40-31.特別待遇
『潰して作り直せ。出来るだろ』
気軽に無茶を言う。
いや出来るけどさ……。
『位置が悪い。農園からはもう少し離してほしい。その村は重要な生産拠点でもあるのだ。町の方も発展させたい。行商ルートと被らず、かつ町と近い位置に少しランクの高いダンジョンを設置してくれ』
なるほど。それで村の方に代官が詰めていたのか。
あの大農園を管理するには必要よね。
いやでも、流石にそれは……。
『お願いよ。アルカ』
カノンまで?
なら良いけどさ。
良いよね? ハルちゃん?
『おけ』
『まかせろ』
『場所はどこでも大丈夫だからそっちで決めてくれる?』
ダンジョンは別に洞窟でなくたっていいわけだし。
『そうか。それは都合が良いな。
計画を練ろう。少しずつランクを上げていく必要もある』
そうね。冒険者達が自然と増えていくように上手くやらないとだものね。今いる人達にも成長のチャンスはあげないとだ。流石にそれ以上は面倒見きれないけど、いきなり切り捨てるのは違うからね。
『けどここだけよ。
帝都中でそんな事しないからね』
ダンジョンの意図的な生成が出来るなんて知れ渡ったら大問題だ。ダンジョンは資源の塊でもある。私達がどれだけ無視しようと、世界中の人々がその知識を求めて接触してくるだろう。
下手をすると幾つもの国々が手を組んで、私やヴァガル帝国に戦争をしかけてくるかもしれない。ダンジョン関連の知識にはそれだけの価値があるのだ。知識の独占を厭う者達は必ず現れる。だからと言って広めて良い知識ではないのだ。過ぎた力はいつか必ず身を滅ぼしてしまうものなのだから。
『うむ。もちろんだ』
『ランク上げはダンジョン側で対応するわ。
置き換えは一度だけよ。設置場所はよく考えて提案して』
『そのような事まで出来るのか』
『ダンジョン内に関する注文は受け付けないわ。内容はこちらに任せてもらうわよ』
『仕方ない。今はそれで我慢しよう』
『「今は」じゃないからね。ずっとだからね』
『うむ。承知しているとも』
絶対後でまた注文付けてくるつもりね。
私を籠絡すればどうとでもなると思ってるのかしら?
「ティアちゃん。そういう事だから」
「マティさんはどうします?」
「え? ウチ?」
聞こえてたか。耳良いわね。いやまあ、ここ洞窟の中だもんね。少し小声にした程度じゃダメか。念話で話せばよかったか。
マティにダンジョンコアを回収する所を見せるかどうかよね。私だけ先にマティとコレットちゃんと戻っておいても良いんだけど。
現地でギルドから派遣された応援の冒険者とバッタリ会ったから邪魔をしないよう引き返してきたって言えば、代官さんも一応納得するだろうし。
『コレットちゃんはマティを連れ帰りたいんだって』
『「だって」じゃありませんよ。
アルカはどうするつもりでいるんです?』
『本人とご両親次第?』
『いい加減にしてください。
トニアさんの件もまだなのに』
『ノアちゃんがそれ言うの?』
『それはそれです』
なんて虫の良い。
まあ、ノアちゃんとコレットちゃんでは立場も違うし、トニアには明確な強みもあるからね。ノアちゃんがこう言うのも別におかしくはないんだけども。
『ノア姉様』
『ダメですよ。コレット。
順番は守ってください』
ルイザを連れてきたアリアと違って、コレットちゃんはまだ私の伴侶ですらないものね。うちの勧誘条件は緩いようで案外厳しいのだ。
そうだね。説得力ないね。
『時間がありません。
マティもそろそろ婚約者くらい出来る年頃です。
今回がきっと最後のチャンスなんです』
『それはそれで良いではありませんか。
この地の代官にだって後継者は必要です』
『兄弟姉妹は大勢います。
マティが継ぐ必要はありません』
『そうなの?』
『なんでアルカが確認してないんですか。まったく』
ごめんて。
『マティは八人兄妹の真ん中です』
思ったより多かった。
田舎に常駐する貴族ってそんなものなのかしら?
