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40-46.人助け?

「わかってはいた事だけど退屈よね」


「たった一日の辛抱じゃない」


 そうなんだけどさぁ。


 四人で張り付いている意味は全く無いわよね。

ヤチヨでも残して撤退しておけばよかった。


『先輩。そろそろ泣きますよ。

 そこは分体で良いじゃないですかぁ……』


 分体じゃ私が退屈するのは変わらないじゃない。


『ひっく』


 冗談だってば。


『『『な~かした~な~かした~』』』


 仲良しね。皆。



「ここは監視用の分体だけ残して少し帝都に行かない?」


「ダメに決まってるでしょ。そんなの許したらまた女の子引っ掛けてくるんだから」


「流石に無いわよ。イロハの為にお菓子を買いに行きたいだけなの。少しで良いから見逃して」


「ダメ」


 ニクスが頑なだ。



「コレットにも差し入れが必要じゃないかしら?」


 マキナが助け舟を出してくれた。



「お菓子ならシイナがいくらでも生み出せるでしょ」


「そういうのだって積み重なれば問題もあるんじゃない?

 ニクス世界に私世界の物質が流れてるわけだし」


「今更そんな屁理屈捏ねないでよ。

 全部禁止にされたいの?」


 ダメそう。

一歩も引く気がないようだ。



「おつかい?」


「リジィが行くの?

 マキナと二人で行ってみる?」


「うん。行く」


「何勝手に話進めてるのさ。

 ダメだよ。ここで大人しくしていなさい」


「横暴だわ。ニクスお姉様」


「家族に秘密で勝手してるんだから少しは気を遣ってよ」


 まあ、ニクスが全面的に正しくはあるのだけども。



『私とハルで行ってくるわ。

 それなら構わないでしょう?』


「なんで構わないと思うのさ」


『そもそもニクスの許可が必要なのかしら?』


「ダメよ。イロハ。そういう事言っちゃ」


 そうやって皆が勝手しだすと収拾つかなくなるからね。自分からブレーキ役を買って出てくれる人は尊重するべきだ。逆にニクスが暴走して私達が止める時だってあるんだし。



『じゃあ間を取ってニクスが行ったらどう?』


「嫌だよ。今日はアルカの側にいるって決めたもん」


『ならアルカも連れていきなさい。

 二人でデートでもしてきたら良いじゃない。

 ここは私とハルが見ているわ』


 あれ? 私売り渡されてる? お菓子の為に差し出されてる? イロハもハルちゃんと二人になりたがってる? マキナとリジィもいるよ?



「うっ……」


 ニクスも悩み始めてしまった。どうやら心惹かれているらしい。ブレーキ役が早くも買収されかけている。



「……お菓子買いに行くだけだよ?」


 ニクスはたっぷり悩んだ末にそんな答えを絞り出した。結局今回のブレーキ役は買収されてしまったようだ。残念ながら? 珍しい事でも無いけれど。



「いいなぁ~」


「リジィはお父様に一発入れるのでしょう?」


 なんだか緩いなぁ。

割と深刻なやつだと思うんだけどなぁ。



「ほら。早く行って早く戻るよ。

 リジィが無茶しない内に戻らないとだよ」


 ニクスに急かされながらハルちゃんとイロハをその場に残し、帝都上空へと転移した。



「お店の場所はわかるの?」


「トニアに教えてもらったわ。

 確かえっと……あの辺りね」


 ざっと見回して店近くの人目の無い裏路地を見つけ出し、再びニクスと一緒に転移した。



「きゃあ~~~!!!」


 丁度降り立った所に近くから少女の悲鳴が聞こえてきた。咄嗟に駆け出そうとした所でニクスに腕を掴まれる。



「わかってる。助けたらすぐ離れるから」


「約束だよ」


 今度こそ駆け出して悲鳴の聞こえた場所に辿り着くと、倒れた少女と、その少女に手を伸ばす大男が視界に入った。



「何やってるの!」


「ちがっ」


 振り返って何か言いかけた大男がニクスに殴られて吹き飛んだ。



「ねえ? あの人今なにか言いかけてなかった?」


 気の所為? 違うって言ってなかった?



「……あはは」


「あははじゃないでしょ。

 あっちの介抱は任せたわ。

 ちゃんと事情を聞いてみましょう」


「約束したじゃん!」


「ニクスが問答無用で気絶させたんじゃない。

 このまま放り出せるわけないでしょ」


「うぐっ……」


 大男はニクスに任せて少女を確認する。どうやら外傷は無さそうだ。と言うかそもそもこっちは意識を失っているわけではないようだ。



「おいたはダメよ。

 悪いのは貴方の方だったのね」


 近付いた私の財布を奪おうとした手を掴み、少女を軽く拘束して座らせる。随分と粗末な服装だ。大体十歳前後だろうか。どうやらこの子は孤児のようだ。この帝都はそれなりに栄えてはいるけれど、どうしてもこういう境遇の子達も存在するものだ。



