40-23.ライバル出現?
「帝都の案内?
勿論良いよ♪ まっかせて♪」
二つ返事で引き受けてくれたトニアに導かれ、私、ノアちゃん、マキナの三人は帝都観光へと洒落込んだ。
「やっぱ観光といえば料理よね♪
この辺りでは肉料理が特に美味しいの♪
ノアちゃんもきっと気に入ると思うわ♪」
ウッキウキだぁ。
「はい! お肉大好きです♪」
こっちもだぁ。
なんか手まで繋いじゃってるし。
すっかりトニアお姉さんに懐いたようだ。
ぐぬぬ……。
「お母様は他の誰かに気を向けてばかりだわ。
今は私に集中してくださらないかしら?」
「ごめん、マキナ……」
「もう。仕方のないお母様ね。
でもそうよね。お母様はノアお母様が大好きですものね。
気も漫ろになるのは無理もない事よね」
「あぅ……」
ほんとごめん。マキナ。
「「アルカ~!」」
そんな話をしている内に少しだけ前の二人と距離ができていたようだ。まだ大して離れてもいないのにノアちゃんとトニアが仲良く手を振っている。浮かれ過ぎじゃないかしら。
「ダメよ。ノアちゃん。
あまり私の名前を大声で呼んだりしたら。
またギルドに目をつけられてしまうわ」
「あ。そうでした。すみません。失念していました」
まあ今更過ぎるけど。
「あっちゃぁ~! 忘れてたぁ!
もう! 私ったら浮かれすぎよ!
皆ちょっと待ってて!」
トニアはそう言い置いて、止める間もなくどこかへと駆け出してしまった。
「ノアちゃん」
「追います」
「必要ないわ。お母様」
マキナがどこからともなく取り出したタブレットにトニアの様子が映し出された。
「いつの間に。流石ね。マキナ」
「ふふ♪」
「少し脇に寄りましょう。ここでは目立ちすぎます」
「抜かりありませんわ。ノアお母様」
あれ? 本当だ。
誰も私達に目もくれない。
「まさか認識阻害ですか?」
「ええ。その通り」
「それもナノマシン由来?」
「いいえ。神としての力よ」
そういえば前にニクスも似たような事をしてたかも。
「やりますね。マキナ」
「ふふ♪ ありがとう♪ ノアお母様♪」
マキナもうっきうき。
「ギルドですか?」
「そうみたいね。
なんかギルド長呼び出してる?」
「直談判でしょうか」
トニアはここの支部のギルド長に二、三何かを伝えてすぐにギルドを飛び出してきた。
「お待たせ!」
全然待ってないよ。いや、本当に。
「おかえり。何してたの?」
「ちょっとね♪
安心して! この帝都にいる限りアルカの話しがギルド本部に伝わる事は無いわ!」
「え? 本当に何したの?」
「う~ん♪ な~いしょ♪」
いや実は知ってるんだけども。とは言え覗きどころか盗み聞きまでしていたとも言えないし。
そもそも全て聞いていたのに意味がわからないのだ。たぶん暗号なんだと思う。内容自体は他愛のない世間話のようなものだったのだ。
もしかしてトニアってギルドの暗部と関わってる?
まさか私の事を知るためにそこまで?
だとするならここまで全て本当の事を喋っているのかは疑わしいものだ。なんなら、実は私に好意があるのも嘘かもしれない。
『『『『『それはない』』』』』
満場一致だぁ。
『どう見ても好意故の事です』
『アルカの為に属していたと考えるのが妥当ね。と言うか今も属しているんじゃないかしら。ギルドが最も情報の扱いに精通した組織だもの。そこに加わって情報を抜くなり、改ざんするなり出来るなら、トニアにとってこれ程都合の良いことも無かったはずよ』
ギルドも協力的なSランク冒険者とか、きっと喜んで抱え込むわよね。あり得ない話でもないようね。
ただそれはそれとして私の情報を握り潰せる理由がわからない。立場的には真っ先に報告をあげるべきなのだろう。けれど逆にギルド長に圧力をかけたのだ。実は暗部のトップだったりするのだろうか。
『それは計算が合いませんよ。
トニアがSランクとなったのはここ数年の筈ですし』
それもそうか。
『流石にこれ以上を読み取るのは無理ね。
記憶を抜き出してみたらどうかしら?』
許可するわ。敵なら招くわけにはいかないもの。
『いらない』
ハルちゃん? それは未来知識?
『そう』
『トニアみかた』
『かぞくなる』
何で今度は話す事にしたの?
『えるものない』
『めんどうなだけ』
『はらのさぐりあい』
『かいひした』
どゆこと?
『私が記憶を覗くことで面倒なだけの騒動に発展すると?』
『そう』
『しんじる』
『さいしょから』
『それですむ』
『はず』
何でトニアの事はそんなに詳しいの?
未来ハルちゃんの情報って断片的なものだったはずでしょ?
『のーこめんと』
トニアってそんなに重要な存在なのかしら。
『今のところは重要と言うより都合が良い存在でしょうか』
『のーこめ』
これ以上のネタバレは無いらしい。
まあ良いけどさ。流石に今のトニアの行動にはノアちゃんも若干の警戒心を取り戻したし。またすぐ溶けそうだけど。
「さあ! 皆の衆!
極上お肉が待ってるわよ! 行こ行こ!」
今度はノアちゃんだけでなく私の手も引いて、トニアがグイグイと進み始めた。
ノアちゃん、トニア、私、マキナの順で手を繋いで、傍目には仲良く大通りを抜けていく。
なんだか久しぶりだ。こんなに堂々と人混みの中をかき分けていくなんて。少々お行儀は悪いけど今日ばかりは楽しんでしまおうかしら。折角大手を振って出歩けるのだし。
こういう事を言うのはあれだけど、トニアは本当に都合の良い存在だ。もしかしたらトニアがこうなったキッカケには偽神かレリアが関わっているのかもしれない。そう考えると私は責任を取るべきなのかも。まあ、この考え方自体もトニアに対して失礼なものだし口にはしないけど。
そもそも出歩くだけならマキナの力に頼っても良いのだ。神の力なら私の引き寄せ体質も封じられるかもしれないし。
なんだか今日の私、考えすぎじゃないかしら?
自分で言うのもあれだけど、本当にらしくない。
そろそろ調子を取り戻さなくちゃ。せめて主導権を握れるように。
きっとトニアは好きにさせて良いタイプじゃない。このままではトニアのペースに乗せられるだけだ。気付いた時には心の奥深くにまで潜り込んでいるのだろう。きっとトニアはそういうのが上手いのだ。何となくだけどそう思う。
よし。気合を入れるとしよう。ノアちゃんをこのまま取られっぱなしなのも癪だからね。そしてある意味これは、私の専売特許でもあるのだ。力と経験の差を見せつけてあげるとしよう。具体的にはトニアも口説き落としてみよう。それこそ私らしい行動だ。きっと。たぶん。間違いない。
やれるさ。私なら。間違いない。




