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40-47.お使い失敗

「要らん。捨ててこい」


「ちょっとフロル。ダメよ。そんな言い方。

 あなたこの国の皇帝でしょ?」


「わかっているなら口の利き方に気を付けよ。

 ここは我が家ではないのだぞ?」


「はいはい。皇帝陛下」


「まったく。お主の言いたい事も理解出来るがな。確かに帝都に浮浪児が住まう現状を良しとすべきではないのだろう。孤児院を整備し、支援制度を充実させ、万民が幸福に暮らせる国造りを為すべきだ。それがわらわの役目ではある。だがしかし、わらわの役目はそこまでだ。個々人に手を差し伸べる事ではない。それは末端のするべき事だ。わらわがそんな事に煩っておれば、より多くの子供達を救えなくなるのだ」


 ぐぅ……の音も出ない正論だ。まじごめん。



「でもほら。縁ってあるじゃない? この子だけ偶々私が拾い上げちゃったからさ。城でメイドにでもしてあげてよ。仕事なら沢山あるでしょ?」


「うつけ者め。あの者共がどれだけの教育を受けてきたと思っておる。幼き頃より皇帝の為ただその一心で仕えてきた者達だ。そこらの女中とはわけが違うのだ。あれらは僅か生後数年で家族の下から離れ、文字通り人生の全てを費やしてきたのだ。わらわの城に仕える者達を甘く見るでない。うつけ者め」


 二回言った。うつけ者って二回言った。よっぽど頭に来たのだろう。ほんとごめんなさい。


 メイドさんはメイドさんでも、このお城に仕える人達は英才教育を受けたエリートさんだったようだ。カノンやセフィ姉のように高い実力と実績を持ち合わせているならともかく、今までスリで生きてきた学もない少女をいきなり城で雇う事が出来ないのも当然の話だ。



「悪かったわ。なら他を当たるわ。じゃあね。フロル」


「おい待たぬか。バカ者」


 またバカって……ぐすん。



「これではわらわが狭量さを示しただけではないか。少しは気を遣わんか」


 気を遣うのは私なの?

えっと? 何したら良いの?

教えて! シーちゃんえもん!


『語呂悪くないですか?』


 ヤチヨんでも可!


『許可を貰えば良いのです。マスター』


 さっすがシーちゃん! 頼りになるぅ!


『私だって気付いてましたぁ!』


 わかってるって。ヤチヨん。でも先に答えてくれたのはシーちゃんだからね。次は頑張ってね。期待してるわ。


『ヒサメも~』


 うん♪ お願いね♪



「皇帝陛下。どうかこの罪深き少女にご慈悲を賜りたく」


「よかろう。更生の機会を与える。エーリ村に連れて行け」


「御意。ご寛大な沙汰、幸甚の至りでございます」


「うむ」


 よしよし。フロルも機嫌を直してくれたようだ。



「出来るなら最初からそうせぬか」


「無茶言わないで。私は最高位の冒険者よ。いくら相手が皇帝だからって気軽に頭下げていいわけじゃないの。こんなでもギルドの看板背負ってるんだから」


「白々しい事を。とうに奴らとは縁を切っておるだろうが」


「まあ実態としてはね。でも籍は残してるから」


「それでは文句も言えまい」


「それは彼らも同じよ。私が冒険者を辞めると宣言したらまた一波乱起きる筈よ」


「どこが抱え込むかと争奪戦となるわけか。いっそ公表するのも手か?」


「確かにそれでも帝国は纏まるかもしれないわね」


 わざわざ武闘大会とか開くまでもなく。

いやいっそ、お披露目の場にしても良いわけだ。



「けどカノンが認めないわ。そもそも思いついていない筈もないもの」


「であろうな。下手をするとギルドを敵に回す。何よりアルカが世界に与える影響が大きすぎる。……しかしなぁ」


「やりたかったら先ずはカノンを説得してみて」


「無茶を言いおる」


「あら。皇帝陛下らしくない弱気な発言だこと」


「……そこはまああれだ。察しろ」


 散々絞られたわけね。皇帝としてのお仕事っぷりを。フロルもなんだかんだ手が回りきっていなかったものね。




----------------------




「どこだよここ……」


 謁見の間から直接エーリ村、皇帝直轄領の片隅に存在する農村へと転移した。


 流石の少女も萎縮していたようだ。皇帝陛下か、もしくは城か、或いはその城へと我が物顔で立ち入る私に対してか。城の中では大人しいものだった。


 そんな少女も、いきなり光景が様変わりした事に驚きすぎたのか、逆に少し調子を取り戻したようだ。眼の前に広がる大農園を見て何やら考え込み始めた。



「家族が居るなら早めに言いなさい。

 あなたは暫くここで暮らす事になるわ。

 言っておくけど自力で帝都に戻るのは不可能よ」


「……」


 ベーダちゃん(仮)は睨みつけるだけで何も答えない。未だに本名すら聞かせてもらえていない。



「早く預けて戻るよ。アルカ」


「そうね。本当は会わせたくなかったけど、この際だからノアちゃんに任せてしまいましょうか」


「そうだね。最初は逃げ出そうとするだろうしね」


 ニクスと頷きあって再び転移する。今度は直接代官邸の中だ。一度外の景色を見せたのは現実を認識させる為だ。どうやらこれでも反発心は抜けきらなかったみたいだけど。まあ、ガッツがあるのは良い事だよね。やっぱりノアちゃんが気に入りそうだ。



「アルカ。まだ別れてから二時間と経っていませんよ?」


「あら? そんなもんだっけ? ノアちゃんと離れ離れなのが寂しすぎてもっと時間経ってるかと思ってた」


「それで誤魔化せるとでも?」


「そうじゃないのよ。聞いてよノアちゃん」


「私は確かに増やせと言いました」


「待って。違うから。そういう事じゃないの」


「……まさか本当に?」


「ええ。この子は」


 帝都で起こった出来事を説明し、ベーダちゃんを新代官のローランくんに預けに来た事を伝えた。



「こちらも忙しいのですよ?

 理解していますよね?」


 まあそうなんだけどさ。なにせ前代官が逃げ出したばかりだし。ローランくんからしたら父が失踪し、母が倒れ、幼い妹や弟達の面倒も見なければならないのだ。とんでもない多忙っぷりだろう。



「だからノアちゃんが見てあげてほしいの。あの馬車が到着するまでの一日で構わないから。その代わり徹底的に躾けてあげて。子供たちの世話係でも雑用係でも農園を手伝わせるでもなんでもいいから。ローランくんと相談して好きに使ってあげて」


「それが更生の機会だと言うのですね。良いでしょう。そういう話なら協力しましょう。たった一日しかありません。今すぐ始めましょう」


「なっ!? おい! 離せ!」


 ベーダちゃんはノアちゃんに問答無用で引きずられていった。流石の即断即決っぷりだ。ノアちゃんは頼りになるなぁ。



「それはいいけど、ちゃんと話を通しておくんだよ?」


 そうね。次はローランくんの所に行きましょう。


 そうして必要な手配を済ませてから、ようやくマキナ達の下へと転移した。



「お菓子」


「あ……」


 素で忘れてたよ……。



「次は私とハルで行ってくるわ。まさか文句は無いわよね? こんな簡単なお遣いも出来ないくせに」


 イロハ怒ってる?

そんなに楽しみだった?

ほんとごめんて。



「……良いよ。行ってきて」


 結局ニクスも諸々飲み込んで二人を送り出した。

今回ばかりは分が悪いからね。仕方ないね。

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