんと名前は考えておくから。



「それならいいわ」

「期待しています」


「「??」」


 エンジェルズが私の心の声に答えるせいで、クロエとジゼルがまた疑問符を浮かべている。



「面倒だわ」

「気にせず進めてください」


 色々流してもらわないとね。キリがないからね。



「話し合いたいことは四つ。一つ、ジゼルとクロエの身柄について。一つ、マニャール商会の今後について。一つ、ジスカール伯家の目論見について。一つ、皇帝位簒奪計画の時間稼ぎについて」


 やっと本題に入れた。



「ジゼルとクロエの身柄については私が貰い受けるわ。あなた達は私の伴侶よ。もう異論は認めないわ」


「異論なんてねえのです。手放したら許さねえのです」


「そらあ、ここまでされたらな。うちも怒る」


 よかった。すっかり二人も惚れてくれたようだ。この娘達一緒に育ってきただけあってよく似てるわね。どっちも強引に迫られたいタイプだったわけだ。そりゃあ進展しないわよね。なんか腑に落ちたわ。



「マニャール商会の方は好きになさい。続けてもいいし、辞めてもいいし。どの道私達も普段から皆外に働きに出てるから何も気にする事はないわ」


 私は軟禁されるだろうけど。



「皇帝も同じなのですね?」


「ええそうよ。フロルは私の家族だけど、普段は皇帝として城に詰めているわ。夜は家に帰って来るけどね」


「ほなそれで。泊まりも多いかもやけど。許してくれん?」


「良いわよ。安心して。念話や転移も教えてあげるから。それに私との契約も結んでもらう。私達は何時でも繋がっていられるわ」


「わふ♪」

「えへ♪」


 可愛い。



「それで次がジスカール伯の件ね。彼らの目論見を教えてくれる? エーリ村代官の娘を娶ってどうするの?」


「どうもこうもねえのです。そのまんまなのです」


「その件なぁ……」


 なにその反応?



「そんなに有効な手とも思えないのだけど」


 確かに口実にはなるだろう。ギヨルド王国に与しながらもギヨルド王国の支配が広がるのを良しとしない勢力も居るはずだ。そもそもギヨルド王国だけで皇帝を排除できるわけじゃない。複数の国家が束になって皇帝位簒奪を目論んでいるという前提がある。


 だからこそ代官との繋がりは有効なのだ。戦後に自分達が統治する為の口実として必要なのだ。けど、それにしたって娘一人では説得力として弱いのではなかろうか。いっそジスカール伯の娘をエーリ村に嫁がせるべきではなかろうか。娘の嫁入り道具と称して従者に扮した工作員達を忍び込ませ、代官を務める伯爵家の当主を直接支配下に置いてしまった方が確実ではなかろうか。



「ああ。なるほど。そこから知らないのですね。ジスカール伯家は法服貴族なのです。自らの領地が欲しいのです」


「法服貴族?」


「その功績によって認められたか、或いは官職を買った者がなる、領地を持たない貴族の事なのです。先代ジスカール伯は国王陛下に認められて貴族位を得たのです」


「それで伯爵? 凄いわね。そういうのって普通は男爵止まりよね。その人はいったい何をやったの?」


「何でも超人なのです。元はアルカと同じSランク冒険者だったそうなのです」


 なにそれ気になる。後で詳しく聞いてみよう。脱線しすぎるからここでは深堀りしないけど。



「その分、現ジスカール伯は苦労しているのです。彼には才覚が足りていないのです。分不相応な爵位だけを継承してしまったのです。他家が当然に持っている積み重ねすらも皆無なのです。ただそれでも爵位を守り抜く為に必死なのです。決して根っから悪い方だったわけではないのです」


 今はそうでもないような言い方だ。トニアも言っていたけど、あまり良い噂を聞かないって話だものね。



「ジスカール伯は基盤となる土地が欲しいのです。この際多少田舎だろうが関係はないのです。財を成せる肥沃な大地はむしろ好都合だったのです」


 だから長男に嫁入りさせようとしていると。裏から都合よく操るだけではなく、完全な乗っ取りを企てていると。



「もしかしてだけど、ギヨルド王国の命令とは別の思惑で動いてる?」


「肯定なのです。お上的には現段階ではバレない事が最優先なのです。ジスカール伯家、ひいてはギヨルド王国の関与を気付かせた事も、ローラン坊っちゃんまで乗り込ませた事も、完全にやりすぎなのです」


