38-55.暴走と反省
「はぁ……」
私はノアちゃんを連れて教会に出頭した。
これはもうセレネに叱ってもらうしか無い。
正直私の手には負えない。不甲斐ない。
しかも今回は神様を新しく生み出してしまったのだ。
セレネにとっては決して許せない話だろう。
「「ごめんなさい」」
ノアちゃんと一緒に頭を下げる。
「ちっ」
!?
今舌打ちした!?
やっぱセレネブチギレてる……。
「あんたら自分達が何したのか本当にわかってるんでしょうね?」
「「はい……」」
「はぁ……」
セレネは呆れ果てて、それ以上言葉も出ないようだ。
これには流石のノアちゃんも反省の気配を放っている。
顔は確認出来ないけど。この状況で余所見する勇気はない。
「イオスも一度は見逃したのね?」
「たぶん。そうです」
思わず私も敬語になってしまう。
セレネの怒りがそれだけひしひしと伝わってくる。
「ならまあ、最悪の事態だけは避けられたのかもしれないわね。今後どうなるかまではわからないけれど」
「イオスにも強く言い聞かせておきます」
「あのねぇ。アルカ。
あなた誰一人制御出来てないじゃない。
そんな状態で言ったって信じられるわけ無いでしょ」
「はい……仰るとおりです……」
「ほんと、しっかりしなさいよ……。
出来ないなら側近なんて解体してしまいなさい」
「それは……ごめんなさい……」
「はぁ~……」
重苦しい沈黙がその場を支配する。
「セレネ」
「ノアは黙っていなさい。
今は話したくないわ」
「はい……」
あぅ……。
「話はわかったわ。
今日はもう帰りましょう。
今更騒いだ所でどうにもならないもの」
セレネはそのまま帰り支度を始めた。
黙って成り行きを見守っていたグリアやクレア達も準備を済ませ、各々転移で戻っていった。
「ほんと。
どうしたものかしらね」
セレネが独り言のように呟いた。
先程までの怒りが嘘のように静かな声音だ。
「アルカの側にいる子達が暴走してしまうのはわかるの。
きっとアルカの力を自分のものだと勘違いしてしまうのよね。何でも出来る気になって、気持ちが大きくなってしまうの」
セレネは私達に視線を向けず、手を動かしながら言葉を続けた。
「私だって同じよ。
一緒にいれば暴走してしまうわ。
アルカを守るため。他の誰かを守るため。
きっと手段を選ばずにやりすぎてしまう」
そうなのかもしれない。
「皆、力に振り回されているの。持て余しているのよ。
私達は皆未熟なの。自分を制御しきれる程、人生経験を積んでない。なのにそれを全部アルカ任せにしたって上手くいくわけがない。かと言って、止めるための人員を配置しても取り込まれてしまう。万事休すね。対策のしようも無いわ」
セレネはまるで自分にも呆れているかのような、投げやりな笑みを浮かべている。
「もういっそ、皆で好き放題してみる?
沢山痛い目にあって、それから学んでいく?
誰かを失って、それでも笑い合えるくらい強くなったら、初めて一人前になれるのかしら?」
「ダメです。それでは」
「そうね。一度でも放りだしてしまえば、きっと取り返しがつかないわ。無駄だとわかっていても、心を律し続けるのは必要な事よ」
「すみませんでした」
「ノアは今回どうして暴走してしまったの?
神を生み出すのはダメだって、ニクスにも言われていたわよね?」
「……深く考えていませんでした」
「どうかしらね。
きっと考えたって答えは変わらなかったんじゃない?」
「それは……」
「リヴィの事だって大切だものね。
比べられるようなものではないけれど、アルカと変わらないくら大切なんだものね。心配で心配で堪らないのよね。
気持ちはよくわかるわ。私もルビィに何かあったらと思うと気が気ではないもの。ルビィの為なら、後先考えずに力を求めるでしょうね。だから私にはノアを叱る資格なんて無いのかもしれない」
「いえ……」
「けど、それでもよ。
今回ノアは私達の想いを踏みにじったの。
アルカを神にさせないって誓いを無視したの。ましてや、神の創造なんて原初神にしか出来ない事だと聞かされていたのに。ノアはアルカを押し込んでしまったの。その領域に。
それは到底許される事では無いわよね?」
「はい」
「もう謝って済む問題ではないわ。
もちろん、ノアだけの責任だとも思ってない。
今回が偶々ノアの番だったというだけの話よ。
結局、全ての責任はアルカにあるの。そして皆にあるの。
この問題は皆で考えていく必要があるわ。
同じことを繰り返さないために。
アルカを失わない為に。
わかるわね?」
「はい」
「なら帰りましょう。
皆で話し合いましょう。
何があったのか全て伝えて。
危機感と痛みを植え付けましょう。
次の誰かがちゃんと立ち止まれるように。
他の誰かを止められるように。
皆で成長していきましょう」
「はい」
「けど、アルカ。
あなたはもう少ししっかりなさい。
大人として、私達を導きなさい。
主として、私達を御しなさい。
あなたには責任があるわ。
私達を悲しませてはダメよ」
「うん」
「イオスの制御、頑張りなさい。
決して、神になるのは認めないわ」
「うん。約束する」
「仕方ないわね。
信じてあげるわ」
「ありがとう、セレネ」
「お説教はお終いよ。私からはね。
カノンとセフィはきっとこんなものじゃないわよ」
「「……うん」」




