40-53.中身入り
えっと、今は家族が八十六人。伴侶は四十六人だったかしら。
「アルカは王族だったのです?」
「それもある意味間違いではないわ」
取り敢えずこれで何時ものやり取りは済んだわね。
「クロエの話も聞かせてくれる?」
「え? 今ので終わりなのです?」
「家族全員の事を事細かに語って聞かせていいならいくらでも話すけど」
一人一晩と考えると三ヶ月近く必要になりそうだ。全然足りないわね。
「要約して話してくださいなのです」
「先ずはノアちゃんとセレネね」
「ねえ? 今くらいは私を一番にしてくれてもよくない?」
「ニクスの事は今更話すまでもないじゃない」
ずっと一緒にいたんだし。
「そうだけどさぁ」
「アルカから見たニクスはどんな人物なのです?」
今それ話すの? 本人の眼の前で? 私は良いけどニクスが恥ずかしくならない?
「やっぱりやめておこう」
ニクスも同じ考えに至ったようだ。
だがしかし!
「ニクスはこう見えてとっても強い心の持ち主なの」
「やめてって言ったじゃん!」
「ダメよ。愛し合ってるって示さなきゃ。恥ずかしいから口を噤むなんて足りないと言っているようなものじゃない」
「足りてるから! 十分伝わってるから! アルカが私の事大好きなのはよくわかってるからぁ!」
「アルカ。どうかやめてあげてくださいなのです。ニクスが本気で恥ずかしそうなのです」
「まあ、クロエがそう言うなら」
残念。いっそ語り尽くしたかったのに。いや、尽くしちゃダメなんだけど。要約しないと流石に時間足りないし。
「じゃあ話を戻しましょうか」
先ずはノアちゃんとセレネよね。もう二人だけで一ヶ月は語り続けられそうな気がする。あかん。今すぐセレネに会いたくなってきた。取り敢えずダミーでも出しておこう。
「この子がセレネ。それでこっちの猫耳の子がノアちゃん」
「……もしかしてモックというやつなのです?」
流石クロエ。理解が早い。
「そう。正解よ。幻術で生み出したとでも思っておいて」
「酷いわ。アルカったら。私だって思考出来るのよ? 偽物のお人形扱いなんて悲しいじゃない」
ありゃ? 中身有りで出てきちゃった? 設定間違えた?
「そうですよアルカ。私達を差し置いて随分と楽しんでいましたね。その方は誰ですか? ちゃんと紹介してください」
ああ。やっぱり違うんだ。本物のノアちゃんならクロエの事は知っているものね。データの同期には若干のラグがあるらしい。本人がログインした時にでも取り込む仕組みなのだろう。
「この子はクロエ。セレネとノアちゃんも協力して。この子を家族に迎えたいの」
「アイリスまで見せておいて今更ですね」
「そうよ。大体私の許可は得ているんでしょうね?」
「いやぁ~それは~あはは~」
許可出てないんだよなぁ。セレネだけでなくカノンやセフィ姉にだって言ってないし。今のところノアちゃんと私とニクスで盛り上がってるだけだし。
「別にとやかく言うつもりは無いわよ。私は所詮偽物だもの。お説教なんてつまらない事はオリジナルに任せておくわ」
セレネらしい。流石の再現度だ。あとやっぱり自覚はあるんだね。大丈夫? そのうち反乱とか起こされない?
「お二人は姉妹なのです? 獣人と人のハーフ?」
「いいえ。先祖返りみたいなものよ。二人のご先祖様が同じなの」
ここも色々ぼかして説明せざるをえないわね。話長くなるし。
「そんなお二人が出会ったのですね。なんだか良いのです。素敵なのです。そういうの運命感じるのです」
流石読書家なだけはある。今度オススメの恋愛小説を贈呈しましょう。
「採用」
「是非加わって頂きましょう。私達も全力で協力します」
セレネはわかるけどノアちゃんはなんで? 今のクロエの発言に刺さる要素あった? 運命って単語に中二心が引かれた感じ? デスティニー?
「じゃあ心強い味方も増えたところで」
「待ってよ。アルカ。そういうの良くないと思う」
「何がよ?」
「ノアとセレネには下がってもらって。本人達の与り知らないところで勝手に代弁させたらダメだよ。きっとクロエも後で混乱するよ」
「ノアちゃんとセレネなら大丈夫よ。心配要らないわ」
「ダメ。私が認めない。私のノアとセレネはあの子達だけなの」
これは感情的な話をしてる?
「つまり偽物は認めないと。そう言いたいわけね」
「そんなの酷いです。ニクス」
セレネとノアちゃんが抗議を始めた。
「ほら。アルカにもわかるでしょ? こんな事まで言いだしたよ? 精巧な模造品なんて存在しちゃいけないんだ。皮だけならともかく、中身まで作り込んじゃったらそれはもう一個人を創造しているのと変わらない。いくら本人にコピーの自覚があったって、生きたいって欲求は生まれてしまうものなんだ。だからダメだよ。真似て良いのは姿形だけ。徒に命を生み出して弄ぶなんて認めないよ」
「大げさよ。私達は所詮データ上の存在よ」
「そうです。弁えています。だいたいそれを言い出したら他のNPCはどうするのですか? 彼らも思考し、この世界を生きているのですよ?」
「重要なのはアルカの意思だ。アルカが今のセレネとノアを生かしたいと願ってしまう事が問題なんだ。そして二人が願えば必ずアルカは同じ願いを抱くんだ。だから弄ぶなと言っているの。二人もわかるでしょ? アルカがこういう時、どんな風に暴走してしまうのかは」
「「……」」
「そんな深刻に考えなくても……」
「いえ。ニクスの言う通りですね」
「私達は退散するわ。後は上手くやりなさい。アルカなら大丈夫よ」
ノアちゃんとセレネは自らの意思で消えてしまった。この世界は本当によく出来すぎているのかもしれない。
「えっと……大丈夫? なのです?」
「うん。ええ。大丈夫。心配は要らないわ」
確かに結構なショックでもあるわね。これは危なかった。もう少し長く一緒に居ればゲーム世界に再現されただけのコピーと割り切って消し去る事は出来なかったかもしれない。ニクスの言いたいのはこういう事なのかしら。
「気を取り直して次行きましょう」
「なら今度は私から話すのです」
「聞かせてくれるの?」
ここまでクロエは自身の事をあまり教えてくれなかった。どれだけ仲良くなっても一線だけは超えないように立ち回っていた。それが遂に解禁されるのだろうか。
「話したいのです。知って頂きたいのです。本当はずっとそう思っていたのです。もう我慢できないのです」
「なら喜んで聞かせてもらうわ」
「はい! なのです!」