39-6.悪役
「お前らはいったい何を言っているんだ……。
何故私がこやつの伴侶になると思うのだ。
まるで意味がわからんぞ」
どうせなら本気で伴侶に勧誘しようと会話を続けていると、フロルはまたも頭を抱えてしまった。
『珍しいですね。
アルカが口説くのを失敗するなんて。
フロルは全然靡く様子がありません』
『これもしかしてあれかしら?
レリアの干渉が無くなったからとか?』
『それか単に、ステラの事でいっぱいなのかもしれません』
そりゃそうか。
今ゴリ押すのはなんか違うわよね。
ごめん、フロル。つい何時ものノリでやっちゃった。
取り敢えず暫く皇帝業はお休みしてもらって、ステラと親睦を深めさせてみよう。何れフロルも落ち着くだろう。それから私の番だ。口説くのはその時だ。
「ステラ、暫く私世界で暮らしてもらえる?
今すぐ皆と一緒じゃ落ち着かないだろうから」
「畏まりました。アルカ様」
「お願いね。
アニエス達を驚かせてあげなさい♪」
「はい。きっと驚きます」
ふふ。何せステラが二人に増えたからね。
ツムギに会わせるタイミングは気をつけなきゃ。
出来れば王妃の件が落ち着いてからにしたい。
「ごめんね、フロル。急すぎたよね。
先ずはステラとゆっくりしていて。
色々落ち着いたらまた会いに行くから」
「会いに行く?」
「気にしないで。じゃあ、また後でね」
フロルとステラを私世界に取り込んだ。
後は何時も通りシーちゃん達に任せよう。
「ハルちゃん、もう一人の子ってどんな感じ?」
ハルちゃんはさっきフロルの記憶も全部引き継いだのだ。
私達は戻る前に、ヴァガル帝国の内情を調べて状況を整理しておく必要がある。統治の方針も決めておかなきゃ。
全部ハルちゃん任せだと好き放題しちゃうだろうし。
「いもうと」
「はらちがい」
「フロルとステラのですね。
ならご両親は既に?」
「ははおや」
「いきてる」
「じっか」
「かえされた」
「ああ。
本当に誰も彼も処刑してしまったわけではないのですね。
その子は何故ついていかなかったのですか?」
「フロルのため」
「フロルすき」
「母親よりも?」
「うん」
また色々問題がありそうだ。
「何故実家に戻されたのですか?」
「にがした」
「こものたち」
「フロルのさく」
「逆にフロルが直接手にかけたのは?」
「……」
「ハルちゃん?」
「ひとりだけ」
「どゆこと?」
「こっかてんぷく」
「しゅぼうしゃ」
「あに」
なんかややこしい話になってきた。
「しんそう」
「おおやけ」
「さがある」
「フロルいってた」
「ごちゃまぜ」
「ステラに」
「うそついてた」
「フロル」
「ひとりじゃない」
「みかたいた」
「それがお兄さん?」
「そう」
「フロルのため」
「ステラのため」
「コレットのため」
「あにがんばった」
「コレットとは例の?」
「そう」
「さっきいたこ」
「お兄さんはいったい何をしたの?
なんでフロルは話さなかったの?」
「やくそく」
「あにとの」
「ならそれは暴くべき話ではありませんね。
フロルが話すのを待ちましょう」
「まだひとつ」
「何ハルちゃん?」
「こうかいと」
「にくしみ」
「しんじつ」
「フロルじしん」
「うそのつもり」
「ない」
「あにのしたこと」
「じぶんのしたこと」
「ぜんぶせおう」
「そのつもり」
「ステラ」
「たいせつ」
「まちがいない」
「わかった。
今はそれで十分よ」
「まだ」
「ほんだいここから」
「続けて」
「あに」
「わるもの」
「くにをみだした」
「フロルがうった」
「そういうずしき」
「それがおおやけ」
「コレット」
「しんじてる」
「そのはなし」
「あにの」
「もくろみどおり」
「結局全部話しちゃったじゃないですか。
つまりお兄さんは復讐に燃えるフロルが手を汚さないようにしたかったのですね。その為に自ら両親を討ち、その上でフロルに討たれたと。フロルも全てを理解した上でお兄さんとの約束を守るために口を閉ざしていると」
けど必要な事なのか。コレットという子を誘うなら。
そのすれ違いを理解しておかなきゃいけないのか。
フロルの地雷を踏まないようにするためには。
「ハルの言いたい事はわかりました。フロルの前でそのお兄さんを貶めるような言葉は避けましょう。けれど、コレットやこの国の人達がお兄さんを大罪人だと認識している事も覚えておきましょう」
どうりでフロルを敬う者達がいるわけだ。
虐殺皇帝として恐れられるような事がなかったのも、そのお兄さんのおかげなのだろう。
「コレットちゃんを誘うのは止めておかない?
少なくともフロルに余裕ができるまでは」
「そうですね。
今は時期尚早かもしれません」
どの道何れは誘うことになるでしょうけどね。
きっとフロルはステラだけでなくコレットちゃんの事も愛しているのだろうから。今はただ余裕が無いだけで。なんなら明日にでもコレットちゃんを迎えに行きたいと言うかもだし。
「その代わりハルちゃんが色々仕込んでおいて。
フロルのフリしてる間にね」
「まかせろ」
「まさに悪役ですね。
皇帝になりすましたあげく、皇帝を慕う少女まで洗脳するなんて」
「洗脳とか言わないでよ。
別に無理やりなにかするわけじゃないわ。フロルの憂いを少しでも取り除いてあげるだけよ。もちろん勝手に全てをバラしたりもしないわ。ただフロルが秘密を明かす時に、少しでもショックを和らげられるようにしておくだけよ」
「干渉し過ぎですね。
このままヴァガルは傘下に収めるのですか?」
「そうしましょう。
どう見てもここ人手足りてないもの。フロルはお茶が趣味だなんて言っていたけど、本当に信頼できる人はきっと少ないはずよ」
「私達も手は足りていないのですが」
「なるようになるわ。
最悪、ハルちゃんに全部任せたっていいんだし」
「むちゃいうな」
「さすがにむり」
「「え?」」
「くにうごかす」
「たいへん」
「ひとりじゃむり」
「とうぜん」
「分体達をフルで使っても?」
「それいみない」
「にんげんのくに」
「にんげんのもの」
「まあそりゃそうだけどさ。
やろうと思えば出来るんでしょ?」
「とうぜん」
「けど」
「そのかてい」
「いみない」
「やりすぎない」
「はんちゅう」
「じゃないと」
「フロルに」
「かえせない」
「「……」」
ハルちゃん?
本当にこれはハルちゃん?
いったいどうしちゃったの?
まさかお仕置きボックスのおかげ?
ついに良心が目覚めたの?
「しつれいな」
「アルカこそ」
「ちょうしのりすぎ」
「すこしへん」
「そうかしら?」
「いいえ。
ハルの方がらしくないです。
アルカは平常運転です」
「むむ」
「まあらしくないとは言いましたが、これは良い事です。
ハルも自重を覚えたのですね。感激です」
「むぅ」
なんか納得いってない感じだ。
でも仕方ない。これは日頃の行いのせいだもの。
最近は特に調子に乗ってたし。
逆に色々やって満足したのかもしれない。
もしくはフロルの記憶を貰った影響かもしれない。
ハルちゃんも結構、影響されやすいからね。
ふふ♪何にせよ良い事なのは間違いないわね♪