 そうよね。元はただの商会として接触させたのだものね。それでも代官に裏切りの意識を植え付けるには十分だった筈だ。土壇場の逃げられないタイミングで明かして、重要な局面での完全な裏切りを強制する方がより効果的だった筈だ。


 完全に包囲した状態で主要な生産拠点の物資を全て巻き上げてしまえば、一番嫌なタイミングで補給源を潰せた筈なのだ。わざわざバレるリスクを負ってまで今の段階で圧力を強める意味は無かった筈だ。


 ジスカール伯の正体が露見していなければ、あの時点では元代官もコレットちゃんを裏切る事はなかったのだ。


 実際には既に裏切りにも手を染めてはいるのだけど、本人はあくまで商人相手の小遣い稼ぎ程度にしか思っていなかった筈なのだ。当然嫁入り話も無かったのだから、マティが誘われたからってボロを出す事はあり得なかっただろう。



 それでもジスカール伯はわざと気付かせたわけか。自身の目論見を滑り込ませる為に。その結果、こうして私が気付く事になったわけだ。道理であの元代官も詳しく知っていたわけだ。正直あの男が自分で見抜けたとは思えなかったし。


 ギヨルド王国としての目論見はあくまで帝位簒奪までの準備でしかなかった。敢えてそこに絞り込んでいたのだろう。戦後処理を楽にしたいが為にリスクを冒すつもりは無かったのだろう。それをジスカール伯は台無しにしてしまった。



「どうしたものかしらね。いっそ王国に垂れ込む?」


「堪忍やぁ……」


 やっぱりジゼル的には、ジスカール伯家が潰される系は無しってわけね。



「ならいっそジスカール伯家も仲間に加えてしまうのはどうかしら? 皇帝側につくなら多少の便宜も図れるかもしれないわ」


「それは難しいのです。帝位簒奪を平和的に阻止するなら結局はギヨルド王国も存続するのです。ジスカール伯爵はあくまでギヨルド王国の貴族であって、ヴァガル帝国の貴族ではないのです」


 まあそうだよね。頭飛び越えてフロルの権力が届くわけでもないのよね。



「ジスカール伯爵の問題を解決したいならギヨルド王国の上層部にも味方を作るしかないね」


「それやりだすと私が全部解決しちゃう事にならない?」


「間違いなくそうなるわね」

「武闘大会を待つまでもありませんね」


「いっそそれで良いと思うのです」


「アルカが頑張ってくれるならうちらも全力で協力するで」


 いやいや。ダメでしょ。どう考えても。絶対カノン達に叱られるし。今度はギヨルド王国の姫とかまで加入しかねないし。



「クロエ。質問よ」

「ギヨルド王国に年頃のお姫様はいますか?」


 ちょっと?



「いるのです。才色兼備と評判なのです。きっとアルカも気に入るのです」


「待てこら!」


 このワンちゃんノリが良すぎよ! なにそのニヤけ面! 察しも良すぎでしょ!? 御主人様見てみなさいよ! 全然ついてこれてないわよ! キョトンとしてるわよ! いや、こっちはこっちでたまにちょっと鈍いけどさ!



「流石に今回ばかりはそう上手くもいかないんじゃない? 確かにギヨルド王国が中心となってはいるけど、既に帝国の七割が皇帝を引きずり降ろそうと目論んでるんだよ?」


 そうだよ。トニアもそう言ってたじゃん。今更ギヨルド王国寝取ったって収拾つかないでしょ。



「ですが間違いなく頭は押さえられるのです。それに丸ごと抱え込む必要は無いのです。十分な時間稼ぎと事後処理にあてられる要員が確保できれば万々歳なのです」


「それがお姫様ってわけね」

「そんなに有能な方なのですか?」


「らしいわぁ。結構評判ええねん。それに何より、姫様は反対派の筆頭なんよ」


「反対派? まさか皇帝位簒奪に?」


「なのです」


 えぇ……なにその都合の良い展開……。



「やるしかないね」


「やるしかないわね」

「やるしかないですね」


「やるしかないのです」


「やるしかあれへんなぁ」


 この娘達、なんでこんなに息ぴったりなの?

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