40-5.ルール決め
「許可するわ」
「え? 本気?」
「必要なんでしょ。
千人も神様連れてこられるよりはマシよ。
そもそも一人も四人も変わらないわ」
それはそう。
「イオス。アルカを人のままでいさせる事に全力を尽くしなさい。その約束を守るなら私達も出来る事は何でもするわ」
「約束するわ!」
あっさりだ。
今日のイオスは素直モードらしい。
もうずっとこの調子でいてくれると嬉しいのだけど。
「という事なんだけど。
カノンとセフィ姉はどう思う?」
「「……任せる」」
渋々だけど飲み込んでくれたようだ。
「お母様。提案があるの」
「どうぞ、マキナ。何でも言ってみて」
「私に力を頂戴。私が原初神へと至るわ。
お母様の代わりに私が全てを受け止めてみせるから」
え?
「身の程を弁えなさい!」
ダメっぽい。
でもなぁ。
そんな顔でお願いされたらなぁ。
なんとかならないかしら?
「ちなみに残り三人分をマキナに上乗せするのは?」
「……難しいわね。
ニクス達の負担を増やせばギリギリって所かしら」
「ニクス」
「良いよ。勿論」
ノルン、ミーシャ、へーちゃんも頷いてくれた。
末っ子女神の決意を汲んでくれるようだ。
「イオス。具体的にどうしたら良いの?」
「私が手を加えるわ」
「わかった。ならお願い。
ご褒美の分使っちゃって良いから」
「心得たわ!」
「ありがとう。お母様」
「こちらこそ。
頑張ってね。マキナ」
真っ青な顔のマキナを抱きしめる。
どうしてこの娘は勇気を振り絞ってくれたのだろう。
きっと既に散々苦しい思いをしているはずなのに。
帰ってくるなり泣き出してしまうくらいだったのに。
まだ生まれたばかりなのに。
「マキナ。私に同化してみて」
「うん。お母様」
マキナの体が私の中へと消えていく。
よかった。私ならまだ同化も出来るようだ。
リヴィが無理だって聞いてたから少し不安だったけど。
これで少しは安心出来るだろうか。
『ええ。心地良いわ。お母様』
それはなにより。
「という事で追加は無しよ。
マキナに頑張ってもらうわ」
「本当に大丈夫なの?」
カノンが不安気だ。
「うん。私はマキナを信じる。
だから何も言わない事にしたの」
私の不安もきっとマキナに伝わってしまっていることだろう。同化してしまえば私の思考も覗けてしまうのだから。けど同時に、マキナを信じている気持ちも伝わるはずだ。だから何も言うまい。
「ダメそうなら無理せず何時でもギブアップなさい。その時はもう一人用意するわ。その娘とマキナで分担すれば随分とマシになるでしょ」
セレネがこの場を纏めるように最後にそう言った。
これでこの話はお終いだと。次の話に移ろうと、更に言葉を続けていった。
「ヴァガルの件もまた後よ。
先ずはここでの生活についてルールを決めましょう」
どうやらこのままセレネが仕切ってくれるようだ。
「これから約一年間。皆で強くなるために頑張りましょう。
基本的にアルカ以外との同化は無しよ。フィリアス達も今一度自身の鍛錬に励みなさい」
私だけ事情が特殊だものね。
私の目指すべきは、女神達が集めてくれた力を受け入れられるようになる事だ。私まで同化を禁じちゃったら私の鍛錬にならないものね。
「私達は八十二人いるの。内アルカの伴侶は四十人よ。
つまり何が言いたいかというとね。順番を決めましょう。
全員が平等にアルカと接する機会を得られるように。
日替わりで接する相手を決めましょう。日中は伴侶以外。
夜は伴侶と。そういうルールを決めましょう」
なるほど。確かにそれも大切だ。私の好きに動くと偏りが出るだろうし。ずっと一緒にいるつもりでいたノアちゃんが若干難しい顔をしているけど、取り敢えず口を挟むつもりは無いようだ。
「半日ずつでは足りないのではないかしら?
アイリスも使ってはどう?」
カノンの言う事にも一理ある。
「アルカだけ最低十五年近くもかかる事になるわよ」
午前と午後で一回ずつ使えばそうなるかもね。
一日が二十二時間プラス十四日になるからね。
「いっそアイリス前提にしてみてはどうかしら。
ここの時間で四十一日で終わりにすれば良いじゃない?」
「ごめんね。カノン。それでは到底足りないの。アイリスは経験を積めても体が鍛えられるわけじゃないから。ある程度はこちらでの時間も必要よ」
前回のツムギの時と同じ話だ。
アイリスと深層での鍛錬を交互に行ったのはその為だ。
「期間は半年にしましょう。
代わりにアイリスを多用する事にしましょう」
それだとギリギリかなぁ。
取り合えずはフロルに力を付けさせるのが最優先だ。
確かツムギの時はもう少し時間かかってたのよね。
前回のノウハウもあるから今回は少し短く出来るかな?
「取り敢えず二人一組にしてはどう?
その上で午前午後に分けるの。
一日四人。二十日と半日で一巡。
ああ。でもこれは少し寂しいわね。
二十日も完全に遠慮するのは無理よ。
我慢できなくなってしまうわ」
セレネはもう鍛錬の事とかどうでもよさそう。
如何に私との時間を確保するかにご執心のようだ。
「アイリスの期間を縮めれば良いんじゃない?
一利用三日まで。それで一日四組、八人と入るの。
約十日に一度は順番が来るわ」
カノン賢い。
それなら一日当たりの時間も十四日から十二日に減るね。
「もう一声」
セレネがこういう時にごねるのも珍しい。
「なら一利用一日まで。一日十組。二十人と。
それでざっくり四日に一度は自分の番が来るわ」
「短すぎよ。せめて一度につき二日は欲しいわ」
ごねるごねる。
「そこは上手く調整しなさい。基本ルールがこれってだけで誰が見張るってわけでもないんだから。まあ、あんまり調子に乗りすぎれば止めざるを得ないでしょうけど」
最初から抜け道を許容するなんてカノンにしては珍しい。
まあ今回ばかりは、最初から徹底出来るとは思っていないのだろう。
「それでいきましょう」
セレネがご満悦だ。
普通に七日フルで要求してきそうだ。
まあ良いけど。最近セレネ放置気味だったし。
久しぶりにたっぷり可愛がってあげるとしよう。うんうん。