「なによこれ!? 離せ! 離せよ! 人攫い!!」


 ちょっとだけ懐かしい。こういう子と関わるのは一人で旅をしていた時以来だ。アリア達はとっても良い子だったし。



「随分手慣れているのね。

 貴方一人? 家族はいるの?」


「……そんな事聞いてどうするつもりよ?」


「孤児院の手配くらいはしてあげるわ」


「ふざけんな! 誰が行くか! あんなとこ!」


 この様子だと放り込んでもすぐに逃げてしまいそうね。今回もフロルに丸投げするべきかしら? 忙しいのに頼りすぎかな? でも帝都の事だからね。武闘大会の為にも治安は良くしておきたいし。孤児院に問題があるなら解決は必要だ。


 この子が個人的に馴染めないだけなら他の居場所を用意してあげるべきだろうか。とにかく単に衛兵に突き出したって解決はしないだろう。最悪この子が奴隷落ちするだけだ。それでは私の寝覚めが悪い。



「ダメだよ。アルカ」


「そっちは目覚めたの?」


「うん。大丈夫。

 ちょっと失礼」


「ちょ! おま!? 何しやがる!!」


 ニクスは躊躇なく少女の懐に手を突っ込み、財布らしきものを取り上げて男性に差し出した。



「これで合ってますか?」


「ああ。これだ」


 男性は財布を受け取るとそそくさと離れていった。どうやら関わっても碌な事にならないと察したようだ。本当にごめんなさい。



「くそ! よくもこんな!

 子供から金毟るなんざ恥ずかしくねえのか!」


 往生際が悪い。



「誰か! 誰か来て!!

 人攫いよ! 強盗よ!」


「無駄よ。気付いてないの?

 誰にもここの声は届かないわ」


「そんなわけあるか!」


 そりゃ防音結界くらい張るわよ。最初の悲鳴もあの男性から逃げる為に騒ぎを起こそうとしてのものだったのでしょうし。


 気絶したフリで男性の方を悪者にして他の誰かに取り押さえさせるつもりだったのだろう。ついでに介抱しに来た人の財布も奪って逃げ出そうとしたわけだ。手慣れすぎている。しかも悪質だ。やっぱり衛兵に突き出すべきかしら。



「どうする? この子」


「フロルに聞いてみたら?」


 結局そういう流れ?

カノンにバレたらなんて言われるかしら?


 あら?


 少女は何時の間にか静かになっていた。

どうやら声が届かないのが本当の事だと気付いたようだ。



「お願い。離して……。

 小さな妹が待ってるの……。

 早く帰らないといけないの……」


 今度は泣き落としか。しかも中々の演技力だ。これが嘘だろうと思っていてもつい騙されそうになる。



「これ嘘だからね」


「わかってるわ」


 残念ながらニクスには通じないようだ。少女もそれを察して黙り込んだ。


 なんだか投げやりな態度だ。諦めたとも、どうでも良いと不貞腐れているとも取れるような表情だ。この子は世界に失望しているのかもしれない。自らの境遇を受け入れて、それでも死ぬのだけは怖いと日々に縋り付いているのかもしれない。



「ダメだよ」


「でもほら。もしかしたら環境さえ変われば良い子になるかもよ? まだ小さいんだから」


「たぶんアルカの思っているよりは年上だよ。栄養が足りていないだけだよ」


「ならお腹いっぱいにしてあげたら年相応に落ち着くんじゃない?」


「わけわかんない屁理屈言わないでよ」


「別にうちで抱え込む必要はないわ。

 仕事なら沢山あるんだもの。

 城でもいいし、あの村でもいいし」


「もうその気になってるじゃん!

 ズルズルいくやつじゃん!」


「いかないってば。

 今のこの子を家族に迎えるのは流石に無理よ」


「……本気みたいだね。珍しく」


「当然でしょ。中には変われない子だっているんだから」


 こればかりは仕方がない。

それこそマキナに魂でも見てもらうべきかもしれない。



「あなた名前はなんて言うの?」


 今度はニクスも止めてこなかった。



「べぇ~~っだ!!」


「そう。ベーダちゃんね」


「ちがっ! バカじゃないの!?」


「ベーダちゃん。今からお城に行きましょう」


「誰だよ! ベーダって! 違うつってんだろ!」


「別になんでもいいのよ。貴方の名前なんて。

 ほら立って。少し歩くわよ」


「離せ! このっ!!」


 無理やり立たせて手を引いて歩き出すと、反発心が蘇ったらしく、逃げ出そうとして必死に暴れ始めた。



「な!? 化け物!?」


 私の腕に噛みついた少女は歯が通らずに困惑している。



「失礼しちゃうわ。

 私はただの冒険者よ」


「んなわけあるか!」


 冒険者にまで噛みついた事があるの?

中々ガッツがあるわね。ノアちゃんが気に入りそうだ。

別に会わせるつもりは無いけれど。

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