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40-52.前半戦

「ふっふふ~♪ わっふぅ~~~♪」


 遂にクロエが壊れてしまった。本の山と最新鋭の家電達は彼女の強靭な理性をも崩すに至ったようだ。



「なんなのです~♪ これはなんなのです~♪」


 炊飯器に頬ずりしながら問いかけてきた。先程からずっとこんな調子だ。あの冷静沈着なクロエの姿は見る影もない。



「米を炊く家電だよ」


 他にも色々出来るけどね。

ニクスの説明はざっくりすぎる。



「コメってなんなのですぅ~♪」


 後で食料品コーナーにも行ってみようか。



「クロエ、クロエ。ほらこれ」


「な~ん~で~すか~♪」


「ホームベーカリーだってさ。材料入れればパンが自動で焼き上がるの」


「便利なのです! 見てみたいのです!」


「私も使ってるところ見たこと無いや。ねえ、アルカ。少し試してみない?」


「それは良いけど四時間くらいはかかるわよ?」


 パンを直接出した方が早いと思うの。



「「良いから!」」


 はいはい。なら相応しい場所に移動しましょうか。



 コンソールを弄ると周囲の光景が一瞬で切り替わった。家電コーナーは消え去り、代わりに現れたのはカウンターキッチン付きのワンルームだ。



「当面はここを拠点にしましょう。足りない家電とか食料とかも何時でも出せるけど、どうせならさっきのお店にもまた見に行きましょうか」


「「賛成!」」


 早速キッチンに飛び込むクロエとニクス。ホームベーカリーだけでも先に出しておこうかしら? ついでに家具も揃えないとだし。全部選んでると時間がかかるからね。やっぱり最低限は今ここで用意しちゃおうか。



 それから二手に分かれて作業を開始した。クロエ達には先程目をつけていたキッチン家電をいくつか提供し、私は机や椅子、その他必要になりそうな家具を出して部屋に配置していく。


 一通りの準備を済ませてから再び商業ビルに移動して、今度は食料品コーナーで欲しいものを集めていく。



「鰻重食べたい!」


 ニクスの好みってなんだか普通よね。神様っぽくないというか。ニクスらしいというか。



「パンも作るんでしょ?」


「どっちも食べる!」


 さようで。



「生の魚がいっぱいなのです……」


 こっちはちょっと尻尾がシュンとしてる。どうやらここの匂いはお気に召さなかったようだ。



「お魚苦手?」


「そうでもないのです」


 量の問題かしら?



「刺し身も食べよう!」


 ニクスはお構いなしだ。次々と気になるものを籠に放り込んでいく。



「海鮮丼にしたらどう?」


「どっちも食べる!」


 さようで。



「これはなんなのです?」


「タコだ! 良いね! たこ焼きも作ろう!」


「流石に多すぎるわ。数を絞りましょう」


 こんな調子じゃキリが無い。それに炭水化物ばかり取り過ぎだ。いくらでも食べられるとは言え、気持ち的にはもう少しバラけさせてほしい。



「今日一日で全部食べてしまったら勿体ないじゃない。焦らずゆっくり楽しむとしましょう」


「それもそうだね!」


 言いながらも籠に入れ続けるニクス。これは追加の冷蔵庫も必要になるかしら? それとも傷んだりはしないのかな?




----------------------




「飽きた……」


 むしろよく三日も続いたわね。半強制食べ放題生活。



「ニクス。次はこれの味見をお願いするのです」


 クロエの方はまだまだ飽きる気配が無い。今日も今日とて料理研究に余念がない。最初は少し抵抗を示していた魚の生食も今となってはなんのそのだ。


 そこから派生したのか、和食にもハマったらしい。タブレットや家電の操作も早々に慣れて、私が教えるまでもなく動画を見ながら料理を続けている。



「私が頂くわ」


 げんなりしているニクスの代わりにクロエからお皿を受け取った。



「あら。今度は肉じゃがなのね。

 ふふ♪ 美味しい♪ もう和食もバッチリね♪」


「一口頂戴」


「あ~ん」


「……美味しい。もっと」


「私の分が無くなってしまうわ」


「ならもっとついでくるのです」


 この調子だとまだ暫く続きそうだ。



「ねえ。本来の目的忘れてない?」


「忘れてねえのです。胃袋掴むのも策の内なのです」


「絶対違うよね? 単に楽しんでただけだよね? そもそもその作戦は上手くいかないと思うよ? 勿論クロエの料理は美味しいけど、私達の家族にはアルカの為にって日々頑張ってくれてる子達がいるんだから。それにアルカ自身だって料理は得意だからね。クロエもたった三日でここまで腕を上げたのは驚いたけどさ」


「なるほど。分が悪いのですね。盲点でした」


 そう? 私はすっかり胃袋掴まれてるよ? 是非我が家の家事チームに加わってほしいくらいだ。


 いやでも、クロエは出来る事多すぎるからなぁ。ノアちゃんも連れて行きたがるだろうし。


 取り敢えずノアちゃんとマキナと一緒に私の側付きになってもらおうかしら?



「そろそろどこか遊びに行こうよ。遊園地なんてどうかな? 手っ取り早く親睦を深めるならそういう非日常も必要じゃない?」


「どこの世界の日常を基準に考えてるのよ」


 ニクスは染まりすぎよね。まあ私達の普段の生活自体が限りなく向こうに近いものではあるんだけど。とは言え向こうの人達でも個人所有の遊園地で遊べる者はそうはいまい。



「ここでの生活にもだいぶ馴染んでるみたいだよ?」


 そうなんだけどさ。でもほら。旅行で一週間泊まったって、それを日常と呼ぶのはやっぱり変だと思うわけで。



「論点がズレてきてるわ。先ずは今日何をするか話し合いましょう」


「だから遊園地って」


「却下よ。ああいうのはたまに行くから良いのよ」


「絶対クロエは好きだと思うんだけど」


 私もそう思う。けどそれは遊園地のアトラクションが気に入るだけだ。私を好きになってくれるわけじゃない。



「何れ皆で遊びましょう」


「皆さんの事を教えてくださいなのです」


「それは構わないけど、結局出かけないでお話してるってこと?」


「それで良いのです。私達は互いの事を伝え合う必要があるのです」


「今更過ぎる意見だね。でも私も賛成。これ以上新しい何かを加えてもそっちに気を取られたら本末転倒だもんね」


「遊びに行こうって言い出したのはニクスじゃない」


「それがキッカケになればって思っただけだよ。考えてみたらもう十分仲は良いんだから、後は頭で考える方が大切だよね。その為にも家族の事を教え合うのは良いと思うよ。お互いの人となりがもっと深く見えてくるだろうし」


 良いけどさ。



「私は聞いているだけにしておくよ。後はアルカに任せた」


 つまりいよいよクロエの本格攻略開始ってわけね。


 良いわ。やってやろうじゃない。ここからが私の腕の見せどころよ! 弱気になっている場合じゃないわよね!

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