40-28.見た目は子供、頭脳は大人
「騙された! 全然軽くないじゃん!」
「ボヤいてないで次行きますよ。
さあ今度は南西方向に飛んでください。
大農園が目印です。風車小屋もありますよ。
わかりやすくて良いですね」
コレットちゃんが何か違う!?
私の知ってるコレットちゃんじゃない!?
誰この有能秘書ちゃんは!?
「ほら、早くしてください。
今日で全て終わらせますよ」
「コレットちゃんってお仕事してる時は別人みたいね」
「姉様に叱られてしまいますから」
なるほど。調教済みだったか。
「良いのかなぁ。私がこんなに手を出しちゃって」
「何様のつもりですか?
やってる事は所詮使いっ走りですよ?
下らないこと言ってないで飛んでください」
両手を伸ばして抱っこをせがむ幼女スタイルで偉そうな事を言うコレットちゃん。
私はコレットちゃんを抱き上げて、再び空へと舞い上がった。いったいこれで何度目だろうか。こうして空を駆け、要請のあった場所に降り立ち、コレットちゃんが各地の代表者と話をして、私が悩みの元凶を解決するのは。
完全に使いっ走りのお使いだ。各地のお悩み相談というか、皇帝宛に届けられた援助要請に従って各地の問題を解決して回るのだ。内容も様々だ。魔物や盗賊を退治したり、橋等の設備修繕をしたり、土砂崩れで潰れた道を開通させたり。
「あとどれくらいあるの?
本当に今日中に終わるの?」
今日は早く帰らなきゃいけないんだけど。
それに始めたのも昼過ぎだから流石に時間足りないと思う。
「ご安心を。今日は皇帝陛下の直轄領だけですから。
残りの数は気にせず全力でやってください。
ああ、それと。明日も付き合ってくださると嬉しいです」
やっぱ終わんないんじゃん……。
しかも今日の分は直轄領だけって事は、各地の諸侯も何か他にお願いしてきてるって事だよね? そっちは今日やってるのとは比べ物にならない程大きな問題だよね?
当然、直轄領以外の民が直接皇帝に頼んでくる事はあり得ない。頭越しになっちゃうからね。よっぽど圧政で苦しんでるとかでない限りそんな事はしないだろう。自国の王様とかの顔に泥を塗るような行為だし。
つまり、王国やら公国やらの規模で解決出来ない問題だけが帝国側に上ってくるわけだ。
それらは大国ムスペルと比べれば極小の国家に過ぎないとは言え、仮にも一国家の体裁を保つ存在だ。問題も相応に大きなものとなるだろう。小一時間で解決とはいかない筈だ。
「明日もデートしましょうね♪」
「喜んで♪ はっ!?」
「約束ですよ。撤回は許しません」
「くっ!」
コレットちゃんやりおる!!
『小春先輩が迂闊なだけですよね?』
『言わないであげなさい。アルカだってわかっているわ』
そうだね!
ちくせう……。
「もちろん私としては手伝いたいんだけど、ノアちゃん達が何て言うかなぁ……」
「知りません。自分でどうにかして下さい」
くっ! 真面目モードのコレットちゃん手強い!
『完全に手玉に取られてるわね』
『無理もありません。所詮は小春先輩ですから』
うるさいやい!
「見えてきました。あれです」
大農園を見つけた私達は、そこからほど近いお屋敷に降り立った。どうやらこの地の代官が住んでいるようだ。住居兼、地方自治体のお役所みたいなものなのだろう。それなりに立派な佇まいだ。
「皇女様!?」
コレットちゃんが話しかけると、応対してくれたお屋敷の侍女が飛び上がって驚き、そのまま代官を呼びに行ってくれた。これも既に何度目かの光景だ。今回は反応が早かったけど。と言うか顔見た瞬間に驚いていた気がする。
次はどうなるかな? 大体二パターンあるのよね。諸々信じられず肩を怒らせて現れた代官が、コレットちゃんにわからされて縮こまるか、最初から素直に受け入れてくれるか。
今のところ後者は二割くらいだ。無理もない。馬車も何もないのに皇女様が従者と二人だけで現れるなど聞いたこともないだろうし。私は従者じゃないけど。
「皇女殿下! お久しぶりでございます!」
あら? まさかの知り合い?
