39-13.突撃家族会議
「なんですか貴方達は!」
あれ?
もしかして私の顔も?
そっか。王妃、私との決闘は忘れてるんだった。
「初めましてお義母様。
私はアルカ。冒険者、いえ、とある地を治める者です。
ベアトリスとの結婚を認めて頂く為、挨拶に参りました」
「なっ!?」
王妃の顔が一瞬で怒りに染まる。
いや、元々だいぶ怒ってたけど。
私の登場で完全に沸点を越えたようだ。
一応、これは作戦通りだけど……。
本当に大丈夫? フロル?
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「そんなもの、アルカ本人が話を付けねば決着せんだろう」
ムスペル王家の現状を聞き終えたフロルはそう言った。
「どういう意味ですか?」
「どうもこうもあるか。
サンドラ王妃の怒りの根本はアルカに対するものだ。
それを精算せずに終われるものか。当事者不在で話し合いもなにもなかろう」
「ですがアルカは」
「関係なかろう。王妃からすればな。
だからいっぺん、アルカが謝ってこい。
いや、違うか。願い出るのだ。ツムギを欲していると。
許可を得ろ。ついでに叱られてこい。話はその後だ」
「「「……」」」
「どうした?」
「フロルって頼りになるのね」
流石皇帝陛下。ハードな人生経験を積んできただけの事はある。
「仕方ありません。
許可を出しましょう。けれど、あくまで娘嫁としてです。
何か力を使うのは禁止ですよ」
「決闘に持ち込まれたら?」
「受けて立ってやれ」
「だそうです。
先にカノンとも話して対応方法を決めておきましょう」
「がってん」
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「わらわはフロリアーナ。隣国ヴァガルの皇帝だ。
そして今は、このアルカを主と戴く者でもある。
此度の件、我が国と貴国の問題でもあるゆえ、口出しさせて頂こう」
そして何故か付いてきたフロル。
私が叱られるついでに、こっちの問題も解消するつもりのようだ。本当に大丈夫? 私が叱られるって本来の目的が半端にならない?
「ステラ!? じゃない!?」
「お主がツムギ、いや、ベアトリスであったか。
妹が世話になっていたようだな。感謝するぞ」
「姉!? ヴァガル皇帝が!? ステラの!?」
アレクシアさんをはじめ、集まった王族達が驚いている。
ステラの存在を知る者も、そうでない者もだ。おそらく後者は単にヴァガル皇帝が自ら乗り込んできた事実に驚いているのだろうけど。
いや、そもそも信じている可能性も低いか。
いくら私が超常の存在だと知られていても、隣国の皇帝が出てくるとか意味わからんだろうし。
「サンドラ王妃よ。事情は全てアルカから聞いている。
かつて我が妹を救い出してくださったそうだな。
そうとも知らずにこの国への侵攻を企てたこと謝罪する。
どうか私の謝意と感謝を受け入れて欲しい」
深々と頭を下げるフロル。
流石に王妃はフロルの皇帝発言を疑っていたわけではないようで、フロルのその行動に驚きを隠しきれてはいなかった。
「おやめください! 皇帝陛下!
貴方様がそのような振る舞いをなされては!」
「うむ。申し訳ないがこれは非公式のものとして頂きたい。
まだ戦端は開かれておらんのだ。どうか寛容な心でご容赦頂きたい」
「当然です!
このような事喧伝出来るわけがございません!」
「まあ、そうだな。
お主が我が妹を拐かしたのは事実だ。
体裁も悪かろう」
「貴方様の行動の話です!!」
なんか、王妃が振り回されてるのちょっと不思議。
フロルのマイペースっぷりに色々追いついていないようだ。
「私の要件はこれだけだ。
虫の良い話とは思うが、我が国と変わらぬ友好を築いていただけるとありがたい」
「え? ムスペルとヴァガルって友好国だったの?
ここ数年は仲悪いって話じゃなかった?」
「おい。口を挟むな。阿呆め」
ちょっと?
私、フロルの主じゃなかった?
この子、思い返してみると素で口悪いわね。
皇帝っていう役職のせいかしら?
それとも色々ありすぎて荒んでる?
「まあだが、そうだな。こちらの内情も説明せねばならんか。そうでなければ、ここ数年疎遠になっていた事に納得もいくまい」
「いえ、その必要はございません。
ヴァガルの政変については存じ上げておりました。
その混乱を幸いと、距離を置いたのは私の一存なのです」
なるほど。
ステラの事がバレないようにか。
口ぶり的に、元々はヴァガルの方が忙しくておざなりになっていたのだろうけど。
でも普通、新しい皇帝が誕生したなら周囲の友好国には真っ先に伝えそうなものだけど? そういう時って協力求めるなり、攻めてこないでねって牽制するんじゃない?
