40-44.制御不能
「さて、これからどうしようか」
「クロエを引き抜く策ですか?」
「もしかしてノアちゃん気に入ったの?」
普通猫と犬って喧嘩しない?
「はい。気に入りました」
この節操なしめ。
『やっぱりアルカに似てるのよね』
『おやこ』
『そっくり』
私とノアちゃんは特に長い付き合いだもの。
『力を得て調子に乗っているのもあるんじゃない?』
『むいしき』
あるかもなぁ。ノアちゃんだからなぁ。
「なにか失礼な事を考えていますね?」
「心配してるだけよ。
うちにはもう先住猫が居るんだもの」
あとは兎も。それぞれ二人ずつ。
「喧嘩にはなりませんよ。
どれだけ力の差があると思っているのです?」
「そういう取っ組み合いのは想定してないんだけど」
「大丈夫です。私が躾けます。
最初に上下関係をしっかりと叩き込みます」
うわぁ。ナチュラルに上から目線だぁ。
「ダメよ。ノアちゃん。強引な事したら。
クロエにだってクロエの人生があるんだから」
「もちろんです。流石に伴侶がいれば遠慮します」
「そういう事じゃなくて」
わかってて言ってるでしょ……。
「先ずは予定通り村まで見守りましょう。
道中、マティの父親も接触してくるかもしれません」
よかった。本題は忘れてなかった。
このまま馬車ごと鹵獲するつもりなのかと思った。
「ここからだとまだ一日はかかるね。
アルカの計画詰んでない?」
え~? そういう感じぃ?
「最初からギヨルド王国までは同行できませんでしたね。
仕方ありません。この件が終わるまでは見逃しましょう」
「良いの? 後でセレネに叱られるよ?」
「どの道ですよ。
私も数日外泊しなければなりませんから」
「ノアちゃんだけなら適当な理由も作れるでしょ?
ギルドの方で張り込みするとかさ」
私も普通に帰って分体を派遣すればいいだけだし。
「セレネは誤魔化せません」
そうだろうけどさ。
「半端に嘘をつくくらいなら黙っていましょう。セレネは必ず尊重してくれます。問い詰めるのは事が終わるまで待っていてくれます」
私もそう思うけどさぁ……。
流石に開き直りすぎじゃないかしら……。
「アルカが何時もやっている事と何か違いますか?」
「うぐっ……」
「私が先に一声かけろと何度言っても繰り返したじゃないですか。あれと一緒です。今は話せないのです。アルカならよくわかっていますよね?」
やっぱ私だ……ノアちゃんに悪影響与えたの……。
「決まりですね。私達は先に村に戻っています。
根回しもしなければなりませんから」
向こうには私の分体もいるよ?
それにまだ準備を始めるには早くない?
いや、そうか。大切な準備があるんだった。
「ノアちゃんのメイド服楽しみにしてる」
「良いですよ。着てあげます。今回だけですよ」
良い笑顔でそう言って転移してしまった。
どうやらトニアも拉致られたようだ。
「マキナ。リジィの事もお願い。
こっちは私とニクスで十分だから」
「嫌。残る」
「ダメよ。リジィ。
悪いけど私はあなたのお父さんに優しくできないの」
「私もだよ。だから一発入れる。
でないと気がすまない」
リジィが本気でネガティブな感情を見せたのは初めてだ。マティの手前我慢していたのであろう怒りが溢れ出している。
「ごめんね。やっぱり戻っていて。
既にその程度で済む話ではないのよ」
娘のパンチ一発で許すわけにはいかないのだ。
「わかってる。用が済んだら任せる。
絶対庇ったりしない」
「ダメよ。聞き分けなさい」
リジィに父親を引き渡させるような真似はさせられない。
もう会わせない方がこの娘の為だ。絶対に。
「お願い。アルカ」
「呼び方変えてもダメ」
「私アルカのお嫁さんになる。
だからお願い聞いて」
「まだ五年は早いわ。もう少し大きくなってから出直して」
「ノアねえさんとあんまり変わらないよ?」
「ノアちゃんは年の割に小柄なだけなの。
もうとっくに成人越えてるの」
「でもアルカ好きなんでしょ?」
「ダメよ。リジィ。
お嫁さんは幸せな気持ちでなるものよ。
交換条件で差し出すものではないのよ」
「アルカが幸せにしてくれれば問題ないよ?」
ああ言えばこう言う。コレットちゃんとも変わらないお子ちゃまなのに。皆歳の割に成熟しすぎでしょ。
「ねえ、お願いリジィ。どうか聞き分けて。
これ以上私を困らせないで」
「……」
今度は黙って見つめてきた。最初は真剣な瞳を向けてきたかと思えば、次はウルウルと潤ませ始めた
「そんな顔してもダメ。ダメったらダメなの」
「アルカぁ……」
ぐぬぬ……。




