40-42.ノリと勢い
"タマキ"と名付けた吸血鬼の少女と契約を行い、何時も通りフィリアスに加えたあと、私世界に送り込んで予定通りイロちゃんズに託した。
早速新たなメンバーとして可愛がられているようだ。
今後はイロちゃんズの末っ子枠として活躍してもらおう。
「ハルちゃんの方はどう?」
「おけ」
ダンジョンの設定も終わったようだ。これでこの場でするべき事は終わった。想定より時間を使いすぎてしまったが、得たものを思えば悪くない寄り道だった。
ダンジョンに関してはフロルにも必要な事は報告したし、後は近くの町の冒険者達が発見するのを待つだけだ。近い内に町自体にも冒険者達が集まってくるだろう。これでまた一つ問題が片付くわね。
ダンジョンから転移で脱出して、再び飛び上がる前にリジィへ向き直る。
「リジィ。今日見た事は全部内緒よ」
「うん。わかった」
「良い子ね。さあ、見回りを続けましょう」
「その前にノアお母様とトニアをお呼びしてはどうかしら?
このダンジョンを採点して頂くべきだと思うの」
確かに。マキナの意見には一理ある。でもなぁ。
「お母様は叱られるような事なんてしていないわ。それでももしノアお母様がお怒りになったら私が庇ってあげる♪」
まあそれはありがたいんだけども。でも流石に情けなさすぎるわ。娘の背に隠れるわけにはいかないの。母としては。
「今回は何やらかしたんです?」
呼ぶ前に来ちゃった。誰か呼んだんだろうけど。
「かくかくしかじか」
取り敢えず現状を説明する。気分は容疑者だ。
罪人が罪を白状するように淡々と事実を述べていく。
「そんな怯えないでください。
これはアルカだけのせいではありません」
「信じてたわ! ノアちゃん!」
「嘘よね」
「嘘だね」
『嘘ね』
『うそ』
うっさいやい!
「私も悪かったのです。少しでも目を離してしまいました。
まさかたった数時間で三人も増やすとは」
あれ? やっぱり怒ってる?
それとラフマとタマキはともかく、リジィはまだ誘ってもいないよ?
「ここからは私達も同行します」
「え? 流石に大所帯過ぎない?
このままギヨルド王国潰しに行くの?」
私、ノアちゃん、ニクス、マキナ、側近ズ。
そしてトニア、リジィ。
どう考えてもオーバーキルだ。世界ごと平定できそう。
いっそ世界征服しちゃう?
あかん。あまり妙な事を考えるべきじゃない。ラフマみたいなのがまだ覗いてるかもしれない。良かれと思ってどこぞの世界丸ごとプレゼントされても困るのだ。
フリじゃないからね? 絶対ダメだよ?
「ダメですよ。これ以上罪を重ねないでください」
「ねえ、今日の私まだ何の罪も犯してないと思うんだけど」
「コレットを放って何故こんな所に居るのです?
まだそこは聞いていませんよ?」
「かくかくしかじか」
「ふざけてないでちゃんと説明してください」
ぐすん。
仕方ない。もう一度説明フェイズだ。
「ギルティ」
判決が下った。許されなかった。まあわかってたけど。
今のところ今日の私は何の罪も犯してないけれど、これから悪いことしようとしていたからね。当然だよね。
マティのフリをして潜り込む策戦は干渉が過ぎる。カノン達だって許してはくれないだろう。
「お願いノアちゃん。見逃して」
「アルカの気持ちはわかります。私としても今回ばかりは見逃してあげたいとも思います。ですが、それはそれです」
「はい……」
万事休すか……。
「ノアお母様」
「なんです? マキナ」
「ノアお母様が側で見守っているのはどうかしら? メイドに扮してマティに変装したお母様に付き従うの。そしてそのメイドは世を忍ぶ仮の姿。本当は凄腕の護衛なの。どう? 格好いいとは思わない?」
「……悪くはありません」
やるわね。マキナ。
ノアちゃんの乗せ方をよくわかっていらっしゃる。
「荒事は全てノアお母様の担当よ。それでお母様の干渉も最低限に抑えられるでしょう?」
「そうですね。それなら言い訳も立つでしょうか」
およ? 乗り気になってきた?
ちなみに誰に言い訳するつもり?
セレネもカノンも言い訳ごと叩き伏せてくるわよ?
「最初からノアがマティに変装すればよくない?」
「ニクスは少し黙っていましょうね~」
不機嫌ニクスを抱き寄せ魔法で引き寄せて、後ろから抱きしめるようにして立たせておく。
「私も何かやりたい。アルカの側で」
「えっと……メイドその二でいいかしら?」
「なんでもいい」
あ、はい。じゃあそんな感じで。
「リジィとトニアの事は任せて頂戴♪」
再び白い子猫に変身したマキナがリジィの頭の上に乗り、トニアも連れて飛び上がった。
あれ? ダンジョンの採点は? マキナ忘れてる? それともノアちゃんの気が変わらない内にゴリ押そうとしてる?
「ノアちゃん、ニクス。私達も行きましょうか」
二人と手を繋いでマキナ達の後へと続こうとしたところで、ニクスが制止するように私の手を引いた。
「今日は私がノアの代わりって言ったのに」
「ごめんね。ニクス。後でちゃんと時間取るから。
だからそろそろ機嫌治して。お願い」
「なら今から取ればいいじゃん」
「私も同行します」
「少しくらい譲ってよ。
昨日はノアが一緒にいたんじゃん」
「私もニクスと話したいのです。邪険にしないでください」
「後でね」
「ダメです。きっと今のニクスはアルカの手に余ります。
私はニクスが心配なのです」
「……わかったよ」
話は纏まったようだ。深層に潜るとしよう。




