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40-45.綺麗なもの

『結局折れるのね』


『たあいない』


 だってぇ~!


『まあ良いじゃない。ただケジメを付けたいと言っているだけよ。アルカの邪魔になるような事はしてこないわ』


 確かにそのくらいの自制心はありそうなんだけども……。


 だとしてもだ。いくら自分達を捨てた父親だからって、十歳やそこらの子供にその末路を見せつけるのは……。


『上手くやりましょう。

 別に目の前で手を下す必要は無いんだもの』


 そうね。やりようはいくらでもあるものね。

そもそも元伯爵は現れないかもだし。


『その可能性も高いわね。

 助けてもらえるとは限らないもの』


 元々接触するかもと考えたのは、あの男にとって他に頼る相手がいないだろうという推測だけが根拠だ。彼がこの先も生きていくには、先ず何より皇帝直轄領を脱出しなければならない。ギヨルド王国からの侵入者達ならその手引も容易いだろう。理由としてはその程度だ。イロハも言う通り、この想像は十分に覆りえるものだ。



 結局、私、ニクス、マキナ、リジィの四人で引き続き馬車の追跡を続ける事にした。


 暫くして速度を緩めた馬車の中から犬耳少女のクロエが出てきて、そのまま屋根の上によじ登った。クロエは外で警戒する事にしたようだ。相変わらず私達には気付いていないようだが、それでも何かいると確信した様子で空を睨み続けている。



「ここだと風上になるわね。少し位置を変えましょう」


 まさか本当に匂いだけで判断しているとは思えないけど。そもそも獣人の感覚はそこまで強いわけじゃない。人間とも極端にかけ離れているわけではないそうだ。少なくともノアちゃんはそう言っていた。



「完全に警戒させちゃったわね。

 私が扮したマティの正体にも気付いたりするのかしら」


「不安なら念の為マキナは接触させないようにしたら?」


「ダメよ。ニクスお姉様。それではリジィも一緒に居られないじゃない。それにバレたらバレたで構わないわ。そんな優秀な子は増々放ってはおけないもの」


 そういう意味ならもう十分条件は満たしていそうだ。放っておきたくない事情も無くはない。変なタイミングで再会して、思わぬ所で足を掬われても困るだろうし。なら早めに抱え込んでおくのも得策だ。



「……マキナもあまり勝手をしすぎてはダメだよ」


 ニクスは色々と言いたい事を飲み込んで一言だけ返した。


 別に隠蔽を使うのはマキナじゃなくても良いだとか、どうせノアちゃんが放っておかないだろうから今更これ以上優秀かどうかは関係無いだとか、本当はそんな感じの事を考えているのだろう。そんな表情だ。



「ええ♪ 勿論♪」


 本当にわかってる?



「それよりご覧になって。お母様。あの護衛達ったら呑気なものだわ。クロエの警戒ぶりを嗤っているの。それで私思ったのだけれど、クロエの正式な所属は別にあるのではないかしら?」


「なるほど。食客的な」


「もしくはどこかの密偵ね」


 ギヨルド王国のお目付け役とかだろうか。ジスカール伯が任務を無事にこなせるか見張っているのかもしれない。



「その場合密偵と言うより出向職員だよね」


「そうね。だからこそ護衛達も従っているのでしょうね」


 どう見ても腕っぷしで納得させたとかではなさそうだ。



「芋づる式でどんどん関わる人達増えていきそうだわ」


 そうなったらやだなぁ。想像より大事になるやつじゃん……。



「ギヨルドの裏で暗躍する組織は流石に無いんじゃない?」


 ニクスらしくもない呑気な考え方だ。



「それこそアスラの残党とかって可能性もあるわよ」


「クロエはそんな子じゃないわ。お母様」


 マキナはクロエの何を知ってるのさ?



「まさか記憶でも覗いたの?」


「いいえ。そんな必要は無いの。

 あの子は間違いなく良い子よ。

 だって魂がとっても綺麗なんですもの」


 なんかもっと凄いの覗いてた。



「ちなみに私の魂は?」


「あら。本当に聞きたいのかしら?」


 そういう感じ?

いや、心当たりが無くはないけども。


「やっぱりやめておくわ」


「ふふ♪ 冗談よ♪

 お母様は私好みの魂よ♪」


 そこは綺麗とは言ってくれないのね。嬉しいけども。



「お母様の魂は特殊なの。透き通っているようで、けれど色んなものが渦巻いて混沌としているの。そして少しでも覗いてしまうと目が離せなくなるの」


 マキナはなんだかうっとりしながら補足してくれた。



「それって良いの? 悪いの?」


「受け取り方は人それぞれよ。万華鏡のように美しいものとして捉えるか、はたまたその無秩序を嫌悪するか。後者ならば徹底して受け入れられないでしょうね」


 所謂生理的嫌悪感ってやつかしら。



「ニクスにも同じものが見えてるの?」


「ううん。多分マキナだけだと思う。

 もしかしたらお母様も見えるのかもだけど」


 イオスがやたらと私を気に入っていたのもそれが理由?



「けれど影響は受けるものよ。

 例え目に見えなくたって心が感じ取るものなのだから」


 ならもしかしたらイオスだけじゃないのかも。



「あんまり覗くものじゃないよ。そういうのは。

 良い事ばかりとは限らないから」


 そうそう綺麗な人ばかりではないだろう。中には見るに耐えないような心根の人も存在する筈だ。


 それだけじゃない。どんなに綺麗な魂を持っていたとしても私達の味方とは限らない。実際クロエの所属はギヨルド王国なのだ。彼女にとっての正しい事が私達にとって都合の良い事であるはずもない。魂だけを見て信じてしまうのはある意味危険な事でもあるのだろう。



「わかったわ。ニクスお姉様。

 極力控えるようにするわね」


 素直な良い子だ。きっとマキナの魂も綺麗なものなのだろう。



「アルカはマキナに甘すぎない?」


「ノアちゃん程じゃないわ」


「その逃げ方はどうかと思う」


「逃げただなんてそんな。

 私は事実を言っただけじゃない」


「正しい事が必ずしも適切だとは限らないんでしょ?」


「ごめんなさい」


「素直で宜しい」


 ニクスは私に甘いよね。



「素直だった?」


「そういう事にしておきましょう。リジィ」

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