40-41.話しすぎ注意
ラフマと、少女は名乗った。
「ラフマが全てのダンジョンを生み出しているの?」
「違う。今回だけ使ったの」
「使った? 何を?」
「それは言えない」
ああ。そういう。少し懐かしいわね。この感じ。
でも少しはわかった事もある。恐らくラフマの言っている事に嘘はない。本人はダンジョンと関係の無い存在なのだろう。だから加減を間違えたんだ。今回が特例だから処理落ちなんて事になっていたんだ。
慣れないパソコンに無茶させてフリーズさせた挙げ句、苛ついてチョップしている姿が思い浮かぶ。何となく似合いそうだ。壊したりしていないかしら? いっそ壊しちゃった方が都合が良い? でも無いと無いで困るのよね。きっと。
まあそれはそれとして、ダンジョンの誕生には何かしらの意思が関わっていると明言されたのも地味に収穫だ。そこはニクス達も教えてくれなかった事だし。ラフマの存在がニクス達の口をも軽くするかもしれない。
「ラフマは何時から私を見ていたの?」
「最初から!」
早くも開き直ることにしたようだ。
話しがスムーズに進むからありがたいけども。
でも最初からっていつよ?
「偽神の事はどう考えているの?」
「管轄外!」
なるほど。まあそれは仕方がないか。むしろ好都合だわ。イオスがやる気なのに、横から別の強大な存在に半端な手出しをされても困るからね。
「取り敢えず今聞きたいのはそれくらいね。
イオス、悪いけど連れ帰って見張っておいてくれる?
ついでに好きに教育しちゃって構わないから」
「がってんよ!」
「ひどっ」
ラフマが言いかけたところで二人の姿は掻き消えた。
「本当に良かったの?
もう少し話を聞いておくべきだったんじゃない?」
「何言ってるのよ。ニクス。
今はリジィも居るのよ?」
「今更すぎでしょ……。
もうとっくに放り出せないよ」
「これ以上放置していたら可愛そうじゃない」
「そうでもなさそうだよ?
ほら、あれ見てよ」
イロハ、ハルちゃんと一緒にコアを覗き込むリジィ。
何故かマキナは子猫モードでリジィの頭の上だ。
よっぽど波長が合うらしい。すっかりお気に入りだ。
「皆? そっちはどう? 進んでる?」
「だめそ」
「なんかバグってるわ。
きっとラフマがやらかしたのよ」
うん。それは知ってる。
「直せそうにない?」
「根本解決はこちらからじゃ無理ね。
サーバーの方で再起動してもらわないとだわ」
「そう言えばダンジョンコアは端末に過ぎないって話だったもんね。サーバー側が落ちてるんならクライアント側で弄っても意味は無いわよね」
あれ? でもハッキングとかしてなかった?
その余地も無いほど完全にクラッシュしてる?
「ねえ、これってもしかして他のダンジョンに影響が出てないか見てみた方が良いんじゃない?」
「問題ないわ。ある程度の事は端末側だけで事足りるもの。長期間このままの状態が続くとかで無い限りは大丈夫よ」
フラグかな? それはやめてほしいなぁ。
世界中で一斉にダンジョン大暴走とかやられると洒落にならないよ? 冗談抜きで滅びるよ? 私達がいたって流石に手が足りないだろう。ダンジョンは世界中にごまんと存在しているのだ。
私世界のフィリアスを全開放して、女神組とシーちゃんの力もフル稼働させていいなら対処出来るかもだけど。
どのみちそんな事したら後戻りは出来まい。この世界は大きく変わってしまうだろう。
「もしかしてこのダンジョン自体はどうにか出来るの?」
「ええ。そうよ。出来るわ。コアはコアで再起動すればいいの。それで今止まっている処理は強制的に中断させられる。サーバーには繋げられないから新しい情報を得る事はできないけど、既にコアに保存されている分だけならまた利用出来るわ。最低限、このダンジョンを維持する事は可能な筈よ」
その割には渋い表情だ。
「但しそれをやると、この娘がどうなるかわからないのよ。コアに何処までセーブされているかも読み取れないの。最悪再起動してしまうと、この娘の生成は再開されないかもしれないわ。これはサーバー側が復旧しても同じ話よ」
「どの道賭けならいっそ再起動してから対処方法を考えてみたらどう? 本当にどうしようも無ければコアに取り込んでしまいましょう。幸いまだ魂までは生成されていないようだから」
あ、やば。
「ハルがやる」
「大丈夫よ。別にトラウマがあるってわけじゃないの。
それにあの子達はハルが取り戻してくれたもの」
「ダメ」
「みとめない」
「はいはい。ならその時はハルに任せるわ」
ありがとう。ハルちゃん。助かったわ。
「アルカも気にしすぎよ。
でも、ふふ♪ ありがとう♪」
イロハは相変わらずごきげんだ。
よかった。本当に。次からは気をつけよう。
「先ずは外に出ましょう。
最悪ダンジョンが消滅するかもしれないわ」
そうか。その心配もあったのか。
「もう終わり?」
「ごめんね。リジィ」
「また連れてきてくれる?」
「ええ。良いわ。約束よ」
「うん。約束。えへへ」
可愛い。
「お母様ったら傷心のコレットを放って他の子に鼻の下伸ばしてるわ」
「ドン引きだよね」
「放ってないわ。ちゃんと今も一緒に居るじゃない」
テキパキと仕事を進めるコレットちゃんの背後に控えてるだけだけど。
「分体がでしょ? 手抜きじゃない?」
「そんな事無いわよ。失礼しちゃうわね」
ニクスの機嫌が直らない。
ほんと、どうしちゃったのかしら。
きっと一緒に居てあげるべきだったのよね。ノアちゃんはトニアに取られちゃったし、このまま暫くはニクスについてきてもらうとしよう。
「私はノアの代わりなんだ」
「ノアお母様の代わりが務められるって凄いことよ?
お母様がノアお母様をどれだけ特別に思っているかは知っているでしょう?」
「もう! マキナはどっちの味方なの!?」
「お母様よ。言うまでもない事だわ」
ほんとぉ?
「それはそうと、ニクスお姉様の事も大好きよ♪」
「調子のいいやつ。
困った末っ子だ」
「なんだかややこしいわね。
ニクスの娘であるノルンもマキナからしたら姉なのよね」
「今更そこ気にするの?」
「もう理解りやすく五神姉妹にしたらどう?」
ニクス、ノルン、ミーシャ、へーちゃん、マキナ。
取り敢えずこの順番か。イオスとラフマは親世代かな?
「私は別に良いけどノルンが納得しないでしょ」
それもそうね。ノルンはニクスの娘であることに拘っているし。
「だいたいアルカが言えた事じゃないじゃん。
娘と伴侶兼任してる子何人いるのさ」
さあ? もう数え切れないわ。
「あら。復旧したわ。意外と早かったわね」
どうやら話している間にタイミングを逃したらしい。
「もう再起動の必要は無いわ」
イロハがコアに力を取り込ませると、生成途中で止まっていた少女に魂が入り込んだ。
「……?」
少女は自分を囲う私達を見て首を傾げた。




