38-27.積み重ね
「剣一本!?しかも初期レベル!?
無茶に決まってるでしょ!?」
「先ずは手本をお見せしましょう」
ノアちゃんは早速人型形態の魔神に切りかかった。
さすがノアちゃん。イージーモードなら楽勝なようだ。普段のように一撃離脱をするわけでもなく、長刀を使って一方的に連撃を浴びせ続けている。
とはいえ、流石にダメージは殆ど出ていない。
無理もない。初期レベル初期武器でラスボスに挑んでるんだから。恐らく倒し切るにはそれなりに時間がかかるだろう。しかも、一瞬でも気を抜いてしまえばそれでお終いだ。耐久力も紙同然だろうし。
「先輩。あれ撃ってみてもいいですか?」
「良いわけ無いでしょ。
試してみたいのはわかるけど後になさい」
ヤチヨんが新実装された狙撃銃を持って燥いでいる。
新しくなったアイリスには銃火器が増えており、やろうと思えばサバゲーのような事も出来るそうだ。シーちゃんとヤチヨの間で裏取引があったのは間違いない。別にシーちゃんは対価なんて要求しないだろうけど。
今この場には、私達と魔神しか存在しない。
所謂トレーニングモードってやつだ。好きな敵を呼び出して、好きに設定した条件で戦えるのだ。どうやらこれも新機能のようだ。早速戦闘シミュレーターとしての機能を実装してくれたようだ。流石シーちゃん。仕事が速い。
辺りには床以外何も無い空間が永遠と続いている。
つまりヤチヨの的になりそうなものは存在しない。
魔神以外には。
「シーちゃんに新しい敵出してもらえば?」
「援護射撃を試してみたいなと」
誰かが高速戦闘中のところを狙撃したいと。
「ハルカと行ってきたら?」
「行く!」
悪いけど、ちょっと離れたところでお願いね。
「この際それでも構いません。
できれば先輩にも見ていて頂きたかったですが」
なるほど。
後で付き合ってあげよう。
でもごめん。今はツムギ優先で。
後ついでに、ノアちゃんがどれくらいで倒せるのかも気になる。
「ご案内します」
シーちゃんがハルカとヤチヨを伴って姿を消した。
どうやら別エリアに移動したようだ。後で様子を見に行ってあげよう。こっちが終わる前に用が済んで戻って来るかもだけど。
「ねえ、アルカ。
ノア姉さまはどうやってあの強さを手に入れたの?」
マノンは戦闘中のノアちゃんから視線を逸らすことなく、私に問いかけてきた。
「人の何倍も修行したからとしか言いようがないわね」
「お祖母様の方がずっと長く生きているわ」
「そこはほら、環境が違いすぎるから」
むしろ王妃様も十分過ぎる程に凄いけど。
多忙なはずなのに剣聖を上回る程の剣技を身に着けているんだから。とは言えそれも技量だけだ。神力の有無の差で総合的な実力は剣聖に及ばない。もしあの王妃様が才能と環境に恵まれていたなら、私達に迫る強さを身に着けていた可能性だってあるだろう。少しだけ惜しい気もする。
「なんだかズルい気がするわ」
きっと自分自身とツムギの事だろう。
その環境の差を使って無理やり追い抜こうとしているのだ。
マノンはそう考えたに違いない。
「競い合う事にズルいなんて言葉は使うものじゃないわ」
この世界でなら尚の事だ。
多くの人々は必要に迫られて力を得るのだ
そうしなければ守れないものが多すぎるからだ。
「……そうね」
「まあ、マノンの気持ちもわかるけどね。
私が度重なるインチキの上に存在するのは間違いないし」
何せ未来からの干渉を何度も何度も受けてきたのだ。
この世界基準で考えたって理不尽な存在なのは間違いない。
「ふふ。よくわかってるじゃない」
「卑屈になる必要は無いけど、謙虚でいる事も大切よ。
マノンもこれから先どんどん強くなるわ。やろうと思えばムスペルだって丸ごと自分のものに出来てしまうの。それだけの強さを得た時、欲望のままに振る舞ってしまえば、遠からずこの世界と敵対する事になるわ。くれぐれもそれだけは忘れないでね。まあ、マノンに限ってはそんな心配も要らないでしょうけれど」
「……買いかぶりすぎよ」
照れとる照れとる♪
やっぱマノンは可愛いなぁ♪
私はマノンを抱き寄せてから、自分の前に立たせて後ろから腕を回した。マノンは私の手を握り腕に頬をくっつけて、素直に甘え始めた。
「ねえ、マノン」
「なに?」
「ツムギ、無理してないかな」
「してるに決まってるじゃない」
「うん……そうよね……」
「大丈夫よ。
ベア姉さまはとっても強いんだから」
「そう?
すぐ泣き言言うし、逃げ出すし、癇癪起こしてばかりよ?」
「……大丈夫よ。
ベア姉さまは頼りになるんだから」
「ふふ。そうね。
そもそもツムギは頭脳労働担当だものね」
「そうよ。無理させ過ぎなのよ。
どれだけ頑張ったって、向いていないものは向いていないのよ」
「まさかここまでとは思わなかったわ」
まあ、私も似たようなものなんだけども。
より酷いインチキで誤魔化してるだけで。
「そういうのは私がやるわ。
ベア姉さまの分までね」
「マノンもお姫様だよ?
良いんだよ?私の部屋に閉じ込めても。
一生外にも出さず、争いにも関わらせず、甘やかし続けてあげるよ?」
「そんなの御免被るわ」
「あらら。フラレちゃった。
私はこんなにもマノンが大好きなのに」
「愛情が歪んでるわ。
心配しなくても私だってアルカの事が好きよ。
普通に愛し合いましょう」
「普通ってなんだっけ……」
少なくともお嫁さんが四十人いるのは普通とは言わない。
「あなた、本当に満遍なく愛せているの?
私やノア姉さまとかの一部にだけべったりじゃない?」
「それは……自覚してます……」
仕方ないのだ。
そもそも私だけの問題でもないのだ。
皆だって全然自分からは甘えてくれないし。
かと言って、毎日毎日誰かに迫って押し倒してるわけにもいかない。
何だかんだと皆忙しいのだ。
早くスローライフにならないかしら?
全ての憂いが無くなって、一切の仕事もせずに皆で引き込もれるようになるには、あと何年必要なのだろう。数百年で足りるのかすら疑問だ。その頃にはまた家族も増えている事だろう。私達は永遠にこの調子なのかもしれない。
「マノンもいっぱい協力してね。
期待してるわ」
「まったく。仕方のない人ね」
マノンは相変わらずノアちゃんの方へ視線を向けたまま、嬉しそうに呟いた。