『ならば一旦帝都に連れていきましょう。
コレットの部下として取り立てるのです。
家族に迎える前に段階を踏んでください』
『ありがとうございます! ノア姉様!』
話は纏まったようだ。
『そういう事なら私達は引き上げるわ。
まだ暫く余計なものは見せないようにしておきましょう』
『ええ。お願いします』
先に代官さんの所に戻って話をつけておこう。ダンジョンに関する詳しい報告はギルドからしてもらうか。
その前にギルドにも皇帝から話を通しておかなきゃだ。
ダンジョン消滅の許可が事前に出てないと、ノアちゃん、もとい、ティアちゃんが罪に問われかねない。
まあ、その辺りの事はフロルが既に手配してくれているだろう。順序は前後しちゃうけど、そこら辺は権力でゴリ押してもらおう。これから起こる新ダンジョン発見のゴタゴタで有耶無耶に出来るだろうし。
「マティ。後は二人に任せて帰りましょう。
二人は正式にギルドから派遣されてきた子達だから。
ダンジョンの事はギルドの冒険者に任せましょう」
「えっ!」
あれ? ショックを受けてる?
ティアちゃんに熱い視線を送ってる?
完全にホの字なの?
「ごめんね、マティ。
実はティアちゃんって女の子なの」
「えぇっ!?」
本当に勘違いしてたの?
私ずっとちゃん付けで呼んでたんだけど。
それに声だって完全に女の子だし。
恋は盲目ってやつかな?
でもまあ、スマートだからね。ティアちゃんは。
どこがとは言わないけども。
そう言えばコレットちゃんは何時の間にか気付いてたわね。ティアちゃんの正体。
念話が聞こえたからかな? 共有回線で話してたもんね。その前に普通に声で気付いていたのかもだけど。
「トニアもごめんね」
「ううん。任せておいて。
力を見せるのはまたの機会に取っておくよ」
このダンジョンじゃ全力も出せないものね。
折角なら武闘大会に出てもらおうかしら♪
ティアちゃんとトニアを置いて、コレットちゃんとマティの手を引いて引き返す。
今回は転移も見せないでおこう。まだマティの未来が確定したわけでもないんだし。いや、ハルちゃんに聞けば知ってるかもだけど。そういう意味では確定してるのかもだけど。
それはともかくだ。まだマティが帝都についてくると決まったわけでもないからね。コレットちゃんはその気になっているけど、マティはこの村や土いじりの事も好きみたいだから、普通に断られるかもだし。
このまま歩いて村に戻るとしましょう。コレットちゃんからマティに帝都勤務を打診するための時間に当ててしまいましょう。
「楽しそうね。お母様」
突然、ゾクっと背筋に冷たい何かが這い上がった。
いつの間にか私の首に絡みつくようにして現れたマキナが、私の耳元で責めるように囁いたのだ。
「あら、マキナ。ご機嫌麗しゅう」
「そう聞こえたのかしら?
両手に花で頭までお花畑になってしまったのね」
「ごめんなさい」
「それは何に対する謝罪かしら?」
「……城に置いていった事」
「あら♪ ふふ♪ 正解よ。お母様。よく気付けたわね♪ コレットに夢中で私を置いていってしまうんですもの。私は悲しくて悲しくて。だから気付くまで待っていようと思ったのよ。本当はね」
あまりにも腹が立ってつい出てきてしまったと……。
「ごめんなさい。気付かなくて……」
「そうよねぇ~。気付いてなかったのよねぇ~。
これってあんまりよねぇ~」
「はい……」
全ては私にも気付けない気配遮断能力が……いえ、なんでもありません。
「もっと私を見て。お母様。
私はお母様の為に全てを捧げてきた。
だから次はお母様の番だと思うの」
「そう、ね……」
「本当は全てを捧げて欲しい。けどそこまでは言わない。お母様を追い詰めるのは本意じゃないもの。だからせめて忘れないで。何時でも私の事を頭の隅っこに浮かべていて。それで許してあげる。出来るわね? お・か・あ・さ・ま?」
「はい。必ず」
「約束よ♪ 次は許さないからね♪」
「はい」
どうしてこうなった……。
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