38-48.恩返し
「もう一度じゃ!!」
あかん。
飽きてきた。
「次はこっちやってみない?
旅パ持ち寄ってバトルしようよ」
「それ一人用ですよね?
しかもバトルって、マ◯カ以上に初見殺しですよね?」
「狡いです。流石小春先輩。狡いです」
何で二回言ったの?
「でもほら、これ私も知らないやつだし。
多分、お姉ちゃんの記憶から再現したやつでしょ?」
SとV?
『違います。マスター。
これはハルの未来知識を参考にしています。
ミユキにも知り得ないデータです』
どゆこと?
なんでハルちゃんはあの世界の最新情報知ってるの?
『ちなみにこの時間軸ではまだ誕生していません』
だよね。
どころか、ルーシィの時間軸でだってまだじゃない?
ルーシィは精々数百歳って話だし。
これはどういう事?
ミーちゃんの話からするなら私がこの世界に来てからまだ一日、二日って所だ。あの世界、時間の流れが遅いからね。多分まだBW2とかが出たばかりな気がする。
こっちの世界で後数百年経ったって、向こうの世界では精々数十日しか経過しないはずだ。
ハルちゃん、いったい何やったの?
大丈夫かなぁ。タイムパラドックスとか起きないかなぁ。
まあ今更か……。
「なんじゃ?
わしの相手はもう飽いたか?」
相変わらずらしくない。
やっぱりなんか元気ないし。
「違うわ。
ほら、ルネル。もう一度よ。
コントローラーを握りなさい」
「うむ」
この方向性じゃダメかしら。
一時的に気を紛らわせられても、結局元通りだ。
『いっそルーシィと戦わせてみたら?
そう約束もしていたじゃない』
今の腑抜けたルネルを戦わせても勝てそうに無いわよ?
『ほっとけ』
『そのうち』
『げんきなる』
まあそうなんでしょうけど。
いっそ例のフィリアス計画さっさと進めない?
ルネルにも専属付けてあげればメンタルケアにもなるんじゃない?
『ノアのきょか』
出ればすぐ?
『うん』
『設計は済んでいます。
出力して私達の一部を流し込めば完了です』
ハルちゃんシードとシーちゃんのナノマシン?
『そんなとこ』
『最強のフィリアスが誕生する事でしょう』
そこにルネルの経験も追加されるんだもんね。
なんならルネル本人より強くなるかも?
『まちがいない』
『ハル以外は超えられるでしょう』
ハルちゃんは私と直結してるからね。
他のフィリアスとは存在の格が違いすぎるんだよね。
もはやフィリアスより神とかそっちに近いんだろうし。
だからシーちゃんもフィリアスとしてカウントしていないのだろう。
『不公平だわ』
イロハなら融合して良いって言ってるじゃん。
イロハがダメって言ってるだけで。
『しましょう』
良いの?
『もう今のハルなら心配いらないわ』
イロハがそう言うなら私に否は無いわ。
『今すぐ潜るわよ』
後にして。
今はルネルの事優先。
『別に時間はかからないんだから良いじゃない』
ルネルは気付くわ。
私の変化に。
『仕方ないわね』
もう。イロハったら。
「アルカ」
「なに?」
「お主はこういう物で遊んでおったのじゃな」
「うん。そうだよ。
平和な世界なの。
強くなる必要もない世界」
勿論、何の努力も必要ないというわけじゃない。
けどこの世界よりはずっと生きやすい世界だ。
少なくとも神と戦う事は無かっただろう。
「ルネルも行ってみたい?」
「……」
「もう戦うのは嫌になった?
それでも良いよ。私が守ってあげるから。
側で笑っていてくれたら、他は何をしていてもいいよ。
ゲームをして、お酒を飲んで、お風呂に入って。
ただそれだけの繰り返し。そんな生活をしても良いの。
ルネルはもう十分頑張ったもん。
ルネルが居てくれたから私は生きてるの。
皆が集まって家族が出来たのだってルネルのお陰よ。
だから遠慮しないで。後の事は私達に任せておいて」
「……生意気な事を」
「ルネルに勝ってあげる。
そしたら安心できるでしょ?
何も気にせず、守られる側でいられるでしょ?」
「調子に乗るでない」
「あ!ちょっと!」
「油断しおって。
やはりお主はまだまだじゃな」
結局その後一度もルネルに勝つことは出来なかった。
ゲームの腕もメキメキ上がっていくのだ。
このおばあちゃん、まだまだ現役だ。
引退を勧めるには早すぎたようだ。
私も精進しよう。
せめてルネルを楽しませられる程度には。