『だからこそでしょ。新しい皇帝が年端もいかない少女だったのだもの。舐められてしまえばお終いよ。今が攻め時とか思われて、戦争でも起こされたら堪らないじゃない。国が安定するまでは接触を控えるのが得策でしょ』
なるへそ。流石イロハ。かしこい。
『バカにしてるのかしら?』
してないってば。
本心本心。
『まったく』
「なるほど。どうりで。
して? 如何かな?」
「その前に一つ確認すべき事がございます」
「アルカとの関係性についてだな」
「はい。既にご存知のようですが、現在我が国ではその者との関係性をはかりかねています。正直な話、ヴァガルがその者の支配下に置かれたと言うのなら関係性を見直さねばなりません」
本当に正直に言うわね。
王様でもないのに。いくらなんでも王妃の権力強すぎない?
「属国と。そう取って頂いて構わない。
私は国を売り払った。妹の側に居る為、アルカに全てを委ねる事にした。この我が身すらも例外ではない」
フロルも正直に言い過ぎよ……。
もうちょっと言い方ってものが……。
「……そうですか」
王妃の顔が引きつってる。これはどういう感情だろう。私への怒りだろうか。先ず間違いなく含まれてはいるだろうけど、それだけでもなさそうだ。
フロルは先程のやり取りを踏まえた上でこう言ったのだ。即ち、ムスペルとの国交回復を諦めたか、逆にムスペルにも私の存在を受け入れるようにと勧めた事になる。どちらにせよ、ヴァガルとしてはムスペルより私個人の方が重要だと告げたのだ。そりゃぁこんな顔にもなるよね。
「母様。ヴァガルの件は母様の行動が原因よ。
皇帝陛下はステラと共に居たくてアルカの軍門に下ったのよ。そこで怒りを抱くのは筋違いだわ」
ツムギん、ありがとう。
けどチャンスとばかりに責めるのは止めましょう。
話拗れるから。
「……わかっています」
ほんとに?
めっちゃ複雑そうだよ?
「サンドラ王妃の気持ちはよくわかる。
私もアルカの第一印象は、それはもう酷いものだった」
ちょっとぉ?
「だがまあ、よくよく話してみればそう悪い人間でもないのだ。いやまあ、人間なのかどうかは疑問の余地が残る所ではあるのだが」
あれぇ?
そんな風に思ってたのぉ?
というか、まさかこの話の為に付いてきたの?
私の良いとこをプレゼンしてくれる気なの?
「だからと言って国を明け渡すなど」
「そこを突かれると苦しいものだ。
何せ私も半ば無理やり拐かされたようなものだしな。
本当に覚悟が決まったのは後からなのだ」
実はジェットコースターに惚れただけだったりしない?
そもそも、フロルにとっては皇帝の立場なんて何かのついででしかないのかもしれない。ステラを取り戻すため、復讐を果たした者としての責任として、ヴァガルの安定を目指す責務があると考えていただけなのかもしれない。もしくは、何かお兄さんとの約束でもあったのかもしれない。流石にそんな事を隣国の王族達の前で言うつもりはないだろうけれど。
「アルカの力があれば我が国は飛躍的に成長を遂げることだろう。それは民の幸せにも繋がるはずだ。ならば私に出来るのはアルカとの友好的な関係を維持する事だけだ。既に巻き込まれてしまったのだ。そこを今更とやかく言っても仕方あるまい。どの道抗う手段など存在せんのだ」
「うっ……」
脳内王妃様が特大の刃で貫かれた。
まるで自らの行いを咎められたかのように感じた事だろう。
フロル。えげつない。
「私の話はそんな所だ。
良き返事を期待しておるよ」
フロルは最後に王様にも挨拶をしてから私世界に帰っていった。後は私に任せるつもりのようだ。
さてどうしよう。
だいぶ場が温まっているようだ。
主に王妃様の怒りの熱で。
どうしてさっきは反省した風だったのに、また怒りに燃えてるの? やっぱ個人的に私の事が気に入らないだけだったりしない?
『今更気付いたの?』
いや、なんとなくそうかなとは思ってたけどさ……。
マジで?
「アルカさん」
「はい。お義母様」
ブチッと王妃の額から音が聞こえた気がした。
「あなたに決闘を申し込みます」
良いけど、ワンパターンすぎない?
実はこの人、結構な脳筋さんだったりしない?