これは初めてのパターンだ。まさかコレットちゃんの事まで知っているとは。
「その節は世話になりました」
「身に余る光栄でございます」
何があったの?
「マティルダは壮健ですか?」
誰?
「ええ。お陰様で。今も村の者達と土いじりに精を出しております」
「ならばこちらから出向きましょう。丁度良かったです。
村の皆からも話を聞きたかったので」
「まさかあの件を?
コレット様が調査なされるのですか?」
「ふふ。まさか。
専門の者にお任せします」
「専門? そちらの方が?」
私に視線を向けて戸惑う代官さん。
無理もない。今日は帝都デートのつもりで来たからね。
冒険者らしい格好ですらない。完全によそ行きの私服姿だ。
「こう見えてSランク冒険者なんです」
「なるほど……どうりで」
まあ皇女様が連れ歩いてるくらいだからね。皇女本人の身分がハッキリしているなら、力の証明はそれで十分だろう。
「それではご案内致しましょう」
フットワークが軽くて何よりだ。
言っちゃあなんだけど、小さな田舎の代官を任されている割には、皇女であるコレットちゃんに純粋な敬意を表しているのが珍しい気がする。取り敢えず閑職に追いやられてここに来たとかではないようだ。
多分立ち居振る舞いを見る限り貴族ではあると思うのだけど。代々この地を守ってきたとかかな? そうなると増々コレットちゃんとの接点がわからない。てっきり帝都にいた人なのかと思ったけど。
「必要ありません。
私にとってもここは勝手知ったる土地ですから。
マティルダがどこに居るかは想像がつきます」
「畏まりました」
笑顔で見送る代官さん。
コレットちゃんは迷いなく歩き出した。
そうかコレットちゃんはこの地に来た事があったのか。
あれかな? 政変の時にフロルが疎開させたのかな?
「なんで教えてくれなかったの?」
「主様が驚く所を見たかったのです♪」
ようやく何時もの笑顔を見せてくれたコレットちゃん。
なんだか足元もウキウキだ。よっぽどマティルダさん? との再会が待ち遠しかったようだ。
「やたらと急かしてたのもこの為?」
「はい♪ 今日はここで最後です♪」
コレットちゃん。やりおる。
「もうお仕事モードは良いの?」
「私は良いんです。主様はダメです。
もう少しだけ頑張ってください。応援してあげます」
「なら頑張るわ。コレットちゃんが心置きなく遊べるように」
「あ、もう一つお仕事ありました」
「そもそもここでする事すら聞いてないんだけど。
もう一つって?」
「マティも口説いて下さい。持ち帰りますよ♪」
「そんな気軽に……。ピザじゃないんだから……」
「ピザ? 何故ピザ?」
コレットちゃんはノアちゃんと違って、まだ向こうの文化には染まっていないようだ。
「そんな事したら私が怒られちゃうってばぁ」
「一人も二人も変わらなくありません?」
鋭い。コレットちゃん鋭い。
「コレットちゃんが自分で口説いたら?」
「私は姉様一筋です。
マティはただの幼馴染ですから」
「え? 私は?」
「恋敵では?」
「共有しない?」
「片腕だけ差し上げましょう」
「すぷらったぁー!?」
「冗談です。主様の事も好きですよ。
姉様との橋渡しをしてくださるのですから」
「え!? そんな事考えてたの!?」
「私が姉様を振り向かせるには主様の存在が不可欠です。ですからお慕いしておりますよ♪ 主様♪」
めっちゃ打算的じゃん!
『驚いたわ。あんな無邪気な笑顔で近付いておいて、まさか中身はこんな真っ黒だったなんて』
『ちがう』
『かわった』
『いちねんで』
『子供の成長は早いものですね』
『濃い一年でしたからね。
と言うかマスター以外も数年単位で過ごしていますし』
『とっくに~せいじん~』
そうか……。皆も四日に一度は数日から一週間くらい追加で経験してるんだった……。精神年齢だけならコレットちゃんも成人済みなのか……。
くっ! それもこれも私のせいか!
恋する少女を大人にしてしまったのか!
『責任取って幸せにしてあげなさいな』
望む所よ! フロルより好きだと言わせてみせるわ!
『無謀では?』
『無謀ね』
『無謀です』
『むぼ~』
『ふかのう』
なんでさ!?




