8-1.入国
町を出た私とノアちゃんは、
まずドワーフ爺さんの店を訪れた。
今回の戦いで杖の力をそれなりに使ってしまっていたので、
メンテンナンスを依頼していたのだ。
以前のドワーフの国の時程では無かったので、
見た目には破損こそしていなかったものの、
ダンジョンコアの制御を奪う魔道具の制作が
必要無くなった事を伝えるついでに診てもらうことにした。
そして、今日は預けていた杖を受け取りに来たのだ。
「ついでに機能を追加しておいたぞ」
私に杖を差し出しながら、
爺さんはそんな事を言いだした。
なんですって!?
ただでさえまだ使いこなせているとは言い難いのに!
「なんでまた?」
「例の魔道具の素材が余ってのう。
ついでじゃついで」
受け取った杖を見てみるが、
見た目には違いがわからない。
いったいどんな技術なのだろうか。
「まあ、ありがたく思っておくわ。
どんな機能を付けたの?」
「お前さんなら使えばわかるとも」
爺さんはあまり説明が好きじゃないのか、
大体こんな感じに返してくる。
いいんかそれで・・・
というか、ノアちゃんにはいつもノリノリで説明してるじゃない!
孫がそんなに可愛いのか!
娘にもっと優しくしないか!
冗談はともかく、
実際本当に使うとわかるのがまたわけがわからない。
私は別に杖が無くたって魔法は使える。
とはいえ、命を預ける物を十全に把握していないなんて、
本当は良くない事だ。
この杖の真の力のように、
特定の条件が揃わないと全力が振るえない場合もある。
何か緊急時の手札が一つ増えるかもくらいに思っておくべきだろう。
そもそも私はこの杖の力に頼らず、
自分自身を強くすると決めたのだから。
私とノアちゃんは爺さんの店を後にして、
エルフの国の側に転移する。
「森ですか?
直接エルフさん達の所には行かないんですか?」
ノアちゃんが戸惑っているのは、
私が転移した先が森と平野の境目にあたる所で、
周囲には町が見当たらないからだ。
「私一人ならともかく今回はノアちゃんも一緒だからね。
初めて行くならちゃんとお伺いをたてないといけないのよ」
「ノアちゃんは私の側を絶対に離れないでね。
この先に進むとエルフ達に囲まれるから。
警告を無視して進み続けると攻撃されるわ」
「わかりました」
ノアちゃんはそう言って私の手を握る。
私はそのまま森に向かって歩き出す。
「何者だ!人間族がこの森に何の用だ!」
私達が森に入ってしばらくすると、
どこからかそんな声が聞こえてくる。
「アルカが来た。ルネルに伝えて」
「アルカだと?貴様その名前を我々に向かって名乗るのがどういう意味かわかっているのか!」
「おい!待て!本当にアルカかもしれんぞ!
ルネルの事も知っているようじゃないか」
「何を言っている!アルカとは似ても似つかないでは無いか!」
「人間族の成長速度は我々とは違う。
成長したのかもしれんではないか」
「だがしかし、最後にアルカが来たのはつい先日だぞ!?
いくらなんでも変わり過ぎだろう」
なんか、警告してきた声の人達が
大声で相談事を始めてしまった。
これいつまで続くんだろう。
「アルカが人の名前を覚えているなんて珍しいですね」
遂に退屈になったのか、ノアちゃんがそんな事を聞きはじめる。
普段は空気を呼んで、こんな時に余計な事は言わないのだけど、
相手の方もしばらく続きそうと判断したのだろう。
「ちょっと昔お世話になってね。
少しの間一緒に旅をしたの」
「それは驚きです!
アルカにそんな人がいたなんて!」
「ほんの少しよ?
魔法戦を教えてくれた師匠みたいな人なの。
ルネルに連れられてこの国に来たことがあったの。
その時にいろいろあって私なら何時でも歓迎って言ってくれたのだけど、
この展開は正直ちょっと予想外だったわ」
私達の会話を聞いていたのか、
いつの間にか静かになっていたエルフ達。
そして、数人のエルフが私達の前に姿を表した。
「アルカ!良くぞ来てくれた!
歓迎するぞ!皆待っていたのだ」
どうやら、さっきのやりとりは無かったことにするらしい。
「ありがとう。
この子も良い?
私の娘」
「アルカの娘?
いやでも獣人?」
「アルカの娘です。
名前はノアです」
ノアちゃんは空気を呼んだ。
いつもならお守りに訂正するのに。
「いろいろあったの」
「まあ、アルカの事だしな。
良いだろう。アルカの娘ならば否とは言うまい」
私とノアちゃんはエルフ達に連れられて、
森の奥に進んでいく。