39-24.独壇場
「だからそれは話せないんだってば!」
「良いではないか! そうケチケチするでない!」
「そうですよ、アルカさん。
それともやはり私のことは信用できませんか?
私個人を疎んじているが為に口を閉ざすのですか?」
「ちょっと! そんな言い方しないでよ!
意地が悪いわよ! お義母様!」
「意地が悪いのはアルカさんの方です。
先程からあれはダメ、これはダメと。
実は歩み寄る気など無いのでは?」
「話せない事ばかり聞いてくるのはそっちでしょ!
ダンジョンコアの事は何聞かれても答えられないの!
というか何でピンポイントにそこ聞いてくるのよ!」
「ああ、えっと、ごめん小春。それ私のせいなの。
昨晩フィリアスの事ちょっと話しちゃって……」
「ダメよ! ツムギ!
ダンジョンコアの奪取って一般的には犯罪だからね!
個人所有なんて論外よ!」
「おや? ベアトリスから聞いた話ではダンジョンボスを保護しているだけだという話でしたが? あくまでコアの所有者はボス本人であると。そう聞いていたのですが? アルカさん貴方まさか?」
「言葉の綾よ! その認識で合ってるわ! お義母様!
ただ端から見たらどっちも変わらないと思っただけよ!」
「そうですか。まあそういう事にしておきましょう。どのみち貴方がたを取り締まれる者など、この世界のどこにも存在しないのでしょうから」
とは言え酷い詭弁だ。
そもそも先ずダンジョンボスの保護ってなんだよ。
普通の人はそう思うはずだ。
ダンジョンボスを退けたってコアが新しいダンジョンボスを生み出しちゃうだけだからね。コアの制御を奪うのは必要な事なのだ。フィリアス級の吸血鬼たちなんてこの世界の人間にはどうにも出来ないし、何れはコアを支配してダンジョンの外に出てしまう可能性も高いのだ。だから私達のこの活動は止めるわけにはいかないのだ。
コアを壊すも奪うも結局同じ事だから、私としてはフィリアスは問答無用で確保する方針を取っているだけなのだ。だからコアも奪う事にしているのだ。それだけなのだ。
だからって私がコアの占有を続けるのは、一般人代表のつもりで話しているお義母様には見過ごせないのだろう。
「ですが、コアの制御技術についてはやはり提供していただきたいものですね。ダンジョンは資源の塊です。上手く使えば世界はより豊かなものとなるでしょう」
「ダメだってば。そもそもコアの制御技術を持っているのは元ダンジョンボスのフィリアス達だけよ。私が知っているわけではないわ」
エリスは以前アイリスで学習してたけど。私もあれで学べば身につけられるかもだけど。当然そこも教えるつもりはない。というかアイリスの存在自体他言無用だ。あれは高度過ぎるからね。まだニクス世界には早すぎる代物なのだ。
「ならばフィリアスの提供を。
一人で構いません。我が国にも派遣してください」
「嫌よ! フィリアスは私の娘なの!
誰一人だって外にはやらないわ!」
「アルカさんがそれを言うのですか?
いったい我が国から何人攫ったと思っているのですか?」
「攫ってないし! 口説いただけだし!」
「同じ話でしょう。堂々と城に出入りした挙げ句、気に入った若い娘ばかりを拐かしていくなど、まるでお伽噺の悪魔の所業ではないですか。国にとって姫という存在がどれ程大切なのか理解していないのですか? そこまで育て上げるのにどれだけの者達が時間と労力を費やしたとお考えですか? その補填と思えば一人くらい提供出来るのではないですか?」
くっ! 一々正論を!
『全部王妃の言う通りね。良いじゃない。むしろだれか送り込んでムスペルも裏から支配しちゃいなさいよ』
イロハが行ってくれるならね!
『良いわよ別に。分体送るだけだし』
ダメだってば!
『どっちなのよ』
「とにかくダメなものはダメなの! フィリアスもまだこの世界には早すぎるの! 欲しいなら私より早くダンジョンから連れ出してみせれば良いでしょ!」
「ならば捕獲協力をお願いできますか?
