39-15.おひらき
「「はぁはぁはぁはぁ……はぁ~……」」
遂に体力を使い果たして二人が倒れ伏した。
「これ私の勝ちで良いのよね?」
「認めよう。余は間違いなくこの決闘の結果を見届けた。
勝者である君は何を望むのかね?」
「う~ん……取り敢えずハグかな?
勿論ツムギとお義母様でだよ。今晩は二人で過ごしてね。
夕食もまだでしょ? 特別な部屋を用意してあげるわ。
一緒にお風呂入って、一緒に布団に入って、ゆっくりすごしなさいな。母娘二人仲良くね♪」
ツムギとお義母様を私世界に送り込んだ。
頑固過ぎるお義母様にはここらでガツンと力の差を見せつけておこう。シーちゃんのホテルに一泊すれば、私の強大さが分かるだろう。シーちゃんだけでなくフロルとステラもいるし、現地の案内役は十分だ。
「マノンとナディも帰りましょう。アニエスはどうする?
久しぶりにアレクシアさんと過ごしたら如何?」
「うん。そうする。
ありがとう。アル姉」
「いいえ~♪」
続けてマノンとナディも取り込んだ。
これでアニエス以外で残っているのは私とノアちゃんだけだ。
「お義父様、悪いけどお義母様一晩借りるわね。
今日は一旦お開きにして頂けるかしら?」
「……ああ。うむ。すまんな。
このような事で手を煩わせて」
ほんとよ。まったくもうだわ。
「水臭いこと言わないで下さいな♪
お嫁さんの実家の事ですもの。おほほ♪」
『内心と言葉が正反対じゃない』
うるさいやい。
まあでも、眼の前で王妃の姿が消えても驚く様子もない王様は流石ね。単に慣れただけだろうけど。既に転移は何度も見せたことあるし。
実は私世界に移動させるのは転移とはまた別物なのだけど、その辺りの細かい事を言っても意味はあるまい。王妃本人も区別なんぞつかないだろうしね。私世界の事は一々説明する必要もつもりもないのだ。
「アレクシアさん。今度またお茶しに来るわね」
「ええ。待ってるわ」
アニエスの件も話を進めたいからね。
いっそマリアさんにも来てもらって、三人で話をするとしよう。私達は年も近いしさぞかし盛り上がる事だろう。
「それでは、皆様。
私共はこれにて失礼させて頂きます」
残された王族の方達に軽く礼をしてその場を離脱する。
無駄に長居して余計な事を話すわけにはいかないものね。
だいぶ強引になってしまったけど、こればかりは仕方ない。
「やっと終わったわね。ノアちゃん」
「説明を。アルカ」
「え? あれ? 何で怒ってるの?」
「何故王妃様を攫ってしまったのですか?」
ああ。あれアドリブだったからね。
ノアちゃんに許可貰ってなかったものね。
「一晩だけだから。
これ以上話し合いに付き合うわけにもいかないでしょ」
「一晩寝食を共にする程度ならあの城でも良かったのでは?
普通に里帰りさせておけばよかったじゃないですか」
「ダメよそれじゃあ。
先ずは王妃の立場とも切り離させないと。
人の目があれば意地を張ってしまうもの」
「まったく。今回だけですよ。
本当は部外者にアルカ世界を見せるのは反対なんです」
「私だってこんな機会でもなければ入れたりしないわ。
けど必要な事だもの。ついでに少しフロルと話す機会も作ってあげたかったし」
「フロルの下に送ったのですか?」
「ええ。最初だけね。
勿論私達も行くわよ。今から少しだけ飲み会よ。
ムスペル組と私とノアちゃんでね」
早くツムギとお義母様の二人きりにさせなきゃだし、本当に少しだけだけど。
それにお子様なマノンも一緒だからね。羽目を外しすぎないようにしないとだ。
「ならクレアさんも呼んであげたらどうです?」
「いっそマリアさんも呼んじゃう?」
「調子に乗らないで下さい」
ノアちゃんが言い出したのにぃ~。
「ならクレアはやめておきましょう。
別に王族とは大して面識もないんだし」
それにクレアは亡きシルヴァン王子の想い人だ。
王妃がどう思っていたのかは未知数だし、今引き合わせるのは得策でもないだろう。
「きっと相性良いですよ。二人は」
食い下がるわね。珍しい。
私と同じことに気付いてはいるでしょうに。
「それでもよ。また今度ね。
マリアさんもいる時にしましょう」
「……そうですね」
せめてセレネだけでも呼んでおく?
いや、もうルビィと寝てるかな?
だいぶ遅い時間だし。王妃とツムギ、結構粘ったからね。
「さあ、行きましょう。ノアちゃん」
ノアちゃんを連れて私世界に移動する。
早速何時ものバーに向かうと、ソファに寝かされたツムギとお義母様に加えて、マノン、ナディ、ステラ、フロルが揃っていた。
「失敗したわね。
二人とも寝ちゃってるじゃない。
このまま朝まで起きないんじゃない?」
精根尽き果ててフカフカのソファに横たえられたのだ。
早々に寝落ちするのも当然の話だ。
「ご安心下さい。マスター。
体力回復の為に一時的に眠らせたのです。
もう数分程で目を覚まします」
まさか一服盛っちゃったの?
それは逆にマズくない?
ま、いっか。
「ほれ、アルカ。はよ酒をもて。
お主が着かねば始まらんだろうが」
フロルは豪胆ね~。
まあでも一応、私を立ててくれるつもりのようだ。
中々物わかりの良い皇帝陛下だ。
「っ……ここは……?」
暫く飲み進めていると、シーちゃんの言った通りお義母様
が目を覚ました。
「はい、水。
これ飲んで」
先に目覚めていたが為に皆に言われて渋々お義母様を膝枕していたツムギが、お義母様の身体を起こしてから水の入ったコップを握らせた。
「……」
お義母様は覚悟を決めたような表情で一気にコップを仰いだ。まるで自決用の毒でも飲むかのような勢いだ。失礼しちゃうわね。もう。
いやま、実際何か飲ませちゃったけどね。シーちゃんが。
先程は失礼しました。
「よし。これで役者は揃ったな。
ほれ、アルカ。仕切り直さんか」
「はいはい。仰せのままに皇帝陛下。
それじゃあ皆。グラスを手に持って。
改めて、これから仲良くやっていきましょう。
かんぱ~い!!」
「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」
「……なんですこれは」
どうやら急な進行に戸惑って一人出遅れたようだ。
もっかいやっとく?




