7-11.顛末
あれから数日かけて、
町の周囲を片付けていく。
冒険者だけでなく、町に住む多くの人々も協力してくれた。
そうして、長い時間をかけてようやく事態が落ち着いた。
私はギルド長さんといつもの会議室で向かいあう。
「あの男は私に何度も邪魔されたと言っていた。
もしかしたら、敵の組織は私に恨みを持つ者に近づいて、
力を与えているのかもしれない」
今回の犯人は話を聞く限りダンジョン暴走を起こしていた男とは別人のはずだ。
魔道具に詳しいわけではなさそうだったし、
ドワーフの事は知らなかった。
何より、魔道具を貰ったのは最近だとも言っていた。
あの暴走事件からも既に数ヶ月はたっている。
「流石にそれはだけではあるまい。
今回はたまたまかもしれんし、
そもそも組織自体はそれなりに前から存在しているはずだ。
ギルド本部にまで関与しているのだからな」
「そうね。その組織の目的自体は何かも考えておくべきね。
あの男を始末してしまったのは早まったかしら」
「しかたあるまい。コアを持っている以上、
拘束した所で逃げられる可能性は高かったのだから」
「まあね。
それに、あの状況で嘘を付けそうにも見えなかったし、
本人の言う通り下っ端か単なる捨て駒でしかなかったのでしょうし
どのみちよね。」
「ここまで大きな事件を起こしておいて、
姿どころか尻尾も見せないなど敵も相当強かだ。
これからもちょっかいをかけてくる可能性は高い。
今更言うまでもないが、用心してくれ」
「ええ。そうね。
ともかく、私はこの町を離れるわ。
今また襲われたらこの町に対処する体力はもう無いもの。
ギルド本部にその事を報告しておいてくれる?」
「ああ。すまないな。
本部への連絡も任せてくれ。
上手く敵にも情報が渡るように伝えておく」
「ありがとう。助かるわ」
「それはこちらのセリフだ。
次はどこにいくつもりなんだ?」
「まだ悩んでいるわ。
人里離れた所にでも行ったら敵が誘い出せるかしら」
「頼むから一人で戦おうとはしないでくれ。
アルカがやってきた事に恨みを抱く者達がいたとしても、
それ以上に感謝して力になりたい者達も大勢いるんだ」
「確かにアルカとノアだけなら簡単に逃げられるだろう。
けれど、お前達は逃げずに立ち向かってしまうのだろう?
ならばせめて、誰かと一緒に戦ってくれ。
力の無い私の言えたことではないが頼む」
「わかったから頭を上げて!
私だって、今回の敵が自分一人でどうにか出来るなんて考えてはいないわ」
「そうか。それは良かった」
「なら一先ずエルフの国を目指す事にするわ。
あそこなら何か新しい魔法が学べるかもしれないし」
「エルフの国だと?
人間が入れるような場所じゃないだろう。
彼らは排他的だ」
「大丈夫よ。昔ちょっとあってツテがあるから」
「なるほど。お前らしいな。
いらぬ心配だった」
「ならば、せめて送別会でも開かせてもらおう。
遅くなったが飲みに行くという約束もあったしな」
「ありがとう。
ノアちゃんも喜ぶだろうし
参加させてもらうわ」
その後、張り切ったギルド長さんは、
その日の内に送別会を開催してくれた。
そこには生き残った冒険者達だけでなく、
一部の町の人々までも参加して、大いに盛り上がった。
事件解決のお祝いも兼ねているのだろう。
「あ~りゅ~かぁ~」
誰よ!ノアちゃんにお酒飲ませた不届き者は!
別にこの世界に飲酒の年齢制限なんてないけど!
ノアちゃんは私に近づいて来るなり膝に乗って、
正面から抱きついてゴロゴロと喉を鳴らして甘えてくる。
「ノアちゃん?一体どれくらいお酒飲んじゃったの?」
「おしゃけぇ~?わかんにゃぁ~い」
「こいつ一口しか飲んでないぞ」
ギルド長さんが隣に腰掛けながらそんな事を言う。
「あなたが飲ませたの!?」
「いっいや、自分からだ!
私が無理やり飲ませたわけじゃない。
心配ならなんで目を離した」
私の放つ威圧感に少し驚きながらギルド長さんは答える。
「人が多すぎるのよ・・・
顔を上げている余裕が無いわ」
「なんだお前、結局人見知りは治ってないのか。
私とは普通に話せるようになったのに」
「仕方ないでしょ!」
「ありゅか~おこりゃにゃいで~」
私とギルド長さんの会話に反応したノアちゃんが
そう言いながら、私の顔を舐めてくる。
なんか、完全に猫みたいになってるんですけど!
ノアちゃんって酔っ払うとこんなんなるの!
「あ~りゅ~かぁ~」
なんか名前を呼びながらニコニコしてる。
なんだこれ変な扉開きそう!
私は暴走しないよう必死に堪えながら、
ノアちゃんの頭を撫でる。
すると、気持ちよさそうに脱力し、
あっという間に眠ってしまった。
二度とノアちゃんにお酒は飲ますまい。
そう固く決心した。
でも、今度二人きりの時に少しだけ飲ませてみようかな・・・
「3-17」の誤字報告を下さった方、ありがとうございます!
読んで頂けて大変嬉しく思っております!