国内に件のダンジョンが生まれた場合のみで構いません」
「それもダメ!
自分達の力で制御出来ない存在なら手を出さないで!」
「ならばせめて我が国の中では見逃してください。
我々に挑戦する権利を残しておいてください。
ですが、もし暴走が起きた場合には対処をお願いします」
「都合良すぎるでしょ!
お義母様は私をなんだと思ってるの!?」
「義母の頼みが聞けませんか?」
「意地悪! こんな時だけ!」
「あら?
アルカさんは私からの歩み寄りを無碍にするのですか?」
「くっ!」
なんて卑劣な!
性格悪いわね! お義母様!
『そもそも今までがおかしかっただけよ。
この王妃、元々外交のプロだからね。
そりゃあアルカなんて手球に取られて当然よね』
そうだった! すっかり忘れてたぁ!!
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はぁ……。
あれこれ喋りすぎちゃったなぁ……。
ちくせう。
「お疲れ様です。アルカ」
ノアちゃんがよく冷えた麦茶を出してくれた。
「ありがとう、ノアちゃん。
なんとか終わったわね」
「無事とは言い難いですがね」
「やっぱり……ノアちゃんもそう思うわよね……」
「調子を取り戻した王妃様は強敵でしたね」
ちくせう。
「まあでもこれで少しは溜飲も下がったんじゃないかしら」
「でしょうね」
今回は完敗だった。メッタメタだった。
お義母様の独壇場だった。終始手のひらの上だった。
武術はともかく、弁論は私も普通の人間と変わりないし。なんなら少し劣るくらいだし。二つとも最高水準のお義母様って酷いチートよね。私が言えた事じゃないけど。
でもやっぱりニクス世界は逞しい人達ばかりだ。特定の分野毎に限るならそれぞれ私を超える人達がいるくらいなんだもの。武術ならルネル、発想力や技術力ならグリア。二人が私のお嫁さんに加わってくれて何よりだ。ムスペルと手を組まれたらワンチャン負けるかもしれない。
『ばれた』
突然なんぞや?
『コレット』
『ハルのしょうたい』
『きづいた』
「何故そのような事に?」
『わからん』
『ちょっかん?』
『ふぃーりんぐ?』
なにそれ……。
また超人の類ですか……。
この世界、やっぱりなんかおかしくない?
いやでも、コレットちゃんってお兄さんの件は気付いてないんだよね? そんなに鋭いわけじゃない? ならあれか? フロルが好きすぎてフロルに対してだけやたらと高い精度の嗅覚を持っているのか?
「まあコレットならば仕方なかろう。
よい。わらわが出向こう。
わらわから言い聞かせればすぐに納得するからな」
「いっそ連れて来ちゃえば?」
「良いのか?
ならば是非頼みたいのだが」
「私がコレットちゃん寝取っていいなら」
「お主、まだ顔も見たこと無いのであろう?」
「いや、見たよ。一瞬だけど」
うろ覚えだけど。
まあ可愛らしい女の子だったのは間違いない。
「まったく。まあ良い。好きにせよ」
「え? 良いの? 本当に?」
「クドい。あれもまた我が妹だ。
家族に迎えてもらえるならこちらとしても有り難い」
「その割には言い出さなかったわね」
「……会えばわかる」
なんか。なんだろう。
渋々とも苦々しいともちょっと違うけど。
何か呆れというか諦めというか頭痛が痛そうというか。
フロルが何かそんな感じの微妙な表情を浮かべてしまった。
「もしかして放っておくつもりだった?」
「わらわとは距離を置くべきなのかもしれん」
なるほど。心配なのか。
むしろ内心、コレットちゃんが私に靡くなら都合が良いと思ってそうね。いや、それもそれで苦渋の決断なのかもしれないけど。どっちもどっちなのかな?
さて。コレットちゃんはどんな娘かしら。
既にマノンとキャラ被りしそうな気配も漂ってるけど。
ちょっと不安のような楽しみなような。
とにかく私にも心を開いてくれると嬉しいな♪




