38-36.備えとケア
「さて、アルカ。
戻ってきたのですし、やるべき事が沢山あります。
何時までも凹んでないで動いて下さい」
ノアちゃんはあっさり元のノアちゃんに戻ってしまった。
セレネの調律とやらは完璧に作用したようだ。
流石セレネ。ノアちゃんの扱いは私より上か。
まあ、セレネが相手なら負けを認めてもいい。
けど後でセレネとノアちゃんと三人きりで深層行こう。
負けっぱなしはあれだからね。
「別に凹んでないし……」
ちょっと正論ぶつけられすぎて泣きそうなだけだし……。
「先ずはアニエス達の所に行きましょう。
会議で決まったことを教えてあげるべきです」
そうね。先ずはそこからよね。
お説教とか受けてる場合じゃなかったわよね。
『また叱られるわよ。
そんな事考えてたら』
あ~あ~ききたくな~い~。
『はいはい』
ノアちゃんと私世界に潜り、アニエス達と合流した。
「今後の方針はこんなところね。
後の事はツムギとマノンに任せなさい」
「うん……」
やはり元気がないアニエス。
本当なら自分も付いて行きたかったのだろう。
「それで、アニエス。それにナディ。
あなた達にプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
「この子達よ」
私は二人のフィリアスを呼び出した。
「私はシャル」
「私はセリア」
シンプルに自己紹介を済ませる二人。
シャルはフィリアスの中では珍しく、少し大人っぽい。
アニエス好みの子だ。
セリアは真面目な雰囲気だ。
奔放気味なナディとはバランスが良さそうだ。
「この娘達はアニエスとナディの担当フィリアスよ。
また国に戻る事もあるでしょうから、用心の為に護衛役を用意したの」
「えっと?」
「口で説明するより、実際にやった方が早いわよね。
ハルちゃん、契約お願い」
『がってん』
説明もそこそこに、いつも通りにアニエス達の契約を済ませた。本当は意思確認もしたかったんだけど、まあ今回は仕方ない。アニエスもそれどころじゃないだろうし。最悪相性悪ければ配置換えすれば済むんだし。
ナディは既にヒサメちゃんが同化していたから特に抵抗なく受け入れてくれた。
「ヒサメちゃん。本当に行っちゃうの?」
「ヒサメも~さみし~」
ヨヨヨと演技っぽく泣きながら抱き合うナディとヒサメちゃん。仲良いわね。この二人。
「ごめんね、ナディ。
ヒサメちゃんは私の側に置きたいの」
リリカともその方が接点増えるのだ。
引き離すのは心苦しいが、セリアとの交代を受け入れてもらわねば。
「何時でも好きな時にナディの方にも遊びに行っていいからね。ずっとお仕事があるわけじゃないから。もちろん、ナディとセリアさえ良ければだけど」
「「やった~♪」」
セリアもナディと上手くやってくれるかしら?
ヒサメちゃんと同じくらい、仲良くなってくれると良いのだけど。
「アニエスとシャルはどう?
同化するの初めてで驚いたでしょ?」
「うん。すっごく安心する」
『アニエスの事はお任せ下さいな。アルカ様』
良かった。
こっちは特に問題無いようだ。
「ヒサメちゃんは一度私に同化してくれる?」
ハルちゃんから臨時研修があるからね。
今後は私の側近の一人に加わってもらうのだし。
「がってん~」
残りの側近候補はミヤコとツクヨミだ。
ツクヨミはまだだいぶ先だけど、ミヤコの方はこちらからも行動出来るはずだ。この後イロちゃんズの様子を見て、それからコマチの好感度稼ぎ兼説得もしていかないとだ。コマチの事も考えると、ミヤコの側近加入もまだ少し先になるかなぁ……。
後はリリカも実質側近みたいなものだけど、現場で動いてもらう事にもなるから、結構私の側離れちゃうのよね。
その辺も追々考えよう。出来る限りヒサメちゃんの側にいさせてあげたいし。
「取り敢えず用事はこんなところね。
またツムギ達が帰ってきたら話をしましょう」
「うん。ありがとうアル姉」
アニエスはそう言って私に抱きついた。
私はアニエスを抱き上げて、あやすように優しく背中をたたいた。
「ふふ。もう。私そんな子供じゃないよ?」
「良いじゃない。子供でも。
アニエスはもっと甘えて良いのよ。
何なら、眠るまでこうしててあげようか?」
「まだそんな時間じゃないよ」
「お昼寝タイムよ。って言うにも少し遅いかしら?
お夕寝?まあ、お昼寝で良いわよね。
ナディとノアちゃんも、何ならシャル達にも出てきて貰って、皆でお昼寝しましょ?」
「……いいや。止めとく。
アル姉、忙しいでしょ」
「またそういう事言って。
違うでしょ。甘えて良いって言ってるの」
「……無理だよ」
「アレクシアさんの事が気がかりなのね。
ノアちゃん、ちょっと外すね」
「少しだけですよ」
「うん。約束する」
「アル姉?」
「今から少しだけ様子を見に行ってみましょう。
大きな声を出さないと約束してくれる?」
「うっうん!!約束する!ありがとう!アル姉!」
丁度今なら近くに誰もいないようだ。
ハルちゃんの分体以外は。
私はアニエスだけを連れてニクス世界に戻り、そのままアレクシアさんの下へ転移した。
「お母様!」
「アニ!!」
部屋で一人机に向かっていたアレクシアさん。
部屋の外には見張りが立っているので、二人共声を潜めて喜びあう。
「ごめんね、アニエス。アレクシアさん。
すぐに戻らないといけないの。だから手短にね」
見張りが異変に気付いて様子を見るかもしれないし、誰かがここを訪れないとも限らない。
私とアニエスの姿を見られるわけにはいかない。
それにツムギ達にも内緒で来てるからね。
いつまた転移してくるかもわからないし。
ハルちゃんがヒオリとサクラを通して状況は把握してるから、事前に警告くれるだろうけど。
「さっきツムギとマノンも来てくれたわ。
私は大丈夫よ。軟禁て言ったって、別に牢屋に繋がれてるわけでもないんだから」
「でも!」
「大丈夫。心配しないで、アニ。
信じて任せましょう。
きっと皆が解決してくれるわ」
「うん」
「良い子ね。愛してるわ。アニ。
さあ、もう行きなさい」
「もう少しだけ……ううん。戻るね。お母様」
「ええ。
アルカさん、アニを連れてきてくれてありがとう。
次は全部解決したらまた連れてきて下さるかしら?」
「うん。約束するわ。
またね。アレクシアさん」
「ええ。また」
アレクシアさんとアニエスは最後にもう一度抱きしめあった。




