8-5.安全な生活
「結局何もしてない!」
エルフの国に来てから一月近くが経過した。
その間していた事はお喋りと森の散策だけだ。
ノアちゃん!
止めてくれるんじゃなかったの!
最近私よりダラダラしてるよね!
「良いんですよ~
何から何までアルカが頑張る必要は無いんで~す。
たまには他の人達に頑張ってもらいましょ~」
ノアちゃん?
言っている事は正論だけど、
そんな気の抜けた口調だと台無しだよ?
「ノアの言う通りじゃ。アルカは気にしすぎる。
たまたま通りかかった時に助けてやるくらいで丁度良いんじゃ」
ルネルからも同じような事を言われる。
別に私だってこの世界の守護者を気取るつもりはない。
あんな女神の駒になるなんてごめんだ。
けれど、何かあった時に間に合わない事だけは絶対に嫌だ。
「もういっそセレネも誘拐してきたらどうですか?
それで三人でこの国に住むんです。
ここなら敵が攻めてくる心配もありません。
セレネの頑張りを無駄にするのは心苦しいですが、
きっと時間をかければ許してくれますよ」
「ノアちゃん。気持ちはわかるけど、
それはあんまりじゃないかな?
セレネがどんな思いで頑張っているのかは知っているでしょ」
「だからこそですよ。
私もセレネもアルカの事が何より大切なんです。
目的と手段を履き違えてはいけません。
アルカが幸せになれる手段を
アルカが心の底から望むならセレネだって否とは言いません」
「アルカがこの国に住むならば
我々も全力で庇護してやろう。
安心しろ、人間の国がいくつか束になったところで、
この国には手も足もだせんよ」
ルネルの言う通りだろう。
エルフたちは人間基準なら誰でも大魔法使いだ。
先日の大きな町を囲う程の魔物の群れだって難なく倒しきって見せるだろう。
私もルネルには未だに勝てる気がしないくらいだ。
もしかしたらルネルなら魔王やクレアとだっていい勝負をするかもしれない。
まあ、そんな理由じゃ協力してくれなかっただろうから考えても意味はないが。
ルネルは自分から力を振るうことを望まない。
魔法の研究や模擬戦は好きなのに、
それを本気の戦いに用いるには自分なりの理由を必要とする。
それが無ければ私の頼みだろうと力を貸してはくれない。
そんなルネルですら私を守ってくれると言う。
「転移もあるんですし、
何時だって町にも行けます。
会いたい人にも会いに行けます。
この国の人達も皆私達に優しくしてくれます。
もうアルカ一人が頑張る必要は無いんです。
なんだったら、アルカがいなければ、
もう大きな騒ぎは起きないかもしれないですよ?」
ノアちゃんはわざと思ってもいない事を言ってくれているのだろう。
セレネは決めたことを曲げたりしない。
無理やり連れてきたら
いつかは諦めるかもしれないけど、
それは心の底から納得してではなく仕方がなくだ。
セレネの心に反する事を私はしたくない。
ダンジョン関連の事件は確かに私に対する恨みが発端だった。
けれど私がいなくたって魔王は復活していた。
ノアちゃんだってそれはわかっている。
それでも私の罪悪感を刺激するように言うのだろう。
自分が悪役になってでも私に幸せになって欲しいのだろう。
「ノアちゃん。ありがとう。
けれど、私はやっぱりじっとしてはいられないと思うの」
「・・・わかってました。
アルカのせいで騒ぎが起こるなんて
酷いこと言ってすみません」
私はノアちゃんを抱きしめる。
「謝らないで。
ノアちゃんが私の為に言ってるのはわかってるから。
私こそそんな事言わせてごめんね。
我儘ばかりでごめんね」
「大丈夫です。
アルカがどんな道を選んだって、
私は最後まで一緒にいますから」
「ありがとう」
「仕方がないのう。
そんなやり取りを見せられたら何時までも渋ってはいられんじゃろうが」
ルネルはそう言うと立ち上がる。
「行くぞ。
魔法を教えて欲しいんじゃったな。
ついでにどれくらい強くなったか見てやる。
ノアとまとめてかかってこい」
「二対一で?」
「ノアちゃん。
そんな事を気にする必要は無いわ。
ルネルは馬鹿みたいに強いんだから」
私達はルネルに連れられて、
家を出て広場に移動する。